第27話 「立って歩け」
雨はまだ止まない。
冷えた風が吹きつける中、カルロはただ黙ってアザミを背負い続けていた。
ずっと俯いたままのアザミは、一言も発さない。
呼吸すら浅く、まるで魂を失ったようだった。
しばらく進んだところで、カルロは足を止めた。
肩に感じる重みが、異様に軽くなった気がしたからだ。
「……アザミ」
応答はない。
背中越しに感じる体温はまだあるのに、まるで生気が感じられなかった。
カルロはゆっくりと彼女を下ろし、目の前に立たせる。
だが、アザミは力なく崩れかけた。
彼女の目は死体と勘違いするくらい生気がなかった。
「……立て」
静かな声だった。
だが、それは雨音すらかき消すほど強い響きを持っていた。
アザミは俯いたまま、微かに首を振る。
「……もう、無理……」
その声はまるで枯れ果てた風のようだった。
カルロはため息をつき、彼女の肩を掴む。
「いいか、アザミ」
冷たい夜の空気が、二人の間に流れる。
「お前がどれだけ泣いても、どれだけ悔やんでも、死んだ奴は戻らない」
その言葉に、アザミの肩がわずかに震えた。
「それでも、お前は生きてる」
カルロの声は静かだった。
だが、決して揺るがない強さがあった。
「生きてるなら、やるべきことがあるだろう」
アザミは顔を上げることができなかった。
「……私のせいで、ダチュラは……」
その瞬間――
バシンッ!
乾いた音が響いた。
カルロの手のひらが、アザミの頬を打つ。
痛みよりも、その衝撃に目を見開いた。
カルロは鋭い眼差しでアザミを見下ろし、低く言った。
「ダチュラは、お前に死んでほしくて戦ったわけじゃねえ」
心臓が跳ねた。
「お前がそこで立ち止まるなら、ダチュラの死は無駄になる」
「……!」
「お前のせいで死んだ? 違うだろ」
カルロは強く言い放つ。
「ダチュラは、お前を生かすために戦ったんだ。なら、お前は――」
アザミの手を取る。
その手は微かに温かかった。
「――生きて、進め」
アザミの目に、涙が溜まる。
カルロの言葉が、胸に深く突き刺さる。
「……でも、私……」
「今はそれでいい」
カルロは微かに口角を上げた。
「泣けよ。悔しがれよ。でも、それでも――」
彼はアザミの手を引いた。
「立って、歩け」
雨の中、アザミは震える足で、一歩を踏み出した。




