第44話 策謀
『策謀と変革編』 ──開幕。
かつて紅蓮に包まれた王宮は、すでにその傷を癒しつつあった。
激しく燃え盛った炎は跡形もなく消え去り、黒煙が立ちこめていた空は澄んだ青へと戻りつつある。壁に刻まれた焼け焦げの跡や、崩れた柱の残骸こそ残っているものの、それすらも急速に修復の手が加えられていた。
石畳の上には未だ煤の残滓が薄く広がっている。しかし、その上を歩く兵士たちの足取りは迷いなく、かつての混乱が嘘のように秩序が戻っている。
城の一角では、鍛冶職人たちが折れた鉄扉の修復に取り掛かっていた。赤熱した金属が打ち鳴らされる音が響き、火の粉が舞い上がる。まるで先ほどまでの炎の名残が、鍛冶場の中にだけ留まっているかのように。
壁に空いた穴には新たな石材が積み上げられ、職人たちの手によって着実に補強されていく。壊れた装飾品も、金細工師たちの手によって元の美しさを取り戻しつつあった。
──そして何よりも、王宮全体を包み込んでいた不穏な空気は、すでに過去のものになりつつあった。
廊下を行き交う貴族たちの表情には、確かに不安の影が残ってはいる。しかし、その歩みは決して混乱に満ちたものではない。むしろ彼らは、まるで「何事もなかったかのように」振る舞っていた。
そう、それこそが王宮の真髄──例えどれほどの危機が訪れようとも、この場所は決して”揺るがない”。
燃え尽きた炎の跡に、王宮は再びその威厳を取り戻しつつあった。
そんな王宮の中を、二人の男性と女性が歩いている。
一人は、王宮の癒えを象徴するかのように、傷はなくなっていた。もう一人は、可愛げのある栗色の髪を交互に揺らせていた。フィンとリアナである。
そんな二人を、まるで待ち伏せていたかのように、狡猾な瞳で彼らを観察する者たちがいる。
一人は、遠目でも目を引く白髪が、一人は、屈強な肉体を持つ戦士が、もう一人は、杖をついた老人が、彼らを目で捉えていた。
これから、国を変革へと導く彼らにとって、国を守護する彼らが邪魔であるなど、想像に難くなかった。
「初めまして。フィン殿」
そう言って、白髪の少年が、貴族の格式ある挨拶をした。
「失礼。貴方は?」
「全く、礼儀を知らないな」
それは、思考の声である程に、小さくそれを聞き取る者はいなかった。
「エーデル=クラセル。と、申します」
見た目は、若くとも白き髪を持つ少年。
名を、エーデルという。
「ほう。それで、私に何の用が? あまりお見かけしないが...」
その一言は、その場にいる二人の守護者に大きな衝撃を与えた。
「私が、"王"です」
彼は笑っていた。
しかし、感情の底が知れなかった。




