第39話 転移者vs水葬者
「……最悪だ」
本当に運がないな.....。
カルロは歯を食いしばり、状況を整理する。
牢の入り口に立つセリーヌ。
周囲には、ゆらゆらと揺れる水の刃。
“水葬者”──セリーヌの能力。
この地下牢の湿気と相性が良すぎる。
(体力が残っていれば、転移で即脱出できた……)
だが、今のカルロはボロボロだった。
転移能力を使うには、かなりのエネルギーを消費する。
それに加え、今までの戦いと逃走で、もうほとんど動く力すら残っていなかった。
(……転移は、ここ一発しか使えねぇ)
ならば、どこで使うかが問題だった。
「カルロ」
アザミのかすれた声が聞こえる。
彼女の体も限界だ。
まともに戦える状況ではない。
カルロはセリーヌを睨みつけた。
「……どうしてわざわざ戻ってきたんだ? 俺たちはもう捕まった。牢に閉じ込めておけば、それで終わりだっただろ」
「そうね」
セリーヌは、淡々とした口調で答える。
「でも、“王”は言ったわ。“こいつらを殺すな”って。なのに……」
彼女の視線が、開かれた牢の扉へと向く。
「“王”の命令を破るつもり?」
カルロは肩をすくめる。
「もともと、俺はあのクソ王に従うつもりなんてねぇよ」
次の瞬間──
バシャッ!!
セリーヌの足元から水が飛び上がる。
生き物のようにうねりながら、カルロたちを襲いかかった。
「アザミ、伏せろ!!」
カルロはアザミを庇うように飛び込んだ。
水の刃が、彼のすぐ横を掠めて壁に突き刺さる。
壁には鋭い切れ込みが入り、冷たい雫が滴り落ちる。
(チッ……やっぱり、威力がヤバい)
正面から戦うのは無謀だった。
だが、逃げ道も限られている。
「無駄よ」
セリーヌが静かに呟くと、彼女の周囲の水がさらに膨れ上がる。
「あなたの”転移”は、今は使えない。体力がもう残っていないでしょう?」
カルロの目が細まる。
「……わかってるなら、話が早ぇな」
「つまり、今のあなたはただの人間。能力者ですらない」
セリーヌの水が一瞬、しなるように動いた。
「これで──終わり」
バシュッ!!
水の刃が、一瞬でカルロの首元を狙う。
だが──
「……っ!!」
カルロは、無理やり身体を捻って回避した。
水の刃は、彼の頬を掠める。血が飛び散る。
だが、それでも──
「今だ……!!」
カルロは最後の力を振り絞った。
彼の手が、アザミの腕を掴む。
「逃げろ、アザミ!!」
次の瞬間──
転移が発動した。
アザミの体が、牢の外へと消える。
「……っ!!」
セリーヌの目が僅かに見開かれる。
カルロは、肩で荒く息をする。
視界がぼやける。
"転移"の限界だった。
(クソが……これで、俺は……)
足がふらつく。
そして──
「……逃がしたわね」
セリーヌの冷たい手が、カルロの首を掴んだ。
「でも、あなたは逃がさない」
そのまま、視界が闇に沈んでいった。




