第18話 作戦の行方
カルロとフィンが、国の未来を左右する一戦を繰り広げているその時、激闘をただ傍観する者たちがいた。
一人は、深紅のフードを深々とかぶり、素顔をあまり覗かせない者。
だが、その隙間から垣間見える端整な顔立ちは、隠しきれるものではなかった。
——名を、ダチュラという。
そしてもう一人。
不安げな眼差しで戦いの行方を見つめる少女。
真っ黒な髪を深い青の闇に漂わせながら、かすかな震えを押し殺している。
——名を、アザミという。
「ねぇ.....助けなくて大丈夫なの?」
アザミの問いは、夜の帳のようにか細く、それでいて切実だった。
ダチュラは目を細め、静かに答える。
「……問題ない。カルロを信じよう.....それに——今あそこへ行ったって、足を引っ張るだけさ」
言葉は落ち着いていたが、彼女の瞳にはかすかな迷いがあった。
それを懸命に隠しながら、戦況を見極める。
「……でも!」
アザミが声を上げた。
「カルロが風磨石で『作戦失敗』を伝えてきたのは、助けてほしいからじゃないの!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は少し遡る——
ダチュラとアザミは、王宮から最も近い酒場にいた。
情報収集を目的としていたが、大した収穫はなく、二人は時間を持て余していた。
「——だから、この国の王宮には王と"王守の四柱"以外は、貴族でも許可がないと出入りできないんだよ」
ダチュラは、そんな状況を少しでも有意義にしようと、アザミにこの国の文化を教えながら、慎重に作戦成功の報告を待っていた。
その時——
突然、風磨石が淡く光り出した。
そして、そこから響いたのは、カルロの声による“作戦失敗”の報せだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして今——
この国で四本の指に入る絶対的な強者と、仲間が一対一で戦っている。
不安を感じるなという方が無理な話だった。
しかし——
援護することは……
容易ではない。
ダチュラは唇を引き結び、戦況を注視した。
フィン——その名を知る者なら誰もが恐れる、絶対的な強者。
彼の剣筋は無駄がなく、ただの一閃すら致命傷になり得る。
その相手に、カルロはたった一人で立ち向かっている。
「……確かに、カルロは風磨石で作戦失敗を伝えてきた。でも、それが即ち助けを求めているとは限らない」
ダチュラは、静かに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「カルロはそんな男じゃない。自分の負けを認めるような言い方は絶対にしない」
「でも……」
アザミは不安げに俯く。
ダチュラはそっとフードの奥で目を伏せ、思案するように息を吐いた。
(もし……もし、カルロが本当に追い詰められているのなら……?)
戦況が変わるのは一瞬だ。
一手のミスが、命取りになる。
その時——
フィンの剣が、一際鋭く光を帯びた。
「……!」
ダチュラの目がわずかに見開かれる。
フィンの剣技が変わった。
今までの流れるような連撃ではなく、一撃必殺を狙う動き——決着をつけるつもりだ。
——マズい。
ダチュラの直感が警鐘を鳴らす。
アザミも異変を察し、息を呑んだ。
「ダチュラ……!」
迷っている暇はなかった。
ダチュラは静かに立ち上がると、フードを深く被り直した。
「ッ...まぁ、いたしかたないか...全てが上手くいくだなんて最初から思ってない.....」
まるで、独り言のように呟いた。
それが、どれだけ深刻な状況であるか私は感じ取ってしまった。
「よし...行こう。アザミ...私から離れないでね」
もうその声に迷いはなかった。




