第48話 焔闘者vs暴君
――決闘の始まり
広々とした南庭に、冷たい風が吹き抜ける。
イグニスとクラフトは数メートルの距離を保ち、互いに向き合った。ルールはたった一つ、どちらも武器は持たず、己の拳だけを頼りに戦うこと。
バルコニーから見下ろすフィンが低く呟く。
「……さて、どう出るか」
隣では、エーデルが楽しげに微笑んでいた。
「んふふ、素晴らしい夜ですね。こういう決闘は、心が躍ります」
誰もが息を呑む中、イグニスがゆっくりと拳を握りしめた。指の骨が鳴る音が静寂を裂く。
「――始めようぜ」
次の瞬間、イグニスが地を蹴った。
爆発的な速度で距離を詰め、鋭い拳をクラフトの顔面に叩き込む――
はずだった。
しかし、クラフトは微動だにせず、僅かに首を傾けるだけでそれを避ける。
「遅いな」
不敵な笑みを浮かべたクラフトの拳が、イグニスの腹へと突き込まれる。
ドゴッ!
重たい衝撃が響き、イグニスの体が一瞬揺らぐ。だが、すぐに体勢を立て直し、踏み込むと同時に肘を振り上げた。
クラフトは腕で受け流しつつ、余裕のある口調で言う。
「ほぉ……悪くはない」
イグニスは間髪入れずに左拳を叩き込む。クラフトはそれを軽く躱し、カウンターの右拳を放った。イグニスは咄嗟に身を屈め、ギリギリで回避する。
そして、反撃――
「はっ!」
低い姿勢から跳ね上がるように、強烈なアッパーを放つ。
クラフトは素早く後退しながら回避したが、その目にわずかに驚きの色が浮かんだ。
「……フン、思ったよりも動けるじゃないか」
「お前こそ、口ほどには速くねぇな」
二人は睨み合い、再び間合いを詰める。
イグニスの猛攻が螺旋のように続く。拳が風を裂き、クラフトの顔や腹を狙う。しかし、クラフトは全てを紙一重でかわし、必要最小限の動きで防いでいく。
そして――
「終わりだ」
クラフトの拳がイグニスの顎を狙う。
イグニスはそれを見切り、頭を傾けて回避した――が、次の瞬間、クラフトの膝蹴りが腹部に炸裂した。
「ぐっ……!」
イグニスの体が仰け反る。クラフトはすかさず回し蹴りを放った。
だが――
「まだだっ!」
イグニスは蹴りを腕で受け止め、クラフトの足を掴むと、そのまま強引に引き寄せた。
そして、全力の拳を、クラフトの顔面に叩き込む。
ガッ!
クラフトの顔が横に弾ける。
庭に一瞬、静寂が訪れた。
「……ほう」
口元から血を拭いながら、クラフトが笑う。
「今のは、なかなか良かったぞ」
イグニスも息を切らしながら睨みつける。
「さっきの“終わり”はどうしたよ?」
「...さて、そろそろ本気を出そうか」
クラフトの瞳が鋭く光る。
イグニスも構えを取り直し、炎のように燃える闘志を瞳に宿した。
決闘は、まだ終わらない――。
†
クラフト 能力 『暴君』
人類がまだ”力こそが全て”と信じていた時代より、この星に嵐の如き暴威を振るい、支配ではなく、蹂躙によって世界を制する力を持つ。
†
支配とは秩序ではなく、ただ純粋な”力”によって決まる。
従わせるのではない。屈服させるのだ。
砕き、蹂躙し、すべてを圧倒する。
その暴力の前では、意志も理性も意味をなさない。
絶対的な破壊こそが支配に勝る唯一の法。
──それが、『暴君』という名を持つ、力の化身である。




