第33話 牢獄の中で
冷たい水の感触が、肌に絡みつく。
苦しい。
―――息が、できない。
カルロとアザミは、水の中へと引きずり込まれた。だが、それはただの水ではなかった。まるで意志を持つかのように、彼らの身体を絡め取り、動きを封じていく。
(……クソ……!)
カルロは必死に体を捩るが、体力の限界を超えてなお、"転移"の力を使うことは叶わなかった。指先に力を込めようとしても、感覚すらおぼつかない。意識が、沈む。
やがて、水は二人をどこかへと運び――そして、乱暴に吐き出した。
ゴボッ、と音を立てて、カルロは荒く息をついた。肺の奥まで入り込んでいた水が逆流し、激しく咳き込む。喉の奥が焼けるように痛み、全身が鉛のように重い。
次の瞬間、冷たい床の上に転がった。硬い石畳の感触が、びしょ濡れの体を更に冷やしていく。
「……っ、ここは……?」
視界がまだぼやけている。だが、次第に周囲の様子がはっきりしてきた。
薄暗い空間。壁は石造りで、かすかに湿気を帯びていた。窓は一つもない。あるのは、分厚い鉄格子の扉だけ。
ここは――牢獄。
「カルロ、大丈夫……?」
隣でアザミが咳き込みながら、肩を押さえている。傷口から滲む血が、白い服にじんわりと広がっていた。
「お、おう……お前こそ……」
カルロはゆっくりと起き上がりながら、荒い呼吸を整えた。アザミは小さく微笑んだが、その顔は痛みに歪んでいる。明らかに無理をしているのが分かった。
(逃げねぇと……)
カルロは朦朧とする意識の中で、脱出の方法を探る。だが、今の状態では転移すらできない。
「……無駄だよ」
低い声が響いた。
鉄格子の向こう側――そこには、セリーヌが立っていた。
「あなたたちがここから出る方法なんて、ない」
その声は冷たく、そして絶対的な自信に満ちていた。
カルロは歯を食いしばった。
「……何が目的だ」
「それは──こっちの台詞。王宮に忍び込んで何をしようとしていたのか、教えて貰う」
どうする?
"王"を殺そうとしたなんて、言ったら詰みゲーだ。
「...私の統括している西口第四区井戸が一つしかなく、それが壊れてしまいまして、直談判をしようと……」
どうだ? さっきは失敗したが、少しの時間稼ぎでもできたなら儲けものだ。
「それは嘘ね」
おいおい。マジかよ。
「.....というと.....」
「貴方の顔、偉い人の顔じゃない.....」
.....!!
まさか。
「アザミ。俺の顔どうなってる?」
「...! 普段の顔になってる.....」
やはりか。
でも.....。
いつから?
タイトの能力の効果が切れてやがる.....!!
「……いつから、気づいていた」
「あなたが、あの水に浸かった時からよ.....まぁ私は何もしてないけどね」
セリーヌは、カルロを見下ろすように言った。
「観念なさい。無駄な抵抗はやめて、素直に話すのよ」
セリーヌの言葉は、カルロの心を絶望の淵へと突き落とした。
その言葉が何を意味するか、彼は知っていた。




