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062 作戦決行2

 街の中央通りは人で溢れており、パレードのフロートと呼ばれる飾り付けられた車両が通れるのか不安になる程だ。


 カトリーナ様が乗るというフロートの上部には、立派な尖塔がそびえ立ち、塔の周りには点灯し輝く装飾や幻想的な花飾りが施されていた。塔の壁面には、古代の魔法のシンボルや幻想的な生物の彫刻が施され、内蔵された魔導スピーカーから楽しげな音楽が大音量で流れている。


 古風な魔法使いの格好に身を包むカトリーナ様はフロートの上に立ち、彼女の周りには、魔法使いの衣装を身に纏ったパフォーマーたちが謎の踊りを披露している。


 カトリーナ様自身も愛くるしい笑みで、観衆に手を振ったり、先端がホタルのお尻のように光っている玩具のウィッチワンドを振り回したりして、パレードを盛り上げていた。


 フロートの周囲には、帝国軍の黒い騎士服を着た軍人がいて、みな着飾った馬に騎乗し、パカパカと常歩(じょうほ)で移動しながら周囲を警戒している。


 因みに「私を守って」とカトリーナ様に可愛くお願いされたエメル殿下は、騎士の中に紛れ、パレードを行進中。


 そんな中私はというと、人目を避け木に登り、枝の上で自分の出番を待っている所だ。


「なぜ自分の誕生日に木登りなんてさせられているのか……」


 自分の境遇に悲しみつつ、内心この後起こる事にワクワクしていたりもする。

 人の心というものは、本当に複雑だ。


「ティアリス様、おめでとう」


「お誕生日おめでとー」


「平和な時代をありがとう」


「私達はあなたに感謝の心を捧げます!」


 パレードを見守る市民は口々にフロートに乗るカトリーナさん……いや私に感謝の言葉を叫ぶ。皆が揃って幸せそうな顔で、大切な人と共に今日この瞬間を精一杯楽しんでいる。


 その光景を目の当たりにし、私は目頭が熱くなる。


「みんなにも見せてあげたかったな」


 頭に浮かぶのは、かつての仲間たちの顔。


 人々が口にする感謝や喜びの声は、決して私一人のものではない。

 そのことを、改めて強く感じた。


「あ、そうだ。ティアリス様、お誕生日おめでとうございます」


 下から、お祝いの声が飛んできた。

 声の主は私と同じように木に登り、その身を隠すフリッツ様だ。


「ありがとう。フリッツ様のお陰で忘れられない誕生日になりそうです」


「あ、もしかして怒ってます?」


 別に怒ってはいない。ただ、久しぶりに、百五十年ぶりに誰かから、直接「おめでとう」の言葉をかけられたから、恥ずかしくて、勝手に嫌味が口から出てしまっただけだ。


「ご安心下さい。エメルのアレは演技ですよ。本命は他にちゃんといますから」


「土偶のこと?」


 私は殿下が大事そうに執務机の上に飾っている、ジト目気味の土偶を思い浮かべ答える。


「ははは、エメルもだけど、ティアリス様も相当鈍感だ。これは今日の夜が楽しみだな」


 フリッツ様はツボにハマったのか、クスクスと笑みを漏らしている。


「夜って、もう夜だけど」


 私が指摘すると同時に、フロートが所定の位置で止まった。


「さ、ティアリス様、出番ですよ」


 フリッツ様に号令をもらい、私は手にした箒に浮遊魔法をかけた。そしていざ空へ飛び立とうと、箒にまたがった瞬間。


「さぁ、みんな用意はいいかッ!!」


 パレードを見守る群衆の中から、男性の大きな声が上がった。


「え、なに?」


 飛び出すタイミングを完全に見失った私はひとまず枝に降り立つ。

 そして問題のフロートに視線を送る。


 するとフロートの周囲では、護衛として付く騎士の格好をした軍人さんたちが周囲を警戒するような動きをしていた。


「まさか、本当に殺害しようと?」


 私の体に緊張が走る。


「それは絶対にない。仕方ない。彼らにしばし余興の時間を許すとしますか」


「余興?」


 フリッツ様の言葉に私は首を傾げる。


「まぁ、見てて下さい」


 のんきなフリッツ様の言葉通り、私は視線をフロートに戻す。


 先程一瞬だけ緊張した様子でフロートを守るように陣を取った護衛騎士達は、すっかり落ち着きを取り戻したようで、静かに並んで佇んでいた。


 私は木の葉の影から少し身を乗り出す。すると七色に光る棒を両手にそれぞれ持った、男性集団の姿がしっかりと見えた。


 群衆から飛び出した彼らは、フロートの正面に陣取り数列に並ぶ。


「よっしゃいくぞー!」


「「「「おー!」」」」


 男性陣が雄叫びをあげ、一斉に光る棒を振り始める。


「言いたいことが、あるんだよ!」


「なに、なに?」


「カトリーナは、可愛すぎ!」


「可愛すぎ!」


「みんなのハートを、鷲掴み!」


「離さない!」


「好き好き大好き、やっぱ好き!」


「好き!」


「あなたがホントのティアリス様!」


「ティアリス様!」


「俺が生まれてきた理由!」


「一体それは、なんですか!」


「絶対君に、出会うため!」


「よっしゃ!」


「世界で一番愛してる!」


「L、O、V、E!ラブリー、カトリーナ!」


 男性陣が持つ光る棒の残像が、夜空の下で輝く。


「なに、これ」


 私は男性陣の熱量に圧倒され、ぽかんと口を開いたまま固まる。


「みんな、ありがとう。大好き」


 チュッとカトリーナ様は男性陣に向け、投げキッスをした。


「カトリーナ様は、超かわいい!」


「可愛いは正義!この可愛さを俺たちで守っていこうぜー!」


 男性陣は「うぉぉぉぉ」と大興奮だ。


「あんな恥ずかしいことよく出来るわね」


「ほんと、今日はティアリス様のお誕生日なのに」


「空気を読んで欲しいわよね」


 ヒソヒソと話す女性の声が、木の下から聞こえてきた。


「全く、その通りだ」


 木に登っているフリッツ様からもクスクスと笑い声が聴こえた。


「でもほら、みんなが注目している今がチャンスですよ。ティアリス様、正義は、本物は勝つ。それを皆に見せて下さい」


 フリッツ様は笑いながら私を急かす。


 もはや私がやろうとしている事が正義かどうかはわからない。

 けれどこれだけは間違いない。


「今日は私の誕生日!!」


 私は言い捨てると、しっかり箒の柄を握りしめた。


 魔力を箒に伝えると、ざわざわと周囲の葉が揺れる。


「いざ、出陣!」


 枝を強く蹴り、私は夜空に勢いよく飛び出したのであった。

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