第46話 勝負
乾いた音が、王宮の石畳にこだました。
老人が手にした杖を地面に打ちつけたのだ。軽く振るうだけで、そこに圧が生まれる。彼の纏う雰囲気が、一瞬で周囲の温度を下げた。
「チビちゃんたち、随分と元気がいいのぉ」
にやりと嗤う老人の前で、イグニスが僅かに眉をひそめた。
「チビって……俺はお前よりデカいぞ?」
イグニスが、元気よく反論した。
「そういう意味じゃないと思いますけど.....」
フィンが呆れたように口を挟む。
「え? じゃあどういう意味なんだよ?」
「はぁ.....もう黙ってください」
フィンが疲労と共に、呆れたようにため息をつく。
だが、そのやりとりは一瞬で終わった。
「両者、そこまででお願いいたします」
涼やかな声が響く。
長い金髪の髪をなびかせながら、セリーヌが優雅な足取りで現れた。
「エーデル様、"王"よりのご命令です。貴方は正式な客人としておもてなしするように、と」
その言葉に、フィンとリアナの表情が僅かに動く。
一方でエーデルは、口元を綺麗に弧を描かせるだけだった。
「おやおや、それは光栄ですね」
彼は礼儀正しく微笑みながらも、興味なさげに指先で髪を弄ぶ。
「それはそうと……私は一つお願いがありまして」
エーデルの金色の瞳が、冷たく光った。
「あなた方が“謎の男”と呼んでいる彼を、こちらへ寄越していただきたいのです」
その一言に、空気が一変した。
カイが小さく舌打ちをする。
「は! ……ふざけんなよ。交渉してるつもりか?」
「イグニス、落ち着いて下さい」
フィンが、宥めるように言う。
「ええ、もちろん。ただし、交渉には”条件”が必要でしょう?」
エーデルは薄く微笑み、指を鳴らした。
「そちらにいるはずですよね? “彼” は」
その言葉に、リアナが僅かに身じろぎする。
彼の目的が「それ」だということは、容易に察しがついた。
「……ふむ」
フィンは一瞬、考える素振りを見せた後、静かに口を開いた。
「では、決めましょうか」
「おや?」
「この場で争いになるのは避けたい……ならば、一対一の勝負で決めるというのはどうでしょう?」
「へぇ……」
エーデルは口元に指を当て、思案するように小さ
く笑う。
「……へぇ、俺はいいぜ」
イグニスは拳を鳴らしながら、クラフトの方を見据える。
クラフトもまた、獣のような鋭い眼光を向けていた。
「いいぜ。ぶっ潰してやる」
ゴクリ、と誰かが息を飲む音がした。
「.....面白くなってきた」
エーデルが一人笑うのを、フィンは見逃していなかった。




