第25話 死神と焔
イグニスの拳が空を裂き、“欠落者”の影を打つ。
轟音とともに衝撃波が夜の静寂を切り裂き、大地が軋んだ。だが――
「……やるな」
低く、乾いた声が響く。
ただの感想ではない。敵への賞賛でもない。
それは、まるで獲物を見定める狩人の独白のようだった。
“欠落者”は悠然と身を翻し、拳の軌道を見切るように紙一重で回避する。
まるで風のように、最小限且つ最適な動きで。
そして、その刹那。
閃光のごとき剣撃が、イグニスに襲いかかった。
これ以上ない程の疾さと殺気を以て......。
イグニスはそれを反射的に身を引いた。
避けた―
―筈だった。
次の瞬間、腹部から鮮血が噴き出す。
「!……ちっ……!」
痛みよりも先に、異常を、先程の技を理解しようとする。
初撃――つまりは、肩を狙った一閃は、確かに避けていた。
それなのに、腹を斬られた。
つまり……
「二撃目があった……のか……!」
視えなかった。
初撃に気を取られている間に、いつの間にか次の一手が放たれていた。
イグニスはすぐに距離を取り、血を拭うこともせずに鋭く睨みつける。
死の神。
名もなきその存在は、ただ“欠落者”と呼ばれるだけ。
幾度となく歴戦の戦士たちと刃を交えてきたが、こいつは明らかに次元が違う。
そして――
イグニスの視線の先に、横たわるダチュラの冷たい身体があった。
「お前……その遺体を連れて行くつもりか?」
静かに問いかける。
「そうだよ」
“欠落者”は、あまりにも淡々と答えた。
「そいつは“欠落”した。だから、回収する」
「……回収?」
眉がぴくりと動く。
「なんだよ、それ……? てめぇが勝手に決めていいことじゃねぇだろ」
「決めていいかどうかは問題じゃない」
“欠落者”は、夜の闇に溶け込むように微笑んだ。
「これは、そういうものだから」
その瞬間――
イグニスの本能が、最大限の警鐘を鳴らした。
「――っ!!」




