第4話 目覚め
冷たい風が頬をかすめる。乾いた土の香りに混じって、どこか鉄のような匂いがした気がした。
不意に、誰かの視線を感じた。
反射的に振り向く——が、そこには何もない。ただ、馬車と行き交う商人たちがせわしなく動いているだけだった。
(気のせい…か…?)
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馬車の車輪が規則的に石畳を叩く音が響く。
向かう道中、ふと隣に座る人物へと視線を向けた。
深くフードを被ったその者は、自分を『予言者』と名乗り、名も知らぬまま同行するのは、さすがに落ち着かない。
「ねぇ……名前を聞いても?」
わずかに沈黙が落ちる。
闇に沈む横顔が、少しだけ動いた。
まずいことをしてしまったのだろうか?
謝るべきだろうか?
どうしよう? どうすれば.....
「名前かぁ。そうだね〜」
相変わらず優しい口調でそう言われて少し安心した。だが、名前にナニカあるのは確かだ。
相手はゆっくりと息をつき、まるで慎重に言葉を選ぶようにして告げる。
「ダチュラ.....そう、呼んで」
どこか異国めいた響きを持つその名を、ひとつ口の中で転がした。
「ダチュラ……か。いい名前だね」
闇の中で、わずかに相手の肩が揺れた気がした。
それが微笑みなのか、あるいは別の感情なのかは、まだわからない。
馬車は静かに進んでいく。
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そういえば、この馬車はどこに向かっているんだろう?
聞いてみようか。しかし、質問ばかりの面倒な女だと思われるのも嫌だ。
馬車の揺れに身を任せながら、私は隣のダチュラに目を向けた。
「あのさ...そういえば……この馬車って、どこに向かってるの?」
ダチュラは少し間を置いて、静かに答える。
「アジトだよ。私たちの、ね」
その声は穏やかだったが、どこか含みがあるようにも感じた。
闇の中を進む馬車。
目指す先に、何が待っているのか——まだわからない。
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よく夢をみる。
いっつも、みる同じ夢だ。
カフェの苦いような甘ったるいような空間と、小学校からの親友と、私のいじめの原因。
私は、親友の美咲と同じクラスにいた。美咲は、ずっと憧れていた蓮くんに淡い想いを寄せていた。
蓮くんは、サッカー部のエースでかなりのイケメンだった。
皆んなが、学校中が、憧れだった。美咲もその1人だった。
ある日の放課後、いつものように美咲とカフェテリアで話していると、彼女の表情がふと曇った。
美咲.....彼女が、言うには、彼は私のことが好きなのだという。
耳を疑った。脳がフリーズした。話をしたことをなかった。
そこからは、よく覚えていない。
ただ、気がつけば、美咲は私を避けるようになっていた。
私はどうすれば良かったのだろう?
分からない。分からなかった。
文字通り、人生が終わるくらいの失敗だったのだろう。
でも、もしもこの世界でやり直せるなら.....
もう一度だけ、頑張ってみてもいいかもしれない。違う。頑張るんだ。誰も私から離れないために。そのためなら.....
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「やぁ、目が覚めたかい?」
『予言者』の.....いやダチュラの声で脳が完全に覚醒した。
「おはよう」
短く答えた。笑顔で答えた。
一日の始まりの挨拶だ。
でも、この世界で初めて心の底から笑った気がした。




