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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第一章 ここは百五十年後の世界
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009 まぞひすと

 帝国の強大な力を示すかのように、とてつもなく広い敷地に建設されている施設、アルカディア城。


 城壁で囲まれた漆黒の棟内部は、我が国のトップ、皇族の皆様のために建設された優雅な居住施設、宮殿はもちろんのこと、政務棟に軍事棟。それから、国民が様々な手続きのために訪れることになる、市民管理棟などが連なっている。


 現在私は、城内の敷地に併設された帝国博物館から、市民管理棟へと向かっているところだ。


「あ、あれに乗れと?」


 私は出来れば勘弁願いたいと尻込みする。


「市民登録が済めば、転送装置が使えるようになる。しかし君はまさに今、市民登録を行っている最中だからな。目的地に行くには、魔導エレベーターを利用するのが効率的だ」


 エメル殿下は通りすがる人にニコニコと手を振りながら、呑気な声で答える。


 皇子殿下が多くの市民の前に、無防備に登場しても許されているという状況に驚きつつも。


 今はそれどころではない。


 悪いが皇子の身の安全など、差し迫った問題に比べたら二の次である。


「でもだからって、あんな不気味なものには乗りたくありません」


 私はピシリと目の前の透明な箱を指差す。


 現在私の待っている列の先頭には、先程からパカパカと勝手に扉が開き、次々と人が中に飲み込まれていくという、異様な光景が広がっていた。


 変な機械に飲み込まれ待ち。つまり私の並ぶこの列は、マゾヒスト思考を持つ人々が行儀よく並ぶ列なのである。


 私にはあんな頼りなさ気なガラスに命を任せる勇気などない。


 絶対に無理だし、飲み込まれたくない。


「断固拒否します!」


 私はきっぱりと言い切った。


「魔導エレベーターが使えないとなると、自力で登る事になる。しかも俺達の目的地は五十二階だ。自力で登るのは流石にキツいだろうな」


「ご、五十二階ですか!?」


 外から眺めた時、やたら天高くそびえ立っているなとは思った。しかしまさかの五十階超えとは。


 恐るべし市民管理棟。


「じゃ、箒を一つお借りしてもいいですか?私は魔法の箒で自力で登ります。だから現地集合ってことで」


 手頃な箒はないかと、私は辺りを見回す。


「残念ながらここも魔導式の掃除機が主流だからな。箒なんてレトロなものを探す方が大変だ」


「くっ、なんてこと」


「大丈夫だ。みんな平気な顔をして乗り込んでいくだろう?あの表情は、魔導エレベーターが安心安全だと理解しているからこその表情だ」


 エメル殿下の視線の先。斜め前には小さな男の子がニコニコ笑みを浮かべ、魔導エレベーターとやらに乗り込む順番を待っている。


「ママー、早く乗りたい!」


「順番ですからね。でも、ほらもうすぐよ」


「わーい!」


 どうみても、期待に胸を膨らませていると言った感じだ。


「あんな小さな子どもだって平気なんだぞ。ほら俺達の番だ。乗り込むぞ」


 エメル殿下はガシリと私の手を掴んできた。

 しかも手袋もしない、ナマの手で。


「ふ、ふしだらな」


 恋人でもないのに、勝手に触れるだなんて。

 私は慌てて手を引き抜こうとする。


「逃げられても困る。それに手を繋いだくらいで誰も大騒ぎなどしない。遠足では誰しもがペアの異性と手を繋ぐしな」


「えんそく?」


「ほら、みんなが困ってるだろ。いくぞ」


「む、無理ですってーー!!」


 足を突っ張ってみるも、グイグイ手を引くエメル殿下によって、私は恐るべきガラスの箱に詰め込まれてしまったのであった。

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