第40話 白髪の少年
湿った空気が肌にまとわりつく。
石畳の床に足音が響くたび、心臓が跳ね上がる。
(……カルロ、大丈夫だよね.....)
アザミは唇を噛み、暗い地下通路を進んでいた。
カルロが最後の力を振り絞って”転移”で脱出させてくれた。
なら、彼の犠牲を無駄にはできない。
──ここから、逃げなきゃ。
足を止めずに進む。
だが、出口の位置は分からない。
(この地下、どこまで続いてるの……?)
壁の隙間から漏れるかすかな明かり。
それだけを頼りに歩く。
すると──
ふと、前方に人影が見えた。
「……誰?」
思わず身構える。
現れたのは、一人の少年だった。
顔はあまり目立つ程ではない。特徴はないからだ。しかし、遠くで目を引くであろう白髪。
──白髪の少年。
背はアザミと同じくらいか、それより少し高い程度。
だが、その存在感は異様だった。
(この子……)
警戒を強める。
少年は、壁に寄りかかったまま、薄く笑った。
「やあ、こんばんは」
静かで、どこか気怠げな声。
「こんな夜更けに、一人でお散歩とは、あまり感心いたしかねるご趣味をお持ちのようで」
「……あなた、誰?」
アザミの問いに、少年は口元に手を当てた。
「うーん、相手の名前を知りたいなら、あなたから名乗るのが筋では?」
そこで、彼はニッと笑う。
「.....まぁ、いいや...君が”アザミ”だよね?」
アザミの背筋が凍った。
なぜ、私の名前を知っている?
ここに来るまで、誰とも会っていないのに。
「安心して。僕は敵じゃないよ」
急に、タメ口になった。
何なんだろう.....。この人は........。
でも.....
「信用できない.....」
少年は「まぁ、そうだよね」と肩をすくめる。
そして、アザミをじっと見つめた。
「……君、“運がいい”ね」
「え?」
「普通、王宮の地下牢から脱出するなんて無理だよ。なのに、君はここにいる」
「……それは、カルロが──」
「そうだね、“転移”で助けてもらったからだ」
少年は、ふっと目を細める。
「でも、その人はもう捕まっただろう」
「……!!」
「君も分かってるはずだよ。彼はもう、逃げられない。いずれ死ぬ」
アザミは息をのむ。
「……何が言いたいの?」
少年は静かに言った。
「──”君も、すぐに捕まる”ってことさ」
その瞬間、背後から足音が聞こえた。
アザミは反射的に振り向く。
数人の兵士たちが、地下通路の奥からこちらに向かってきていた。
(しまった……!)
「さあ、どうするんだい?」
少年は面白がるように微笑んでいた。
アザミは拳を握る。
(逃げるしかない……!)
そして、私は駆け出した──。




