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欠落者  作者: 喜國 畏友
喪失編

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第23話 逃亡の果てに見る景色

 逃げていた。


 夜風が頬を撫でるたび、ひどく寒く感じた。

 カルロはもう何も言わず、私も口を閉ざしたまま。

 それでも、心の中は嵐のようにざわめいていた。


 ――何もできなかった。


 戦うことも、抗うことも、仲間を守ることすら。


 ただ、カルロに担がれ、逃げるしかなかった。


「……私」


 ぽつりと零れた声は、驚くほど掠れていた。

 自分の拳を見つめる。

 小さく、非力な手。震える指先。


 "足手纏いがいなくなったら、本気を出せる"


 そう言われた言葉が、何度も頭の中で反響する。

 分かってる。カルロの言うことは正しい。


 でも――


 悔しかった。


 情けなくて、悔しくて、胸が苦しくなる。


 もし私がもっと強かったら?

 もし私が、ここにいても戦える力を持っていたら?


 結果は違っていたのだろうか。

 いや、それすらも分からない。


「……チッ」


 悔しさを押し殺すように、歯を噛みしめた。

 膝を抱え、俯く。


 怖くないなんて、きっと嘘だ。

 本当は、怖くてたまらない。


 でも、それ以上に――


「……....こんなの嫌だ」


 小さく呟いた声は、冷たい夜風にかき消された。

 視界が滲む。泣くつもりなんてなかったのに、込み上げる悔しさが押さえきれなかった。


 その時だった。


  ――ドクン。


 心臓がひとつ、大きく跳ねた。

 嫌な予感がする。何かがおかしい。

 何だ。昔のあの"カフェ"のような.....


「カルロ.......?」


 不安に駆られ、彼を見上げた。

 だが、カルロは黙っていた。ただ、険しい顔で遠くを見据えている。


  次の瞬間――視界の端に、赤黒い血が舞った。

 

 「……え?」


 ゆっくりと振り向く。

 そこには――


 ダチュラが、立っている。

 いや、立たされている、と言うべきか。


 彼女の胸には、ぽっかりと穴が空いていた。

 あの刀で胸を刺されて.....え? は?


 死神によってあけられた傷だ。


 いや、違くて.....、は? どういう..........。


 彼女の赤黒い血が、どくどくと溢れ出し、足元の地面を染めていく。

 

 それでも、彼女はまだ意識があるのか、僅かに口元を動かしていた。

 虚ろな目で私をみて...........................。


 「……は……ア...」


 声にならない声が漏れる。

 だが、それは最後の言葉となった。


 ダチュラの身体が、ずるりと崩れ落ちる。

 その背後に、其れがいた。


 “欠落者”が。


 黒い影のような存在。

 人の形をしているのに、人間と同じにしてはならない。

 まるで空間に穴が開いたような、不自然な歪みを持つ存在。


 ダチュラの血が、飲み込まれるように地面をつたって流れていって......。


「…だ…ダチュラ?」


 声が震えた。

 さっきまでそこにいたはずの彼が、もう動かない。

 嘘? 冗談でしょ?


 クソッ...、.....あああああああ。


「チクショーぉおおぉおーーーーー!!」


 悲鳴が聞こえる。

 カルロか。


 違う。違う、違う。違う.違う。違う、違う。違違う。違う。違う違う。違う。違う。違う。違う。違う。違違う。違う。違、違う、違う。違.......

 

 頭が痛い。喉が焼けつきそうだ。痛い。

 目がはち切れそう。なんで?

 何故だろう。


 あぁ、そっか。

 叫んでいるんだ。私が。


 目の前の其れが、ゆっくりと顔を上げた。


  ――こっちを見ている。


  次は、お前だ。


 そう告げるように、“欠落者”が一歩踏み出した。

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