第42話 思惑
アザミは走った。
冷たい石畳を踏みしめ、闇の中を駆け抜ける。
(.....なんで、あの少年は私のことを知ってるの!?)
背後から兵士たちの足音が迫る。
だが、今はそれよりも──
白髪の少年の存在が気にかかる。
「……なんで、追ってこないの?」
アザミはちらりと振り返る。
彼は、そこにいた。
壁にもたれかかり、こちらを見ている。
追ってくるでもなく、手を貸すでもなく、ただ微笑みを浮かべて。
「……っ!」
嫌な予感がする。
ここで立ち止まるわけにはいかない──。
だが、その瞬間──
「うわっ……!」
足がもつれた。
床に隠された段差に気づかず、アザミは転んだ。
強く打った膝がずきずきと痛む。
(……まずい!)
すぐに立ち上がろうとする。
だが、その前に──
「もう少し、気をつけて走れば?」
少年の声が響いた。
アザミが顔を上げると、彼が目の前に立っていた。
(……いつの間に!?)
あんなに距離があったのに、気づけば目の前にいる。
まるで、瞬間移動でもしたかのように──。
「さて、どうしようか」
少年は静かに言った。
「このまま兵士に捕まるのは嫌でしょ?」
アザミは歯を食いしばる。
「……どういうつもり?」
「僕?」
少年は首を傾げる。
「うーん、どうしようかな」
「……!」
その時、兵士たちの怒声が響いた。
「そこだ!! 捕らえろ!!」
彼らが剣を抜き、迫ってくる。
アザミは息を呑む。
(……もう、逃げられない!?)
だが──
「“彼女は、僕の客だよ”」
少年が、ぼそりと呟いた。
次の瞬間。
兵士たちの動きが止まった。
「……っ!!」
まるで、時間が凍りついたかのように。
彼らは剣を振りかけたまま、微動だにしない。
アザミは息を呑む。
(なに……これ……!?)
兵士たちは、生きている。
しかし、完全に動きを封じられている。
その異様な光景の中で、少年は微笑んだ。
「ね、これで少しは信用してくれる?」
アザミは戦慄した。
この少年──何者なの?
「さ、行こうか」
少年は手を差し出した。
「君をここから出してあげるよ」
その笑顔の裏に、どんな企みがあるのかも分からないまま──。




