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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第一章 ここは百五十年後の世界
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006 目の保養も三日まで

 封印の塔にある、頑なに閉じた玄関扉。それを現代技術により、無理やりこじ開けられ私は外界に連れ出された。


 それから、かれこれ四ヶ月の月日が経っている。


 とはいえ、最初の二ヶ月は久しぶりの外界に漂う、無数のエーテルにあてられほぼ意識を失っていた。つまり実際の所、しっかり意識を持って過ごしたのは二ヶ月ほどということになる。


 そんな私は帝都の一等地。アルカディア城内部の一室をあてがわれ、ひっそりと過ごしている。


 悲しいかな、友人が一人もいない今は、そのアテすらない状況だけれど、誰かに現状を話せば、さも豪華絢爛で何不自由のない、人が羨む生活を送っていると想像するに違いない。


 しかし実際は「古代遺跡の出土品を狙う盗賊」という、実に不名誉な嫌疑をかけられ幽閉されているという状況だ。


 ちなみに皇帝陛下のお住まいは宮殿と呼ばれる部分で、私がいるのは城のほう。

 つまり客人ではなく、容疑者として扱われているということだ。


 しかも。


「喜べ。封印の塔内部。君が忍び込んでいた場所の調査があらかた終了したそうだ」


 今日も今日とて、ただの暇人疑惑絶賛浮上中。

 恐れ多くもアルカディア帝国の第二皇子、エメル殿下の取り調べにつきあわされている。


 こうよくも毎日飽きもせず、殿下は私を呼び出すなと思う。


 どうやら彼はあの手この手で、私の嘘を暴こうと躍起になっているようだ。


 私は日々、エメル殿下によりアルカディア城内のあちらこちらへ連れ回され、知識の確認という名目で歴史のテストをやらされたりしている。


 こんな調子で、果たして私が本当にティアリスその人だと、信じてくれる日はくるのだろうか。


 呑気な殿下に付き合わされて、一生を終えたらどうしようと、真剣に悩み始めている今日この頃だ。


「それに、目の保養になりうる成人男性も、こうも毎日見続けると飽きてくるんだよねぇ」


 呟く私の脳裏に思い浮かぶのは一人の人物。


 老若男女。帝国全土の人間を魅了すると言われたアルカディア帝国皇太子、その名もエリオドア様だ。


 彼を最初に見たときは、たしかにその美しく整った容姿にうっかり見惚れ、魔物を攻撃する手すら止めてしまったものだ。


 その上性格も好ましいとなると、好きにならない方が無理というもの。なんせ当時の私は恋に恋する十五歳だったから。


 けれど旅が長くなればなるほど、だんだん見た目に目を奪われる機会は減っていく。

 もちろんふとした瞬間、「あぁ、やっぱり見目麗しいな」と思うことはあった。


 けれど内面を知れば知るほど、完璧な人過ぎて、私は恐れ多く感じてもいたのだ。


 その上、聖女クラリス様がエリオドア様に好意を寄せている事に嫌でも気づき。


 そのタイミングで私はエリオドア様が我が帝国の跡継ぎであると言う事実を知り。


「ま、あの二人は最初からお似合いだったし」


 実家が爵位持ちのクラリス様は、皇族であるエリオドア様の隣に立つ権利のある人だった。よって庶民である私の淡い初恋は、そこでジ・エンド。


 当人にその気持ちを悟られることなく、私の初恋は儚く散ったのである。


「お似合い?一体何の話だ」


「いえ、何でもないです。って、本当にエメル殿下って、エリオドア様の子孫なんですか?」


 私は向かい側に腰を落ち着けたエメル殿下を見つめる。


 私は新たに覚えたコーヒーという、いやに黒い液体を体に流し込みながら、目の前に座るエメル殿下を見つめる。


 確かに髪色はエリオドア様と同じ黄金色をしている。けれど鼻筋の感じも違うし、怪しげな紫色の瞳を持つ皇族なんて、私の記憶にはない。


「この前、俺の家系図を見せただろう」


 なんとなくここは、私が塔に閉じこもってから百五十年後の世界なのかも知れない。そうぼんやりと認めかけてきた頃合いで、エメル殿下は家系図とやらをみせつけてきた。


 それによると、私が幽閉されたあとエリオドア様とクラリス様は無事ご結婚なさったようだ。


 そして英雄であり賢人と名高い二人の子孫が、今現在もアルカディア帝国を治めているという事実も家系図でしっかりと確認した。因みに殿下にとってエリオドア様は祖父の父、つまり曾祖父らしい。


 二人が結婚して、その子孫が統治する時代にいるだなんて、何だか実感が湧かない。


 けれど、私の世話をしてくれるメイドさん達が、口を揃えてエメル殿下のことを「英雄の子孫です」と言うのだから、事実なのだろう。


 そしてその家系図で、私はエメル殿下のお母様がすでに他界されている事を知った。


 だからどうって事もないけれど、少しだけ優しい気持ちになった。まぁ、一瞬だけだったけど。


「見た目が全然、これっぽっちもエリオドア様っぽくないんですよ」


「兄上はそっくりらしいぞ」


「えっ!!」


 思わず身を乗り出す私。


「それはちょっと、諸々。確認の意味を込めて、お会いしてみたいような」


「残念だな。兄上にはもうすでに結婚を約束した令嬢がいる」


「べ、別に、そう言う意味でお会いしたい訳じゃ」


「なるほど。君はエリオドア様に恋心をいだいていたと。歴史では語られぬ新事実。これもしっかりと記録しておかねば」


「違うから。やめて下さい、プライバシーの侵害で訴えますよ?」


 慌てて誤魔化し、そしてふと気づく。


「って、今の言い方。もしかして私が本物のティアリスだと認めて下さったってことですか?」


「ふむ。残念ながらそのようだな」


「残念ながらって。でもどうしてですか?」


 遺跡泥棒の嫌疑が晴れ、ほっと一安心。しかし一体何故、今さら私を認めるつもりになったのか。


 私はついにこの時がきたと、エメル殿下をじっと見つめるのであった。

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