第1話 危ないところ
その女の人は、無礼に不躾に私にそう言ってきた。
なんで、この世界にはこんな"異常者"しかいないのだろう?普通に考えて、私は今死のうとしていたわけで、その私を庇った気でいて、それで、えっと...だから.......
いや、駄目だ。もうこれ以上何もいらない。
求めてない。考えてはいけない。この人は、多分だけど"いい人"だ。見ず知らずの私を助けてくれた。
1年前に私が、そんな現象に陥っても、自分の身を挺して助けていないだろう。でも.....どうせ消えていく。
どうせ、この人だって、そうなんだ。
カボチャの馬車をもう私は待っていない。何が、もうすぐ、白馬に乗った王子様が来るからだ。そんなのは、現在から逃げた人の馬鹿で、勝手でつまらなくて下らない妄想だ。
「何なんですか...あなたは!」
怒鳴った。頭では、分かってる。
この人は、何もしてない。逆に、たった今助けてくれた。この人を、責めるのはお門違いもいいところだ。
「何って。いや、でも...へぇ」
「...あなたは何なの!」
何をニヤニヤしてるのだろう。
何故だか分からないが無性にイライラする。
「私? そうだなぁ......私は『予言者』.....と、でも名乗っておこうか」
彼女はそう名乗った。
は?
そう発する前に、彼女は続けた。
「君の未来を私は知っている。そして、君には生きる理由がある。いや、っていうかぁ〜君が生きなければ、世界が滅びちゃうんだよねぇ〜」
「……何を、言って...」
混乱し、眉をひそめた。だが、彼女は一歩、また一歩と近づいてくる。その瞳には確信が宿っていた。
「私はあっちから来たの。そこでね、恐ろしい危機が迫っているんだぁ.....君にはそれを救う力があるってわけ」
彼女の指を指す方向には、空間にヒビが入っていた。ガラスのように。
私は、思わず笑った。乾いた笑いだった。
世界は広い。こんな可哀想な人がいるだなんて。
愚かで馬鹿すぎる.....
この人は、私とは違った意味で可哀想な人だ。
いや、馬鹿なのは私か。
幻覚.....。じゃあ、私は死ねたのかな...
「……私に? 力がある? 冗談じゃないわよ!」
その声には、怒りがこもっていた。
何処に向けたらいいか分からない憤怒は、目の前のどこぞの厨二病の女に向かっていた。
「冗談じゃないよ」
彼女は真剣な目で私を見つめる。
「君は自分を価値のない存在だと思っているかもしれない。でも、私は知っている。君は選ばれた存在
——唯一の希望なんだよ」
そのお母さんが作ったコーヒーより甘ったるい言葉に、胸に微かな違和感が生まれた。自分が選ばれた存在?価値がある?そんなこと、生まれてから一度も言われたことがない。
やばい。駄目だ.......
両親を思い出してまた泣きそうだ。
彼女は手を差し伸べた。
「一緒に来てよ。君の生きる理由を、君に見つけさせてあげるから」
その手を見つめた。冷たい風が頬を撫でる。深い闇へと飛び込むか、謎の女と共に行くか——
いや、でも.....
「それにさ、死ぬのはいつでもできるでしょ?」
「でも、これ以上は...もう無理だよ........」
そう言った瞬間、膝から崩れ落ちた。
限界だった。
張り詰めていたものが、ぷつりと切れたように。
「はぁ〜大丈夫だって。いいから黙ってついてきなよ。大丈夫だから」
彼女はため息をつきながら、私の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
でも、何故かその声は不思議と今まで生きてきて聴いた声でいっちばん優しい声をしていた。




