第9話 "王"
沈黙が舞い降りる。
デチュアの震える手が、微かに揺れる液面を乱した。
私は何か言葉を探そうとしたが、喉が乾いて声にならない。
彼女の告白は、重すぎた。
どうしよう? 彼女は、私を励ましてくれた。
恩返しがしたいのに。
「……後悔してる?」
ようやく絞り出した言葉は、驚くほど陳腐だった。
問いかけた自分を呪いたくなる。こんな言葉、何の慰めにもならないのに。
デチュアは、かすかに笑った。
「...確かにあの人は、私の親みたいな存在だったけれど、どうしようもない人ってのはいるからね」
あまり答えにはなっていない。
いや、違う。これ以上の答えはないんだ。
「さてと、話はまだこれからさ」
と、言いながら頬杖をついた。
「てめぇの独断で大分、順序が狂ってるけどな」
カルロは相変わらず機嫌が悪そうに言った。
この人、機嫌いい時あるのかな。
「最後は、"王"の話だ」
きた。覚悟していた。どんな話がくるんだろう。
そうマイナスなことを考えていると、ふとデチャアが机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくるどこかのロボットアニメの主人公の父親がやりそうなポーズをした。
は! 違う。集中しないと。
「正直言って、"王"のことはよく分からない、というのが今のこちらの現状なんだ」
深刻そうに重たく話す。
まるで詫びるように。
「...じゃあ、なんで私をこっちへ連れてきたの?」
「私の予言で君が世界を導くという''夢''を見たんだ」
夢? さっき言ってた能力の話か。
成程。だから私が希望って言ったのか。
「分かってるのは、そいつが世界を支配しようとしてるってことだけなんだ」
「性別とかは分からないの?」
「判らない。全く。見た目すらもね。まるで、その人に関する情報が能力で得られないようになってると思うほどに」
深刻そうに、ダチュラは呟いた。
「だが、確実に分かってることもある」
「なぁに?」
「今の"王"は敵.....つまりは、"魔王"に協力する。そして、私たちの仲間の誰かが死ぬことになる」
怖いほどに淡々と話す彼女の言葉に私は疲れ初めてきたのを感じた。