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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第一章 ここは百五十年後の世界
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016 お買い物

 どうやらおしゃれに疎いエメル殿下であっても、一度交わした約束はきちんと守ってくれるタイプのようだ。


 というのも、帝都にあるエメル殿下の屋敷内。私の部屋に「エメル殿下から買い物に付き合うよう頼まれた」と口にする美しい女性が現れたからだ。


「こちらは、アリスター伯爵家のご令嬢、シャローゼ様でございます」


 レイモン様が、恭しく紹介してくれた。


「シャローゼ・アリスターよ。どうぞよろしく」


 艶やかな金色の髪に、宝石みたいな青い瞳。透き通るような白い肌に華奢な体つき。


「これは……ご丁寧にどうも……」


 突然現れた、いい香りのする美女に、私は思わずポカンと見惚れる。


「シャローゼ様、こちらは殿下が身元引受人となる、ティアリス様でございます」


 うっかり自己紹介を忘れていた私を、レイモン様がすかざすフォローしてくれた。


「なるほど、あなたが噂の子……っと、みんなから私はローゼって呼ばれているの。面倒だからあなたもそう呼んでくれない?」


「は、はい」


 シャローゼ様っと。何となくこの時代にきて初めて紹介された女性だ。もしかしたらお友達になれるかも知れない。


 同性の友人が出来ること。


 それだけで心強いし、流行に鈍感なエメル様よりずっと、この時代を知る近道でもありそうだ。


 よって今後粗相のないよう、名前はしっかりと覚えておくことにしよう。


「アリスター伯爵家のシャローゼ様……あれ?建国以来市民管理局に携わるのが、アリスター伯爵家だって聞いたような。だとするとローラット様の」


「ふふ、大当たり。ローラットは私の冴えない兄」


 市民登録の際、大変お世話になった人物の妹さんがここにいる奇跡。


「なるほど、世間は意外と狭いのですね」


「というより、エメルの交友関係が狭すぎるんじゃないかしら」


 おどけた表情で、肩をすくめるシャローゼ様。


「お言葉ですが、殿下はティアリス様のお側に置く方を厳選されたのかと」


 レイモン様が主不在の陰口は許さんとばかり、エメル殿下にいいように訂正する。


「流石レイモン。サラッと主人を庇うだなんて、執事の鏡ね」


「いえ、事実かと」


「はいはい。私は信用されてるし、彼女はエメルの大事な人ってわけか」


「私は観察保護対象なだけかと」


 異議ありと、私は会話に割り込む。


「ふふ、ティアリス様って面白い。じゃ早速頼まれた要件をこなしちゃおっか。早く終わればゆっくりティアリス様とお茶の時間を取れるしね」


 シャローゼ様は、爽やかなブルーのテーラードジャケットを翻し、玄関へ向かい先頭を切って歩き出す。


 そして玄関口にすでに用意されてあった、黒塗りの魔導車に私は押し込まれた。


 何度か乗ったことのあるエメル殿下専用の、見た目も内装も上質な魔導車だ。


 今の時代、馬で荷台を引くなんてことはなく。


 魔導エンジンとやらにより、四つの車輪を回して移動する仕掛けの箱。通称魔導車が移動手段の主流となっているそうだ。


 容赦なく解雇された馬達が無事野生に帰れたかどうかが気になるところではあるけれど、つくづく文明の進化の速さには、目を見張るばかりだ。


「では、シャローゼ様、何卒ティアリス様をお願いいたします」


「了解。何かあればすぐ、エーテルリンクで連絡するわ。じゃ行ってくるわね」


「行ってらっしゃいませ」


 パタンとドアを閉め、恭しく胸に手を当てるレイモン様。


 程なくしてブルン、ブルンとエンジンの音が鳴り響く魔導車が走り出し、私は目的もわからず帝都市内へと向かうのであった。




 ※※※




 シャローゼ様に連れて来られたのは、百貨店という名の、食品から衣類まで何でも揃う大きなお店だった。


 どうやらお得意様らしいシャローゼ様により、私は百貨店内にある、やたら豪華な個室に通された。


「エメルから普段着を数着選んであげて欲しいと丸投げされたんだけど。あってる?」


「はい、普段着が欲しいです」


「ティアリス様は、これが欲しいって要望はある?」


「要望ですか……」


 シャローゼ様に問われ、私は頭を悩ませる。


「この生地がいいとか、色とか。あとはパンツがいいとか、スカートがいいとか」


 いまいちピンとこない私のため、シャローゼ様は具体的に提示してくれる。


「それか、お洋服を選ぶ上で譲れない点とか」


 スカートがいいのか、パンツがいいのか。その問いは私には難易度が高い。


 しかし、今の質問には簡単に答える事が可能だ。


「着心地と洗濯のしやすさ。それと生地は丈夫な方がいいですね」


 私は自信たっぷり即答する。


「……」


 どうやら質問の意図に対する解釈違いが発生しているようだ。

 何とも言えない沈黙が流れる。


「あー、うん。そっかー」


 微妙な空気感に耐えかねたらしく、シャローゼ様が私から視線を外した。


「ティアリス様は普段、どこに行く事が多いの?」


「いまのところ、古代魔法研究所内にあるエメル殿下の執務室がダントツで多いです」


「なるほど。他には?」


「ないです」


「そ、そっか」


 シャローゼ様ばかりか、次々と洋服を用意されたハンガーにかけていた店員さんまでもが、揃って微妙な視線を私に向けてくる。


「そ、それじゃあ、ティアリス様に似合う可愛いお洋服をいくつか私が勝手に選んでいく。うん、それがいいと思う」


 不毛な時間に終止符を打つ作戦を閃いたシャローゼ様は、店員さん達に顔を向ける。


「悪いけど、ここからは呼ぶまで外で待機していてもらえる?」


「かしこまりました」


 そそくさと退室していく店員さん達。


「まずはコーディネイトしやすい服の代表、ワンピースを選ぼうか」


 私はシャローゼ様に促されるまま、色んなタイプのワンピースを着ては脱ぎ、着ては脱ぎを繰り返す。


「これはどうかな?」


「うーん。スカートがちょっと短すぎる気がします」


「えー、今はもっと短いのが主流だけど」


「でもなんか、スースします。せめてこれ以上短い丈を着るなら、ズロースがないと」


「……なんか、おばあさまみたい」


「私はまだ二十歳です!!」


 そんなやり取りを何度か繰り返していくうちに、私はひとつの結論に達した。


 個性を追求するあまり、現代のお洋服は色やデザインがとにかく多すぎるのが問題だ。


 それはきっと、シャローゼ様たちには当たり前の常識なのかもしれない。けれど私には選択肢の多さが迷いに繋がり、結局無難極まりない黒いワンピースが一番しっくりくる気がする。


 つまり何が言いたいかというと、私は服のセンスがどうしたって古典的だという事だ。


「確かに似合ってるけど喪服じゃないんだし。こういう花がらのワンピースも一枚あったほうがいいと思う。今流行ってるし」


 シャローゼ様に別のワンピースを勧められるも、私は頑なに首を左右に振って拒絶する。


「私にはまだそのミニ丈はズロースなしでは無理です」


「そうやって主張してくれるようになったのは嬉しいけど……」


 シャローゼ様は思わずといった感じで天を仰ぐ。


「わかったわ。今日はティアリス様の要望通りで妥協する。でも次からはもう少しカラフルなお洋服を選んでね。気分もパーッと明るくなれるしさ」


 どうやらシャローゼ様は、私の好みを優先してくれるようだ。

 正直、粘りがちとも言えなくもないが。


「努力します。今はこれが一番落ち着くので大丈夫です。それと、首元と袖口のフリル使いがかわいい白いブラウス。あれがいいです」


「あーたしかにこっちの黒いワンピと重ね着したらかわいいもんね」


 私が自分の意見を押し通した事により、それからはトントン拍子で購入する品物が決まっていった。最終的にはシャローゼ様にコーディネイトしてもらった分も含め、三着のワンピースと、白いブラウスを二枚。それから薄いグレーのカーディガン。ついでにワンピースに合わせた靴も三足ほど購入する事になった。


 ちなみにシャローゼ様も自分用と言い、見るからに高そうなバックを二つほど購入していた。


「代金はこれで、一回払いでお願い」


 シャローゼ様が薄いカードを取り出し、店員さんに渡す。


「あ、ローゼ様。この服の代金って後払いでも大丈夫なんですか?」


「ティアリス様はそういうの、気にしなくていいの」


 それ以上聞くなと言わんばかり。シャローゼ様が強引に支払いを済ませ、私はお礼を口にしながら頭を下げる。


「購入品は先に車に運んでおいてもらえる?」


「かしこまりました」


 店員さんたちに、恭しく頭を下げながら私達は部屋を後にする。


「なかなか楽しかったわ。付き合ってくれてありがとう」


「こちらこそ、素敵なお洋服を選んでいただいてありがとうございました」


 買い物でしっかりとした戦果をあげられた私たちは笑顔を見せ合う。

 お洋服選びは大変だったけれど、そのおかげでシャローゼ様との距離が縮んだ気がしなくもない。


「エメルから頼まれた目的は果たしたわけだし、すぐ近くに行きつけのお店があるから、お茶しない?」


「お誘いは大変嬉しいのですが、実はお金がなくて。先程も浮かれた気分満載で、たくさんお洋服を購入しちゃいましたし」


 惨めな気持ちで告白する。


 そう、私は堂々と百貨店なる場所でお客様気取りで買い物をしたけれど、実際は一文無しの人間なのだ。


「もうすぐお給料が出るとは思いますが、一体どのくらいもらえるか、実はよくわかってないんです」


 正直、この時代に来てから、自分で何かを購入した経験がない。

 そのため、この時代の労働に対する通貨の価値がよくわからない。


 古代魔法研究所の最低賃金。

 それはいったいいくらなのだろうか。


 今後きちんと、本日の買い物分のお金をシャローゼ様に返済できるだろうか。


 もしかしたら身の丈に合わない買い物をしてしまったのではと、私は急に不安になる。


「やだ、そんなこと気にしてたの?」


「えぇ、まぁ。お金は大事ですから」


「それはそうだけど。今日使ったぶんは、エメルが全部出すって言ってたわ。だからあなたは気にしなくていいのよ」


「でも、殿下にはお世話になりっぱなしですし、そこまでしてもらう義理もないですし」


 流石に私の懐事情を、出会ったばかりの人に赤裸々に明かす状況というのは気まずいものだ。私はシャローゼ様の顔色を窺いながらモゴモゴと口にする。


「義理なら、もう十分に果たしていると思うけど? 」


「え……?」


 私は首をかしげる。一体、何の義理を果たしたというのだろうか。


 心当たりはまったくといってないけれど……。


「みんなは必死に隠してるけど、あなたって、あの突然現れたとかいう塔絡みの子でしょ?しかも名前が賢人ティアリス様と同じだし。ねぇ、それって偶然じゃないよね?」


「えっ!!」


 シャローゼ様の鋭い追及に、私はピシリとその場に固まる。


「私はあんまり政治の事とか興味ないんだけど、お兄様がコソコソお父様と話しているのを聞いちゃったのよ」


 シャローゼ様は少し言いづらそうにして、それから観念したように口を開いた。


「信じるかどうかは別として。私はあなたがあの塔ごとタイムワープしてきた人間だって知ってるわ」


「た、たいむわーぷですか?」


「ちょっと声が大きい!!頭のおかしい陰謀論者だと思われちゃうわ。話の続きはお店でしましょ」


 シャローゼ様は周囲の視線を気にしながら、私の手を引っ張った。


 たいむわーぷ。


 いったいそれは何なのだろうか。

 こすぷれと同じ。この時代独特の個性とやらなのだろうか。


 私は頭が混乱したまま、シャローゼ様にされるがまま、足を進めたのであった。

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