表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落者  作者: 喜國 畏友
運命、決戦編
168/222

もう一つのプロローグ

 俺には、幼馴染がいる。

 虚川(うろかわ) 朝美(あざみ)という。


 ……あいつのこと、いつから意識してたんだっけな。

 気づいたら、ってやつかもしんねぇ。

 なんさ、初めてのことだから分かんないことだらけだ。相談できるような相手もいなかった。


 小さい頃は、よく一緒に遊んでた。家も近かったし、親同士が仲良くて、勝手にセットみたいになってた。

 公園で泥だらけになって走り回ったり、どっちが先に鉄棒で逆上がりできるか競争したり……今思えば、変なことばっかやってたな。


 でも、中学に入ってからだ。

 あいつと、だんだん話さなくなったのは。


 俺はサッカー部で、あいつはたしか、えっと……何部だっけ? 帰宅部か? まぁいいや。

 毎日部活が忙しくて、帰る頃にはもうクタクタで、同じクラスでも顔見るだけって感じだった。


 でも、高校に入って——たまたま、また同じクラスになれて。

 気づいたら、視線で追ってる自分がいた。

 後ろの席で髪いじってたり、笑ってたり、誰かと話してたり。そういうの、全部、目に入ってきた。


 最初はよく分かんなかった。

 でも、ある日、ふと「他の男と付き合ったりしたらどうしよう」って思って。

 そのときにやっと、ああ、これ……好きなんだなって。


 ま、俺はバカだし、サッカーのことばっか考えてて、そういうの遅いのかもしんねぇ。

 でも——気づいたら、ちゃんと、好きになってた。

 たぶん、ずっと前から、あいつはそこにいたのに。俺が勝手に追いついてなかっただけだ。

 

 俺には、好きになった人がいる。

 虚川(うろかわ) 朝美(あざみ)という。



 ……んで、そんなことを思いながら、いつものように部活終わりにベンチに座って水飲んでたんだ。

 夕方の風が気持ちよくて、ユニフォームも汗でベッタベタだったけど、妙に心は落ち着いててさ。


 そしたら、横にいた武田が、ぽつっと言ったんだよ。


「なー羽柴、お前最近ぼーっとしてね? 

 集中力切れてんぞー?」


「……は? んなことねーし」


「いや絶対なんかあんだろ。.....もしかして、女か?」


 ——うわ、って思った。

 ドンピシャすぎて、口が動かなかった。


 なのに俺、なんかその時、変な笑い方しちまったらしくて。


「はっ、おま……マジか!? 誰だ誰だ!?」


 しまった、って思ったときにはもう遅かった。武田の声がやたらデカくて、近くにいた他のやつらまで「え、羽柴女!?」「え、誰誰?マジかよ!!」って騒ぎ出して。


「お前あれだろー! 三組の……えっと、黒髪の……」


「バッ、ちげーよ!」


 って言ったんだけど、ダメだった。

 俺が否定すればするほど、「あーこれは図星だわ」「あーあー恋しちゃってんな〜羽柴〜」とかもう、止まらねぇ。


 ……なんで言っちまったんだ、俺。

 っていうか、笑っただけでバレるってなんだよ。サッカー以外、ほんとダメだな俺。


 でも、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど。

 その日、みんなに冷やかされてる時、悪い気はしなかった。


 だって、たぶん、本気で好きだから。


 でも、これが間違いだった。


 あの時、あいつの名前を出したわけじゃなかった。

 でも、みんな察してたんだろうな。昔から一緒だったってこと、同じクラスってこと、俺があいつを見る時の目……多分、わかりやすかったんだと思う。俺、バカだから。


 最初はただの冷やかしだった。

 「羽柴の彼女〜」とか、「また羽柴のこと見てんじゃね〜の?」とか。

 教室で何人かが笑いながら、あいつに言ってるのを見たとき、俺はただ「バレてんな〜」くらいにしか思ってなかった。


 でも、少しずつ空気が変わっていった。

 あいつの席の周りに人がいなくなって、話しかける子も減って。

 黒板係になっても、手伝ってくれるやつがいなくなった。

 机に落書きされてたこともあったらしい。俺は、それを全然知らなかった。


 あいつ、何も言わなかった。俺にも、誰にも。

 親にも言ってなかったんだと思う。


 いつもと同じような顔して、授業受けて、ノート取って、帰って。

 それでも、ある日ふと、体育の後の教室に戻ったら、机にうつ伏せて、肩を震わせてるのが見えた。

 声は出してなかったけど、泣いてたんだ、あれは。


 ——その時、初めておかしいって思った。

 けど、その時もまだ、俺は“なんで”泣いてるのか、わかってなかった。


 全部が繋がったのは、もっと後の部活の練習終わりだった。

 武田に、「お前、やばいことになってんの気づいてねぇのか」って言われて、ようやく現実を突きつけられた。


「お前のせいで、あの子——めっちゃ言われてんぞ。『男に媚び売ってる』だの、『幼馴染の癖に調子乗ってる』だの……言われて、誰にも言えずにずっと我慢してたってよ」


 ——なにやってんだ、俺。

 なんで、気づいてやれなかったんだ。

 好きとか、言える資格……俺にあったのか?


 

 そうだ。

 明日だ。


 明日、俺が告白して全部終わらせよう。

 朝美(あざみ)にもちゃんと謝って、皆んなの誤解をちゃんと解こう。そうゆうのは、スマホ越しよりも、直に会ってするものだ。ちゃんと話そう。朝美(あざみ)なら聞いてくれる。分かってくれる。


 よし、明日だ。明日。


 そして、その次の日。朝美(あざみ)の両親は通り魔に襲われて亡くなった。


 そしえ、朝美(あざみ)は行方不明になった。

 

 全部、俺の所為(せい)だ。

 もう、謝る相手すらいなくなってしまった。


 俺は、屋上へと向かい自分にできる唯一の償いをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ