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欠落者  作者: 喜國 畏友
喪失編

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32/222

第30話 烈火

 地を揺るがす爆音とともに、炎が吹き上がった。


 焼け焦げた瓦礫が四方に飛び散る中、イグニスは乱れた呼吸を整えながら立っていた。額を伝う汗が頬を滑り落ちるが、それを拭う余裕などない。熱気が肌を焼くほどに渦巻き、焦げた鉄と土の匂いが鼻を突く。


 その時、目の前にいたはずの敵——欠落者が、一瞬で視界から消えた。


 常人ならば、焦燥に駆られ、周囲を警戒するだろう。しかし、イグニスの瞳には、一切の迷いがなかった。


 何故か。


 彼は、もとより常人などではなかった。


 刹那、彼の背後から殺気が迫る。

 迷うことなく、イグニスは背後へ渾身の拳を叩き込んだ。

 ――轟!!



 空気を震わせる衝撃。しかし、拳は虚しく宙を切り、奴は紙一重でそれを回避した。

 

「……ほう」


 欠落者はそのまま後方へ跳び、拳を紙一重で避ける。僅かに焼け焦げた袖を見下ろしながら、心の中で呟いた。


(こいつ……やるな。ポテンシャルがある)


 イグニスは静かに呼吸を整え、再び拳を構える。彼の纏う炎が、再び戦いの狼煙を上げた。


 欠落者が静かに口を開く。


「——これで、終わりだ」 


 イグニスは即座に警戒し、集中した。しかし——


 ヒュンッ


 刹那、視界が歪み、次の瞬間には鋭利な刀がイグニスの腹を貫いていた。


「……ッ!!」


 口の中に血の味が広がる。


(…...化けもん……がっ...!!)


 それでも、イグニスは拳を引かなかった。


 一定の距離をあけた。

 そして、その言葉に、イグニスは薄く笑った。


「ハッ....奇遇だな。俺も次で終わりにする」


 言いながら、彼は拳を強く握りしめる。すると、全身を包んでいた炎が収束し、一点へと集中していく。イグニスの右腕に赤熱した紋様が浮かび上がり、揺らめく火球が生まれた。まるで獣のように唸る灼熱の球体が、彼の拳に宿る。


 欠落者の表情が、僅かに引き締まった。


「喰らえ——“灼炎衝(れっかしょう)”!!」


 轟音とともに、巨大な火柱が天へと昇る。灼熱の奔流が荒れ狂い、大地を焼き焦がしながら突き進んだ。


 その中心にいた欠落者の姿が、瞬く間に炎に包まれる。


 悲鳴すら上がらなかった。

 人が焼ける嫌な匂いもなかった。


 ただ、影が燃え尽き、掻き消えた。


 ——しばらくの沈黙。


 やがて、炎が静まると、そこには何も残っていなかった。


 イグニスは肩で息をしながら、ゆっくりと拳を下ろす。まだ腕に残る熱を感じながら、彼は目を細めた。


「終わったか……」


 静寂。


 炎が静まり、残ったのは焼け焦げた大地と、熱で歪む空気だけだった。


 しばらく警戒していたが、異変は感じられない。イグニスは荒い息を吐きながら、その場に膝をついた。


 戦いは終わった。彼自身知っている。

 奴を討てていないことを。奴がまだ生きていることを。


 そして、あの強さの存在が、他にも潜んでいる可能性が十分にあることを。


「……また来るんだろうな」


 彼は全てを知って尚、呟いた声は、熱を帯びた風に消えていった。


 イグニスはただ拳を握りしめ、燃え尽きた戦場を見つめていた。


◇ ◇ ◇


 イグニス 能力 『焔闘者』


 人類が言葉を紡ぐよりも前から、この星を照らし続けたもの。

 原初より恐れ、崇め、時に支配しようとしたもの。

 それを己が掌中に収め、戦いの極限へと昇華する者。


 

 闇を裂き、寒さを払い、命を守る温もりでありながら、同時にすべてを灰へと還す、災厄の化身。

 決して縛られることなく、天へと昇り続ける力。

 

 たとえその身が血に塗れようとも——

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