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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第一章 ここは百五十年後の世界
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003 まだ夢うつつ

 塔から救出され、二度目に気を失った私が次に目覚めたのは、きっちり二か月ほど経ってからだった。


 目覚めた私の腕には見たこともない透明なチューブが繋がれており、ツンと鼻を刺すような匂いが部屋の中に漂っていた。


 私がいるのはモスグリーンの壁紙に覆われた、落ち着いた部屋。


 直射日光を避けるためか窓には薄いレースのカーテンで遮られている。薄いレースの向こう、窓の外にはぼんやりと青い空が映っていた。


 壁に沿ってき然と置かれた調度品は、パッと見る限り重厚感たっぷりな高級品。そんな中、白衣をまとい医師を名乗る人物が、私の体調を毎日気にかけてくれている。


 それから揃いのメイド服に身を包む女性たちが、私の衣食住の世話をしてくれて……。


 つまり現在私は、誰からも敵対されることなく、お姫様のように至れり尽くせりの生活を送っていると言える状況だ。


「こうみえて世界を救った英雄だから、手厚いのかな?」


 私はそんな感想を密かに抱き、至れり尽くせりの贅沢な生活にこの身をまんまと委ねている。


 あっと、それからあと一人。


「今日もまだ駄目なのか?」


「ええ。殿下のしつこ……いえ、執拗な問いかけに耐え得る体力を回復するには、もう少し静養が必要かと思われます」


 医師から告げられた言葉に、軽く舌打ち。それから未練がましい視線をこちらに送りつけ、部屋を渋々といった感じで毎回後にするのは、お喋りな軍人さんだ。


 そう、塔から救い出された私を唯一、ティアリスだと認識したであろう遺物オタクの彼。

 お世話をしてくれる医師によると、我がアルカディア帝国の皇子殿下らしい。


「つまりエオドリア様の弟か何かってことだよね?」


 私はかつて共に旅した聖騎士を名乗る彼を思い出し、どこか懐かしい思いで一人呟く。


 早く彼らに会いたい気もする。けれど、みんなから会いにきてくれないところを見ると、きっと混乱した世界を平常に戻すのに今なお尽力しているのだろう。


「もしかしたら後ろめたくて会いに来づらいのかも知れない」


 だけど塔の中に残ることを決めたのは私の勝手だ。


 そのことで、仲間たちが後ろめたい気持ちになっているのだとしたら、「誰のせいでもないし、案外楽しく過ごしていたよ」とすぐに訂正したいくらいだ。


「全く殿下にも困ったものです」


 ベッドに横たわる私を見つめる医師は、こちらの思考を遮るように言葉を続ける。


「とにかく、今はゆっくりお休みください。それがあなたの仕事ですから」


「ありがとう。では遠慮なく」


 何はともあれゆっくり休むこと。

 確かに今の私の仕事はそれだ。


 窓から流れ込む風に揺れてカーテンがめくれ上がる。風にそよぐ葉が心地よいざわめきを奏でる。花の優しい香りが漂い、暖かな風が私の肌を撫でた。


「気持ちいい」


 私は肩まですっぽりと布団にくるまり、再び目を閉じたのであった。

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