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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第二章 とりあえず、巣立ちます
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031 とびきりかわいい謎多きワンピース

 覗き穴の一件後、私は謎の組織。フローラ派に正式に入会した。といっても、同じ歳くらいのメイドは全員フローラ派。ある意味フローラ派に入会した事により、晴れて私はみんなに仲間だと認めてもらった。そういうことのようだ。


 そして気になるフローラ様の想い人。会うのにお金がいるという謎の人物について私は未だよく理解していない。というのもなんだかんだジュディとは勤務場所が合わず、じっくりその点について話が聞けていないからだ。


 実のところメイド業務というのは実に多岐に渡るものだ。部屋の掃除、床の掃除や拭き掃除、家具の手入れ、窓やカーテンの手入れなど、屋敷の清潔を保つための様々な作業に加え、男爵家一家の衣類やベッドリネン、テーブルクロスなどの洗濯やアイロンがけもこなさなければいけない。


 さらには一家が快適に過ごせるよう、お茶のサービス、食事の配膳、荷物の運搬、雑務の手伝いなどなど、数えだしたらきりがないくらい様々な仕事が私達の前に、常に山積みになっている。


『普通は担当の仕事が決まってるんだけどね。ここはメイドの数が少ないから、何でもこなさなきゃいけないんだよ。ほんと、わりに合わないよね』


 ジュディはそんな風に愚痴をこぼしていた。ちなみにメイドが少ないのは、ニナ様が意地悪なので、嫌気がさしてすぐに辞める人が多いのが原因らしい。


 その事は、現在進行型で実感している最中なので痛いほどよくわかる。


 私だって理不尽に叱られるたび「辞めたい、辞めてやる、今すぐに!!」と日々、いや毎秒頭をよぎっているのだから。


 それでもなんとか頑張れているのは、執事のアーチ様のクビもかかっているし、他に行くあてもないからだ。それに加え最近ではメイド仲間の存在が大きい。


『今はさ、ティナがニナお嬢様の相手をしてくれてるから、ホント助かってる。ありがとね』


 そう言って休憩時間に顔を合わせる同年代のメイド仲間が、まかないで出るお菓子をさりげなく多く私に用意してくれるのだ。そんな気遣いを目の当たりにすると、彼女達を置いて自分だけ逃げるなんてずるいと思う気持ちが湧き、なかなか辞められないでいる。


 なにはともあれ、ニナ様には耐えるしかない。今はそんな状況だ。




 ※※※




 今日も今日とて、退職願いを胸ポケに忍ばせ、ニナ様が大学に行くための準備を手伝っている。といっても、髪のセットやお化粧など、外出に際して重要な部分の手伝いをしているわけではない。


 そもそも彼女から不器用認定されている私が、ニナ様にとって唯一の武器である、外見部分の手伝いを頼まれる事はない。よっていつも通り、大学の時間割を確認し、該当科目の教科書をバックに詰める役割を、黙々とこなしているところだ。


「今日は肌の調子がいいみたい。お父様とお母様が旅行に行かれるからかしら」


 ニナ様が口にした通り、今日からサザランド男爵ご夫妻は、夫婦水いらずの長期旅行に出かけると聞いている。そのせいかニナ様もいつもより機嫌が良さそうだなと内心思いながら、私は筆箱の中身を確認する。


 前に一度、親でもあるまいし、流石にそこまでやる義務はないと、筆箱を開けて確認しなかった日があった。するとそういう日に限って運悪く、消しゴムという文字を見事消し去る魔法の白い塊が入っていなかったらしい。


 その日ニナ様は帰宅するなり「恥をかかせてくれたわね」と私に筆箱を投げつけてきたのである。


 それ以来、私はしっかりと筆箱の中身をチェックするようにしている。


「そうだ。今日の夜は一緒に出かけるわよ。だから私服に着替えて、私がいくまで待機してなさい」


「それって、勤務時間外手当の対象ですか?」


 当たり前のように確認してみたところ。


「奢ってあげるんだから、そんなの出るわけないじゃない。ほんと、貧乏人はがめついわね」


 うんざりした声と顔で言い返された。相変わらずムカつくけれど、彼女はいつも通りぷりぷりしながらも、大変気になる言葉を吐き出していた。


「奢る?ニナ様が私にですか?」


 一体どういう風の吹き回しなんだろうか。いや、これは絶対何かの罠だと、探る視線をニナ様に送りつける。


「あんたは私についてくればいいの。それと服はいつものだっさいやつじゃなくて、特別にこれをあげるから、今日はこの服で待ってて」


 ぷりぷりニナ様に押し付けられたのは、以前大学でニナ様を見かけた時に彼女が着ていたワンピースだ。白地に青い小花柄でウエスト部分を締められるように黒いリボンがついている。とても可愛らしいと、私がつい目を奪われたもので間違いない。


「え、いいんですか?」


 こんなに可愛いワンピースをいらないの?しかもくれるの?と私は嬉しくなる。しかしすぐに、これは何かの罠だと思いなおす。


「もしかして、トマトソースパスタのケチャップがハネて汚したシミが消えないから、だから私にくれるんですか?」


「馬鹿じゃないの。白のワンピを着ている日にトマトソースのパスタなんて食べるわけないでしょ。しかもそのワンピ、お気に入りだったし」


 だとしたらなおさら怖い。意地悪なニナ様がお気に入りの汚れていないワンピースを、殿下の部下だったからって、いちいち目の敵にしてくる私にくれるだなんて、怖い、怖いでしかない。


 私は受け取ったワンピースに何か仕掛けがあるに違いないと、まじまじと見つめる。


「はっ、この丈の長さは……」


 そうか、私を試しているに違いない。


 どうせ百五十年前の人間には、スカート丈の長さの常識というハードルを越えられるわけがないと、馬鹿にされているに違いない。


「文句があるなら、返して。そのワンピ、ディオーナのやつで高いんだから」


 ニナ様はこちらにサッと手を伸ばしてきた。


「そ、それは……」


 可愛らしいワンピース。しかも高級品をくれるというなら欲しい。最悪売ったらお金になるだろうし。けれどくれる相手がニナ様だと思うと、受け取ったら負けな気もする。


 私は苦渋の選択を迫られていた。


「そもそもお気に入りなのに、どうして私にあげようだなんて思ったのですか?」


 ひとまずワンピースを返すのが惜しい私は、真意を探ろうと質問を投げかける。


「今日行く場所にすでに一回着て行っちゃったし。そもそもダッサイ格好の侍女を連れて歩くなんて、私が嫌だからよ」


「ダッサイ格好の侍女って誰のことですか?」


 私はメイドであって、ニナ様の侍女ではない。

 それなのに。


「あんたに決まってるでしょ。あーもうっ。つべこべ言わず、あんたはこの服を着て私と出かけること。わかったわね!!」


 ニナ様は会話を勝手に終了し、部屋をでていってしまう。


「このワンピースに隠された謎は一体……」


 私は唖然とした面持ちで、手元に残された、とびきりかわいいワンピースを見つめるのであった。

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