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欠落者  作者: 喜國 畏友
喪失編

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35/222

第33話 牢獄の中で

 冷たい水の感触が、肌に絡みつく。

 苦しい。


 ―――息が、できない。


 カルロとアザミは、水の中へと引きずり込まれた。だが、それはただの水ではなかった。まるで意志を持つかのように、彼らの身体を絡め取り、動きを封じていく。


(……クソ……!)


 カルロは必死に体を捩るが、体力の限界を超えてなお、"転移"の力を使うことは叶わなかった。指先に力を込めようとしても、感覚すらおぼつかない。意識が、沈む。


 やがて、水は二人をどこかへと運び――そして、乱暴に吐き出した。


 ゴボッ、と音を立てて、カルロは荒く息をついた。肺の奥まで入り込んでいた水が逆流し、激しく咳き込む。喉の奥が焼けるように痛み、全身が鉛のように重い。


 次の瞬間、冷たい床の上に転がった。硬い石畳の感触が、びしょ濡れの体を更に冷やしていく。


「……っ、ここは……?」


 視界がまだぼやけている。だが、次第に周囲の様子がはっきりしてきた。


 薄暗い空間。壁は石造りで、かすかに湿気を帯びていた。窓は一つもない。あるのは、分厚い鉄格子の扉だけ。


 ここは――牢獄。


「カルロ、大丈夫……?」


 隣でアザミが咳き込みながら、肩を押さえている。傷口から滲む血が、白い服にじんわりと広がっていた。


「お、おう……お前こそ……」


 カルロはゆっくりと起き上がりながら、荒い呼吸を整えた。アザミは小さく微笑んだが、その顔は痛みに歪んでいる。明らかに無理をしているのが分かった。


(逃げねぇと……)


 カルロは朦朧とする意識の中で、脱出の方法を探る。だが、今の状態では転移すらできない。


「……無駄だよ」


 低い声が響いた。

 鉄格子の向こう側――そこには、セリーヌが立っていた。


「あなたたちがここから出る方法なんて、ない」


 その声は冷たく、そして絶対的な自信に満ちていた。


 カルロは歯を食いしばった。


「……何が目的だ」


「それは──こっちの台詞(セリフ)。王宮に忍び込んで何をしようとしていたのか、教えて貰う」


 どうする?

 "王"を殺そうとしたなんて、言ったら詰みゲーだ。

 

「...私の統括している西口第四区井戸が一つしかなく、それが壊れてしまいまして、直談判をしようと……」


 どうだ? さっきは失敗したが、少しの時間稼ぎでもできたなら儲けものだ。


「それは嘘ね」


 おいおい。マジかよ。


「.....というと.....」

「貴方の顔、偉い人の顔じゃない.....」


.....!!


 まさか。


「アザミ。俺の顔どうなってる?」

「...! 普段の顔になってる.....」


 やはりか。

 でも.....。


 いつから?

 タイトの能力の効果が切れてやがる.....!!


「……いつから、気づいていた」

「あなたが、あの水に浸かった時からよ.....まぁ私は何もしてないけどね」


 セリーヌは、カルロを見下ろすように言った。

「観念なさい。無駄な抵抗はやめて、素直に話すのよ」

 セリーヌの言葉は、カルロの心を絶望の淵へと突き落とした。

 その言葉が何を意味するか、彼は知っていた。

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