第41話 痛み
──意識が戻った時、初めに感じたのは、感じたのは痛みだった。
カルロは顔をしかめる。
体が重い。手足に力が入らない。
次に、感じたのは、倦怠感だった。
(……どこだ、ここ)
ぼんやりとした視界の中、自分の世界が真っ暗であることに気づいた。
冷たい石壁は感じる。
恐らくだが、牢の中だ。
カルロはゆっくりと起き上がろうとした。
──が、その瞬間、激痛が走る。
「っ……!!」
思わず呻く。
両手が鎖で縛られていた。
今度は、水じゃなくて、実物か。
(クソ……ここまでやるかよ……)
手首に食い込む鉄の冷たさ。
軽く動かしただけで、痛みが広がる。
(……転移は、無理だな)
体力の問題だけじゃない。
視界が無いので、明確なイメージもしずらしい。
(……まあ、俺の転移は”封じられてる”わけじゃねぇ。けど、この状態じゃ……)
意識を集中させる。
だが、身体の内側から重圧がかかるような感覚に襲われる。
(駄目か……体力が戻らねぇと、発動は無理だ)
ため息をつき、壁にもたれかかる。
その時──
「……目が覚めた?」
牢の外から、静かな声が響いた。
カルロは顔を上げる。
当然、見えない。しかし、声の主は分かる。
「……お前かよ」
そこにいたのは──セリーヌだった。
白い軍服のような装い。
長い金髪。
そして、冷たい瞳がカルロを目で捉えていた。
水の魔女──”水葬者”。
「しぶといね」
「……お前が手加減したんじゃねぇの?」
「違うわよ」
セリーヌは、ゆっくりと牢の前に歩み寄る。
「"王"が、あなたを生かしておけと命じたからよ」
「……"王"が?」
カルロは眉をひそめる。
王宮に火をつけたのは、俺たちじゃない。
黒マントの謎の男──アイツが関与しているのは確かだ。
(……あの男と俺たちを、"王"はどう判断してる?)
「……へぇ、俺みたいな反逆者を生かしておくなんて、随分寛大な王様だな?」
「違うわ。生かす理由があるだけよ。用が無くなったら、すぐ私が、殺してあげる」
セリーヌは静かに言った。
「あぁ、あと、あなたには、“聞きたいこと”があるそうよ」
カルロの心臓が、一瞬だけ跳ねる。
「……へぇ」
「話せば、楽にしてもらえるかもね。目隠しくらいは外して貰えるかも」
「はっ、俺が口を割ると思うか?」
「別に」
セリーヌは肩をすくめる。
「でも、あなたの”転移”は便利よね」
「……?」
「例えば──”アザミの居場所”を突き止めるために、何度も拷問して、極限まで痛めつけたら」
「……」
「あなたは、無意識に”転移”してしまうかもしれない」
カルロの顔から、笑みが消えた。
「冗談だろ?」
「……そう思う?」
セリーヌの瞳は、氷のように冷たかった。
それは、目の見えないカルロも感じ取ってしまう程に。
「あなたは、どこまで耐えられるかしらね」
牢の外から聞こえる、靴音が近づいてくる。
誰かがやってくる。
カルロは、静かに息を吐いた。
(……アザミ、逃げ切れてるよな?)
それだけを願うしかなかった。




