第19話 戦場、激化
ダチュラの言葉に、アザミは一瞬、目を見開いた。
「……いいの?」
先ほどまでの躊躇が嘘のように、ダチュラの瞳には確固たる決意が宿っていた。
「作戦が失敗した以上、もう戦いは避けられない。それに——」
ダチュラはフィンとカルロが剣を交える光景を見つめながら、低く呟く。
「このままじゃカルロが死ぬ」
その言葉を聞いた瞬間、アザミの表情が更に凍りついた。
「兎に角、急ごう」
ダチュラはフードを翻し、屋根の上へと飛び上がる。
アザミも慌ててその後を追った。
夜の闇を切り裂くように、二人は戦場へと駆ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
戦場——
フィンの剣が、夜の暗闇を反射して虚に輝いていた。
彼の眼差しは冷徹そのもので、まるで勝敗など初めから決まっていたかのような余裕があった。
カルロは、呼吸を荒げながら両手に短剣を構える。
深い傷が数カ所。肩から滴る血。
そして、フィンの剣の軌道を完全に見失い始めている——。
「死ぬ前に、王宮へと侵入した目的を吐け」
フィンが静かに告げた。
——次の瞬間、彼の刃が閃いた。
——ギィンッ!!
甲高い金属音が響く。
フィンの一撃を、横から割り込むように受け止めた者がいた。
深紅のフードを纏った影。
「……遅くなったね」
ダチュラの声が、静寂を破るように響いた。
その声に、カルロは驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべた。
「ダチュラ……!」
フィンの鋭い一撃を辛うじて、受け止めたダチュラは、余裕のある笑みを浮かべながらも、内心では指先の酷い痺れを感じていた。
(……流石にやばいな。受けるだけでこの衝撃か...早くしないと.....)
「早く逃げようよ!!」
そんなダチュラの思考を、アザミの悲痛な叫びが掻き消した。
分かってる。アザミは、カルロの能力である、瞬間移動を使って逃げようと思っていると。
目の前にいる敵が、それで逃がしてくれる相手だとアザミは思っている。
しかし、それはない。
カルロの能力は、正確に言えば、瞬間移動でなく、カルロの明確なイメージで行きたい場所へと行ける扉を出現させることだ。
こんな死にかけの状態のカルロに、そんな余裕があるのか。また、あったとして、扉を開けるまで彼が待ってくれるのか。
否だ。
それをアザミは、分かっていなかった。
フィンは、微動だにせずダチュラを見つめていた。
彼の瞳には驚きはなく、ただ静かに状況を見極めようとする冷静な光が宿っている。
「……成程。あの数の衛兵を、一人だけで倒すのは至難を極めると思っていたが、そうゆうことか...協力者がいたとは.....」
なんのことだろう。
私たちは戦場に来るまで、一人の衛兵とも遭遇していないというのに...
「カルロ、そんなに衛兵倒してたの?」
ダチュラが深刻そうに言う。
「あ? んな訳ねぇだろ。確かに、一人気絶させちまったが.....」
カルロが怪訝そうに眉をひそめる。
その瞬間、カルロが言い終わらないうちに、フィンがカルロに切り掛かる。
——シュッ!!
フィンが、音すら殺して動いた。
狙いはカルロ——
——いや、違う。
私だ。明確な殺意を持って、私を確実に射止めにきた。
——ギィンッ!!!
鋭い衝撃音が響き、私は反射的に目を閉じた。
カルロの短剣が、フィンの刃を辛うじて受け止める。
次に目を開けたとき、カルロの肩から血が滴り落ちていた。
あぁ、そうか。
私は、また.....。
「……また、私はただの足手まといか」
自分でも意識なく言った。
その一言に、私は思い出した。
自分がただの役立たずであることを。




