第43話 白い影
アザミは白髪の少年を睨みつけていた。
「……信用しろって?」
「うん。でも、無理にとは言わないよ」
少年はゆっくりと手を下ろす。
その表情には余裕があった。
(この状況で、なんでそんなに落ち着いていられるの……?)
「……私をどうするつもり?」
アザミは慎重に問いかけた。
白髪の少年は小さく笑う。
「どうもしないよ。ただ、君をここから”出す”だけさ」
その言葉に、アザミの中に微かな安堵が生まれかけた──が、すぐに違和感に気づく。
“出す”?
……“逃がす”とは言っていない。
嫌な予感が背筋を駆け上がる。
「それって……地下から出して、自由にしてくれるってこと?」
「へぇ、君さ。ただの馬鹿ではないんだね」
少年はゆっくりと首を横に振りながら言った。
「いいやぁ。そんなつもりはないよ」
──やっぱり。
「……信用しなきゃよかった」
アザミは歯を食いしばる。
少しでも信じようとした自分が馬鹿だった。
この世界には、まだ純粋に優しい人がいるのだと、そう信じたかった。
もう、この考えは止めよう。
「まぁ、牢屋とかには入れたりしないよ。ただ、僕は、今から"大切な用事"があるから、大人しく僕の用意した部屋で待ってて欲しい。それだけなんだ」
すると少年は、まるで”分かっていた”と言わんばかりに肩をすくめながら言った。
「...大切な用事?」
苛立ちと焦りを懸命に抑えながら聞いた。
自分でもこんなに冷静な理由が分からなかった。
「あぁ。国を、"変える"」
なんなんだ。
コイツは、一体何をしようと.....?
その思考が周りきる前に、私は気を失った。
「だからさ、」
少年は、微笑んでいた。
「……おとなしくしててね」
その声は、とても恐ろしくて優しいものだった。
『喪失編』 ──閉幕。




