第36話 絶望の檻
暗い部屋の中、湿った空気が漂う。
壁には燭台が並び、揺れる炎が影を作っていた。
その影の中に、一人の男が佇んでいる。
黒いマントを羽織り、顔のほとんどが深いフードの下に隠されていた。
「ふぅ。演技すんのも楽じゃないなぁ〜」
其れは、いや.....。
彼は、気さくに言った。
しかし、返答する者はいない。誰もいないのだから。
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鉄の匂いが鼻を刺す。
かすかに聞こえるのは、水滴が落ちる音だけだった。
カルロは、背中で手を縛られたまま、冷たい石の床に膝をついていた。
体のあちこちが痛む。まともに動ける気がしない。
隣ではアザミが倒れ込んでいる。血まみれの顔をゆっくりと上げたが、その目にはまだ光が宿っていた。
(生きてる……まだ...)
それだけが、唯一の救いだった。
だが、それも長くは続かないだろう。
俺たちは捕まった。
このままいけば、処刑されるのは時間の問題だ。
わかっていた。こんなことになる可能性は十分にあった。
それでも、俺たちは賭けに出た。
運命を変えるために。
だが──
「……っ、チクショウ……!」
カルロは歯を食いしばった。
悔しさで、拳を握りしめる。
自分がもう少し強かったら。
自分がもう少し速かったら。
自分が、もっと……
「カルロ……」
弱々しい声が耳に届いた。
アザミだった。
「……泣いてるの?」
薄れた意識の中で、それだけは確認したかった。
もし、カルロが諦めたなら、自分もそこで終わる気がしていた。
「……泣く暇なんてねぇよ」
カルロは顔を上げる。
ギリギリの笑みを浮かべた。
アザミは、それを見て、ふっと息を漏らす。
「そっか……なら、まだ……」
そう言うと、アザミは目を閉じた。
もう、体力の限界だった。
そんな時だった。
牢の扉が軋む音を立てて開いた。
「……目覚めはどう?」
現れたのは、見た者が振り返るほどに美しい少女だった。
──名を、セリーヌという。
冷たい瞳が、二人を見下ろしている。
「……殺す気か?」
カルロが睨みつける。
だが、セリーヌは首を横に振る。
「いいえ...違うわ」
静かに歩み寄ると、彼女はカルロの目の前にしゃがみ込んだ。
「“王”が言ったわ。“お前たちにはまだ使い道がある”……ってね」
その言葉に、カルロは息を呑む。
「使い道……?」
「そう。だから、今すぐ殺しはしない」
セリーヌは口元に薄く笑みを浮かべた。
「でも……生きていた方がいいかは、わからないけどね」
カルロの背筋に、冷たい汗が流れる。
“生かされる”──その言葉の意味が、重くのしかかる。
このまま、何もできずに終わるのか?
(それとも.....
まだ、何かが.......)




