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欠落者  作者: 喜國 畏友
喪失編

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第36話 絶望の檻

 暗い部屋の中、湿った空気が漂う。

 壁には燭台が並び、揺れる炎が影を作っていた。


 その影の中に、一人の男が佇んでいる。


 黒いマントを羽織り、顔のほとんどが深いフードの下に隠されていた。

 

「ふぅ。演技すんのも楽じゃないなぁ〜」


 其れは、いや.....。

 彼は、気さくに言った。


 しかし、返答する者はいない。誰もいないのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 鉄の匂いが鼻を刺す。


 かすかに聞こえるのは、水滴が落ちる音だけだった。


 カルロは、背中で手を縛られたまま、冷たい石の床に膝をついていた。


 体のあちこちが痛む。まともに動ける気がしない。


 隣ではアザミが倒れ込んでいる。血まみれの顔をゆっくりと上げたが、その目にはまだ光が宿っていた。


(生きてる……まだ...)


 それだけが、唯一の救いだった。

 だが、それも長くは続かないだろう。


 俺たちは捕まった。

 このままいけば、処刑されるのは時間の問題だ。


 わかっていた。こんなことになる可能性は十分にあった。


 それでも、俺たちは賭けに出た。

 運命を変えるために。


 だが──


「……っ、チクショウ……!」


 カルロは歯を食いしばった。

 悔しさで、拳を握りしめる。


 自分がもう少し強かったら。

 自分がもう少し速かったら。

 自分が、もっと……


「カルロ……」


 弱々しい声が耳に届いた。


 アザミだった。


「……泣いてるの?」


 薄れた意識の中で、それだけは確認したかった。


 もし、カルロが諦めたなら、自分もそこで終わる気がしていた。


「……泣く暇なんてねぇよ」


 カルロは顔を上げる。


 ギリギリの笑みを浮かべた。

 アザミは、それを見て、ふっと息を漏らす。


「そっか……なら、まだ……」


 そう言うと、アザミは目を閉じた。

 もう、体力の限界だった。


 そんな時だった。


 牢の扉が軋む音を立てて開いた。


「……目覚めはどう?」


 現れたのは、見た者が振り返るほどに美しい少女だった。

 ──名を、セリーヌという。


 冷たい瞳が、二人を見下ろしている。


「……殺す気か?」


 カルロが睨みつける。

 だが、セリーヌは首を横に振る。


「いいえ...違うわ」


 静かに歩み寄ると、彼女はカルロの目の前にしゃがみ込んだ。


「“王”が言ったわ。“お前たちにはまだ使い道がある”……ってね」


 その言葉に、カルロは息を呑む。


「使い道……?」


「そう。だから、今すぐ殺しはしない」


 セリーヌは口元に薄く笑みを浮かべた。


「でも……生きていた方がいいかは、わからないけどね」


 カルロの背筋に、冷たい汗が流れる。


 “生かされる”──その言葉の意味が、重くのしかかる。


 このまま、何もできずに終わるのか?


(それとも.....

まだ、何かが.......)

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