第21話 喪失
——刃が振り下ろされる。
止めなきゃ——止めなきゃ——!!
足が動かない。震えてるからだ。
いや、違う。"アレ"に近づきたくない.....。
心が恐怖に支配されている。
なのに、叫ぶことすらできなかった。
「ダチュラぁぁぁ——!!!」
鋭い光が弧を描く。
黒き刀が、容赦なく彼女へと降りかかった——
ギィンッッ!!!!
金属が弾ける音。
火花が飛び散る。
「——ッ!?」
視界の端、瓦礫の影から何かが飛び出した。
黒き刃と交差する、一筋の鋼。
誰かが——
ダチュラを庇った!?
「……へぇ」
まるで其れが、
初めて”興味を持った”かのように声を漏らす。
土煙が晴れる。
その中に立っていたのは——
ダチュラの相棒だった。
暗殺者として、最強の能力を持っていた。
国最強の王の守護者ですら、殺しきることはできなかった。
ボロボロの深緑色のコートが歴戦を物語る。
——カルロがいる。
「ふぅー! なん、とか……間に合っ、た…な…っ!」
彼は、折れかけた短剣を握りしめ、震える腕でダチュラを庇うように立っていた。
その顔は蒼白で、冷や汗が滲んでいる。
「……カルロ!!」
ダチュラが声を上げる。
カルロの手元を見ると、彼の剣の刃はほぼ砕けていた。
ほんの一瞬、辛うじて受け止めただけで、武器としての形を保てなくなっている。
「……お前、名前は?」
"欠落者"が、カルロを見下ろしながら尋ねた。
それは、敵への興味というよりも——“確認”のようなものだった。
「あ゛ぁ? ……カルロだ。イカれ野郎」
震える声で答えた。
それなのに、その筈なのに彼のいつも通りの口調は、私とダチュラを心の底から安心させた。
——次の瞬間。
カルロの体が宙を舞った。
「——ガハッ……!!」
さっきと一緒だ。フィンのように.....
カルロは、吐血している。
何が起こった?
誰も理解できなかった。
カルロの体は、まるで見えない衝撃を受けたかのように吹き飛ばされ、石畳に叩きつけられる。
肋骨が折れた音がした。
ダチュラが息を飲み、駆け寄ろうとする——
「——動くな」
冷たい声が、戦場に響いた。
"欠落者"が、刀をゆっくりと振り払う。
カルロの血が、地面に赤い線を描いた。
「……お前たちは、ここで死ね」
その声には、まるで感情がなかった。
人を傷つけることに何の迷いもない。
殺すことに何の感慨もない。
ただ淡々と、そこにある命を刈り取る存在。
人の心なんて、欠けた存在。
「……や、やめ…て…ッ!!」
私は、ようやく声を絞り出した。
「……貴方は、何なの……!? なんで、こんなこと……!!」
其れは、一瞬だけこちらに目を向けた。
その視線が、私の存在を”理解した”瞬間——
「あぁ……“お前”が」
(何を、言って.....?)
まるで、私がここにいることが”予定通り”であるかのように。
其れは
言った。




