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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第一章 ここは百五十年後の世界
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001 世界を、仲間を、救った日

 ――世界を救う。


 そんなあり得ないほど大きな目的を背負わされ、長らく旅を続けていた私と仲間たち。


 果てしなく続くと思われた旅の最後。ようやく訪れたのは、真っ青に染まる空を切り裂くかのようにそびえ立つ、巨大な魔法の塔だった。


 興味本位か、はたまた悪意を持ってなのか。

 かつてこの塔から非常に高い魔力を帯びた結晶体が持ち出された。


 それらが世界各地に散らばることとなり、大気中の魔力が不安定になった。その結果、この世界に魔物が産み出されてしまうこととなる。


 私がこの世に生を受けた時はそんな状況が常識で、人々は長らく続く魔物との争いに辟易し、諦めに傾いた暗い世界だった。


 そんな中、私達は世界中に散らばっていた結晶体を収集し、いままさに塔のあるべき場所に戻すことに成功した。


 だからこの塔を出れば世界はふたたび平和を取り戻すはずだし、残りの人生を自分のために生きることが叶う。


 そんな希望に満ちた明るい未来がこの先に続くはずだったのに。


「――つまり誰か一人がこの塔に残り、内側から鍵をかける必要があるということだ」


 この場にいる誰もが気付き、それでもなかなか口に出来なかった衝撃の事実。

 それを敢えて口にしたのは、ウィルマーだ。


 普段はムードメーカー。パーティの中でもおちゃらけキャラを確立している拳闘士の彼の口から、いつになく真剣な声色で発せられた言葉が、私達の心に重くのしかかる。


 各々の視線を避けるように、ただひたすらうつむくことしかできない面々。

 どんよりと、重苦しい空気が辺りを覆う。


「何の犠牲もなく、世界を救うなんて無理ってことよね?だったら、私が残るよ」


 あと一歩進めば、塔の外に出られる。そんな位置にいた私は足を止め、敢えて明るい声で告げる。


「そんなの駄目だ」


 行き場のない怒りを逃そうとしたのか、壁に拳をガツンと打ち付けるエリオドア様。


「みんなで帝都に帰って共に祝杯をあげる。そう約束したばかりじゃないか」


 聖騎士という職業柄、筋骨隆々すぎるきらいはあれど、清廉潔白。頼り甲斐しかないリーダー的存在の彼が、いつになく悲壮感漂う顔で吐き捨てるように口にした。


 他人の心の痛みに、いつだって敏感に反応できる彼らしい。


「でもさ、エリオドア様は帝国の大事な皇子様なわけだし」


 私よりはずっと、混乱した世界を明るく導くには必要な人だ。


「では、わたくしが残ります」


 美しく凛とした声が響く。


 真っ白な法衣に身を包む事からもわかる通り、治癒魔法に長けたクラリス様は、民衆から聖女と呼ばれ、絶大な人気を誇っている。


 見た目だって私より可憐だし、何よりこういう時、誰よりも先に自己犠牲を厭わない、眩しいくらい真っ直ぐな人だ。


 よってこの世界を再建するにあたり、傷ついた人々に対する希望の象徴として、クラリス様は私なんかより遥かに必要な人材で間違いない。


「だめだめ。私が残るよ」


 私はいつも通り、軽口でクラリス様の案を却下する。


「現実的に考えて、この塔に残るのは俺かティアが適任だろう。だから俺が残る」


 いつだって冷静沈着を気取り、必要最低限しか口にしない物静かなメレデレク。


 フードを深く被っているせいか、表情はいつも通り全く読み取れない。けれど、耳に届いた彼の声は少しだけ震えていた。


 長いこと共にいて、彼が動揺をほんの少しとは言え、滲ませるだなんて初めての事かも知れない。


 もしかしたら、メレデレクは少しくらい。遠くに光る星の粒くらいは、私を大事な仲間だと思ってくれていたのかも知れない。


「だめだ、だめだ。俺も残る。というか、本当に内側からしか鍵はかからないのか?」


 ウィルマーが疑い深く、再度扉の鍵を調べ始めた。


 旅の始まりは、もっと多くの仲間がいたはずだ。


 けれど気づけば、残ったのは私を含めて六人。

 ここにいるのは数年ほど苦楽を共にし、なんとか生き抜いてきた大事な仲間たち。


 誰か一人でも欠けるのは、もう嫌だ。


 そんな気持ちが、私の背中をグンと強く押す。


「やだな。死ぬって決まった訳じゃないんだし。いつか扉をあけてくれるって信じてるしさ。ってことで」


 私は握ったウイッチワンドの先に魔力を込め、仲間たちを無理やり塔の外に押し出した。


「ティア!!」


「だめよ!」


 私が放った魔法がキラキラと眩しく光る中。

 エリオドア様とクラリス様の叫び声が響く。


「おい、身勝手すぎるぞ。待てってば!!」


 続いてウィルマーの声が聞こえた。


「ティア、今日は君の……」


 メレデレクは何か心残りがあるような、そんな表情のまま私を見つめる。

 あまり見せてくれないけれど、彼の深遠で神秘的に見える、まるでアメジストみたいな紫の瞳は好きだったな。伝えたことはないけどさ。


「今まで、たくさんありがとう」


 私はこちらに手を伸ばす仲間たちに、笑顔で感謝を伝える。


 塔の中に残された私の目の間で、大きな扉がギギギと音を立て閉じられた。


 光も音も遮断された中で、私は魔法の鍵でしっかりと塔を封印する。


「これにて一件落着っと」


 私の涙声だけがやたら大きく、塔の中に反響したのであった。




 ※※※




 私は生まれた瞬間から、この世界を救おうだなんて、そんな志を抱いていたわけではない。


 早くに両親を無くし、頼るあてもない私は孤児院を出たら自ら働く必要があった。


 だから生活資金集めの為、多額の報奨金がもらえる魔物退治に手を染めた。


 そんな中で、誰にでも備わる善意の積み重ね。

 それをひたすら繰り返していただけだ。


 その過程で仲間が増え、私はいつの間にか仲間と共に周囲から英雄と呼ばれるようになった。


 それは私が生きる世界が、滅亡の危機に瀕していたから。


 どこか諦めの色が濃く流れる世界で、人々から英雄と呼ばれる私達は、自ずと多くの希望を背負わされ旅に出た。


 だから正直、自己犠牲を持ってこの戦いに終止符を打つなんてわりに合わないなと思う。


「英雄か。私が望んだ訳じゃなかったんだけど」


 だけど、最後に旅をした仲間を救いたい。

 共に旅をした仲間が生きる世界に未来を繋げたい。


 あの時そう願った気持ちだけは、本心だったように思う。

新連載です。よろしくお願いします。

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