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欠落者  作者: 喜國 畏友
喪失編

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第4話 目覚め

 冷たい風が頬をかすめる。乾いた土の香りに混じって、どこか鉄のような匂いがした気がした。


 不意に、誰かの視線を感じた。


 反射的に振り向く——が、そこには何もない。ただ、馬車と行き交う商人たちがせわしなく動いているだけだった。


(気のせい…か…?)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 馬車の車輪が規則的に石畳を叩く音が響く。

 向かう道中、ふと隣に座る人物へと視線を向けた。


 深くフードを被ったその者は、自分を『予言者』と名乗り、名も知らぬまま同行するのは、さすがに落ち着かない。


「ねぇ……名前を聞いても?」


 わずかに沈黙が落ちる。

 闇に沈む横顔が、少しだけ動いた。


 まずいことをしてしまったのだろうか?

 謝るべきだろうか?

 どうしよう? どうすれば.....


「名前かぁ。そうだね〜」

 

 相変わらず優しい口調でそう言われて少し安心した。だが、名前にナニカあるのは確かだ。


 相手はゆっくりと息をつき、まるで慎重に言葉を選ぶようにして告げる。


「ダチュラ.....そう、呼んで」


 どこか異国めいた響きを持つその名を、ひとつ口の中で転がした。


「ダチュラ……か。いい名前だね」


 闇の中で、わずかに相手の肩が揺れた気がした。

それが微笑みなのか、あるいは別の感情なのかは、まだわからない。


 馬車は静かに進んでいく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そういえば、この馬車はどこに向かっているんだろう?

 聞いてみようか。しかし、質問ばかりの面倒な女だと思われるのも嫌だ。

 

 馬車の揺れに身を任せながら、私は隣のダチュラに目を向けた。


「あのさ...そういえば……この馬車って、どこに向かってるの?」


 ダチュラは少し間を置いて、静かに答える。


「アジトだよ。私たちの、ね」


 その声は穏やかだったが、どこか含みがあるようにも感じた。

 闇の中を進む馬車。

 目指す先に、何が待っているのか——まだわからない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 よく夢をみる。

 いっつも、みる同じ夢だ。


 カフェの苦いような甘ったるいような空間と、小学校からの親友と、私のいじめの原因。


 私は、親友の美咲と同じクラスにいた。美咲は、ずっと憧れていた蓮くんに淡い想いを寄せていた。


 蓮くんは、サッカー部のエースでかなりのイケメンだった。

 皆んなが、学校中が、憧れだった。美咲もその1人だった。


 ある日の放課後、いつものように美咲とカフェテリアで話していると、彼女の表情がふと曇った。


 美咲.....彼女が、言うには、彼は私のことが好きなのだという。

 耳を疑った。脳がフリーズした。話をしたことをなかった。

 そこからは、よく覚えていない。


 ただ、気がつけば、美咲は私を避けるようになっていた。

 

 私はどうすれば良かったのだろう?

 分からない。分からなかった。


 文字通り、人生が終わるくらいの失敗だったのだろう。

 でも、もしもこの世界でやり直せるなら.....


 もう一度だけ、頑張ってみてもいいかもしれない。違う。頑張るんだ。誰も私から離れないために。そのためなら.....


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「やぁ、目が覚めたかい?」

 『予言者』の.....いやダチュラの声で脳が完全に覚醒した。


「おはよう」

 短く答えた。笑顔で答えた。

 一日の始まりの挨拶だ。

 でも、この世界で初めて心の底から笑った気がした。

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