↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第五章 百五十年後の世界に出会えてありがとう
94/94

094 百五十年後に成し遂げたこと

 花が咲き誇る中、様々な形をした墓石が立ち並ぶ。


 陽光が柔らかな光を投げかけ、墓地全体をやさしく包み込む。


 風は静かに吹き抜け、木々の葉がそよぐ音が聞こえる。


 そんな中、私はエメル殿下と東墓地を訪れていた。


 聖騎士、エリオドア。

 聖女クラリス。

 拳闘士ウィルマー。

 魔法使いメレデレク。


 百五十年前。


 世界を救うために一緒に戦った、かけがえのない仲間たち。


 花を抱えた私は、仲間の名が刻まれた墓跡の前に立つ。


 吹き抜ける風が、肩で切り揃えた私の髪をふわりと揺らす。


 柔らかい風を肌に感じながら、私はみんなの墓石の前に花を手向ける。


「前回ここを訪れた時のこと、覚えていますか?」


 私は殿下にたずねる。


「あぁ」


 殿下は小さく頷く。


「あの時の君は、一人この世界に取り残された事を嘆き、まるで子どものように泣いていたな」


「えぇ」


 あの時は、変わり果てた現在に馴染めず、この先に続く未来のことまで考える余裕がなかった。


 だけど、あの時この場所で、泣きじゃくる私の背中を押してくれたのは、今となっては最愛の人であるエメル殿下だ。


『君は頑張って、この時代を最後までしっかりと、生きぬくべきなんじゃないのか』


 力強く私にその言葉をくれたから、私は顔をあげる事が出来た。


「信じて良かったです」


「ん?何を?」


「エメル殿下のあの言葉」


 私はそう言って、エメル殿下に小さく笑ってみせる。


「あぁ。そう言えば、そんな事も言ったな」


 エメル殿下は照れ隠しなのか、頬を人差し指でかきながら視線を逸らした。

 私はその様子にクスッと小さく笑い、それから瞳を閉じて大切な人たちの名を思い出す。


 私の初恋、エリオドア様。

 正しくあれと導いてくれた、クラリス様。

 いつだって笑顔をくれる人、ウィルマー。


 それから言葉足らずの、だけど私の誕生日を、唯一覚えていてくれたメレデレク。


 一緒に旅をした彼らがいない世界なのに、今もこうして私は生きている。


 しかも、この世界に生きているほとんどの人々は、私の事を魔女ティアリスではなく、ただのティアリスとして受け入れてくれている。


 だから、英雄であることをやめた今の私は、あの頃よりずっと自由で身軽だ。


「これから私は、自分のために生きることにする」


 今はそれが許されている時代だから、私は迷わずそれを選択する。


「そうか」


 エメル殿下は、穏やかに優しく微笑む。


「はい。なので、私は大好きな人たちの守りぬいた先に続く百五十年後の今を、心底楽しむことにします」


 それが私の出した答えだ。

 もう迷わない。


 それからあとひとつ。


「私は今の時代につなげようと、頑張っていた名もなき英雄の話を書き記したいと思います」


 私はパトーラに帰省した時に抱いた思いを、形にして残したいと思う。

 語り継がれるべく人は、私たちの他にも沢山いるから。


 そしてそれを知る人は、私しかないのだから。


 私は墓石に手を触れ、誓うように呟いた。

 するとその時、冷たい風が吹いてくる。


 ひんやりとした風が頬を撫でると同時に、墓跡から淡い光が立ち上がる。


 その光はやがて集まり、人の姿を形作る。


『ティアリス』


 懐かしい声と共に現れたのは、エリオドア様だった。


「エリオドア様!」


 私は思わずその名を呼ぶ。


『ティアリス、よく頑張ったね』


 エリオドア様はそう言って微笑む。


『君は、目標を見つけたんだね』


 私は頷く。


『ようやく素敵な人を見つけたみたいだし』


 そう言って微笑むのはクラリス様だ。


『ティアリス、出会いを大切にしろよ』


 ウィルマーも笑顔で言う。

 私は大きく頷く。


『ティアリス、あの時言えなかったけど、誕生日おめでとう』


 少し照れたようなメレデレクが私に語りかける。


「うん、ありがとう」


 私は首を縦に振って頷く。


「私は塔に籠もってよかったよ。だって今幸せだから」


 私はずっと伝えたかったことを口にする。


 すると四人は私に優しく微笑むと、淡い光と共に消えていった。


「大丈夫か?」


 エメル殿下は心配そうに私を見る。

 私は静かに首を横に振る。


「大丈夫です。ただ、幸せだなって」


 私はエメル殿下にそう言って微笑む。

 すると、エメル殿下も照れたように、だけど嬉しそうに笑う。


「そうか」


 それから私たちは、しばらく四人が消えていった場所を眺めていた。


「以前ここにきた時、君はそうは思っていなかったかも知れないけど」


 突然エメル殿下が、私に向かって口を開く。


「あの時から、俺は君のことを自分にとって、特別な子だと思ってた」


 突然の言葉に私は驚き、思わずエメル殿下を見つめる。


「そう、だったんですね。私はあの時たしか……」


 私が当時を振り返ろうとすると、エメル殿下が私の唇に指を当てる。


「思い出さないでいい。きっとろくでもない男だと思っていただろうし」


 エメル殿下は苦笑いを浮かべる。


「そんな事」


 ないですよ、と言いかけて私は言葉を止める。

 確かにあの頃の私は自分のことで精一杯で、エメル殿下のことは、親切だけれど良くわからない迷惑な人だと思っていたような。


「お、図星か?」


 エメル殿下は楽しそうに笑う。

 私はムッとして言い返す。


「そんな訳ないじゃないですか。私だってエメル殿下が特別だって思ってました!」


 私は思わずそう口にしていた。

 エメル殿下は、驚いたように私を見る。

 そして、嬉しそうに笑う。


「嘘つき」


「まぁ、でも嫌いではなかったですから」


 それは嘘じゃないと、私は主張する。


 エメル殿下はそんな私を見て微笑むと、私の髪をそっと耳にかける。

 その仕草に私はドキッとして、思わず視線を逸らす。

 するとエメル殿下は私の顎に手を添えると、視線を合わせるように持ち上げた。


「ティアリス」


 名前を呼ばれ、私が顔をあげる。


「俺はやっぱり君が好きだ」


「私だって、エメル殿下が好きです」


「ありがとう」


 少し照れた顔をした、エメル殿下の美しい顔が近づいてくる。

 私はそっと目を閉じてスタンバイする。


 そして、そのまま唇が重ねられた。


 私はここが墓地であることをすっかり忘れ、頭のてっぺんからつま先まで幸せで包まれる。


 もしかしたら、綿菓子みたいな、ピンクのふわふわが体から放出されているかも知れない。


 不謹慎極まりないけれど、愛する人とのキスは、それくらい幸せになれることなのだから仕方ない。


『ティアリス、お幸せに』


 四人の揃った声が風に乗って聞こえてきた気がした。


 それはきっと気のせいではないはずだと、私は思う。


 だって、こんなにも優しい風なのだから。


 百五十年ぶりに、塔の外に出た、かつて英雄と呼ばれた私。


 そんな私が現代で成し遂げたのは、世界を救うなんて、そんなだいそれたことじゃなかった。たった一人、世界で一番愛する人を見つけたこと。


 スケールの違いに笑ってしまいそうになる。


 だけどたった一人、愛する人を見つけることは、世界を救うくらい大変だった。


「すまない……少し不謹慎だったな」


 少し照れた様子のエメル殿下がシュンとした表情になる。


「私も幸せを噛みしめていましたから、同罪です」


 私はエメル殿下に微笑んでみせる。

 そんな私につられたようにエメル殿下も笑顔になった。


「じゃあ、そろそろ行くか」


 エメル殿下が私に手を差し出す。


「はい」


 私はその手を取り、墓地を後にする。


 そして、私たちは新しい時代を生きていく。

 百五十年の時を経て、巡り会えた私たちの物語はまだ始まったばかりなのだから。




 ◇おしまい◇

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

よろしかったら、評価をしていただけると、嬉しいです。


次回作も執筆中なので、近日公開できるように頑張ります。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。