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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第二章 とりあえず、巣立ちます
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021 髪型のアップデート

 エメル殿下の講義は相変わらず大盛況。


『遺物に興味がある学生がこんなにいるとは。実に嬉しいことだ。きっとみな、遺物からロマンを感じてくれるのだろうな』


 殿下自身も、聴講生の多さにまんざらでもないといった感じだ。


 けれど私は知っている。デミアン青年のように真面目に授業に参加する、熱心な遺物オタクの生徒は稀だということを。


 というのも、授業後に私が回収した授業に対する感想用紙から導き出した統計によると。


 デミアン青年タイプの生徒は、体感一割にも満たないようだ。


 残りの四割は単位を取りやすいらしいという噂が流れたことによる履修。そして残り大多数を占める六割の生徒は、殿下目当ての野次馬的な女子学生だという悲しい事実が判明した。


 もちろんこの衝撃的な事実は、るんるん気分で授業の下準備に取り掛かる殿下には、今のところ伝えていない。


 やる気を失われても困るし、一割とは言え、本来の目的のまま授業を楽しみにしている生徒がいるのも確かだから。


 この情報は、現在のところ国家機密レベルには相当しない軽いもの。


 なぜなら毎回感想をそれっぽくまとめて殿下に伝えてはいるけれど、ここ数回ほどの授業に至っては、デミアン青年くらいしか、まともな授業の感想や質問を書き記してくれないから。


 殿下にこの事がバレるのは、時間の問題のような気がする。


 我が帝国の秀才が集うはずのアルカディア帝都大学。そこに通う生徒達の実態を知り、私は人知れず帝国の未来を憂いでいるのであった。


 そんな悩みを抱えつつ、本日の私はというと。


 チョキチョキチョキと、小気味良いハサミの音が響く中。シャローゼ様と並んで髪を切ってもらいつつ、相談にのってもらっているところだ。


 なかなか予約が出来ないと評判らしいお店は、なんでも貴族を含む有名人が多く通う美容院を含む、トータルビューティサロンだということで。


 実に百五十年ぶり。私は髪型のアップデート中というわけだ。


 昔の私なら身分的、金銭的に絶対に足を踏み入れる事が叶わなかった場所だろう。


 けれど今は違う。


 お貴族様であるシャローゼ様経由の紹介という、持ちうる限りのコネを使い予約に潜り込ませてもらった。しかも初回限定お試しキャンペーンとやらで、お値段なんと二割引き。


 正直、古代魔法研究所職員の給料しかもらっていない私からすれば、身の丈にあっていないお店だと言える。さらに付け加えると、自立を目指し節約生活に勤しむ必要のある私は、もう少し庶民的な場所で髪を切るのが正解なのだろう。


 けれど。


『見た目の八割を決めると言われる髪型にお金をかけないで、どこにかけるのよ』


 もっともなご意見をシャローゼ様から頂戴し、私は意を決し、人気のお店に足を運んだのである。


 因みに私の時代にも髪を切ったりセットしてもらえる理容室と呼ばれる施設はあった。


 けれどその時代のものとは大違い。現代のトータルビューティーサロンと呼ばれる施設は、美しくなる事を目的とした場所らしい。


 シャンデリア輝くお洒落な店内に、椅子はふかふかのソファ。店内にはリラックス効果があるという花の香りが漂っている。


 この場所では髪のカットにセットは勿論のこと、美容マッサージに、お化粧にネイル。それからお洋服のコーディネートまで。女性が美しく変身するための設備が全て整っているようだ。


 まるで誰もがお姫様になれる施設といった感じ。

 もちろんお金さえ用意できれば、の話だけれど。


 そのあたりは百五十年前と変わらずなようで。

 全く世知辛い世の中だ。


 そんなこんなで、現在私の髪の毛はプロの手に委ねられている。


「前髪はどうされますか?」


「ええと、いまふうで」


「かしこまりました。眉毛が隠れる程度でいいですか?」


「おまかせします。いまふうで」


 聞かれた事にてきぱきと答え、私は野暮ったさとおさらば中。


「ずいぶん思いきったねぇ」


 すでに自分のセットは終了し、ソファーに深く身をうずめ、足湯に浸かるシャローゼ様。


 人前で足を露にするなんてと最初は驚いたが、この場所では特段問題ではないと聞き、ホッとした。


 白い湯気が出た足湯に浸かり、リラックスした様子のシャローゼ様と鏡越しに目を合わせる。


「大学にいた生徒さんの中に、このくらいに切った髪型の方をみかけて、いいなと思ったんです」


 私は答えながら、軽くなった髪をさわって確かめる。


 髪質は柔らかくて傷みやすいタイプ。けれど髪色はピンクがかったブロンド。以前からこの色だけは褒められる事が多かったので、わりと自慢の髪の毛だ。


 肩下まであった髪をバッサリ切り落とし、今は肩につくかつかないかといった長さに切り揃えてある。


 塔にいた時は自分で揃える程度。ほとんど手入れもせず伸びっぱなしだった部分とおさらばし、気持ちまでさっぱりした気がする。


「凄くよく似合ってるわ」


 シャローゼ様のお墨付きをもらい、ますます気分が上昇した。


「ありがとうございます。初めてこんなにバッサリと切ったので、不安でしたけど」


 私は鏡に映る、新しい自分を見つめる。


 かつてないほど短くなった私の髪形は、ミディアムボブというらしい。


 この時代にあったその髪型は、意外にも私に似合っているような気がする。


 髪の毛を切る前は、自分の中で定番だったものを手放す事に不安があった。けれど今の私は清々しい気分になれている。


「髪型のアップデート完了」


 私は鏡に映る自分に、ニコリと微笑んだのであった。

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