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成功の失敗

「甲斐、その後どうだ。」

 

「あっ、部長。はい、大金さんとは順調です。今度モデルルームを見ていただけるようになりました。結構乗り気でいてくれているのでこのままいけば契約まで行けるかと。」

 

「そうか、期待してるよ。」

 

ここで契約をとれたところで業績がトップになるわけではないが何か流れが良い方向に進んでいる気がする。

 

「よし、頑張るか。」

 

大金との打ち合わせのための資料をまとめていく


 

「というわけで、この様に住んでも良いですし貸しても十分の価値はあると思います。」

 

大金にモデルルームを案内しながらこれからのマンションの資産価値なども含め説明していく甲斐。それを楽しんで聞いている大金。

 

「ありがとうございます。正直、資産なんて興味はないのですが甲斐さんとは何かしらの縁を感じましてね。何かすごく面白いことが起こりそうな予感がするんですよね。だからこの契約進めてください。」

 

「えっ、ありがとうございます。私も何ですよ。大金さんとの縁が何か良い方向に巡っていく予感しかなくて。不思議ですね。」

 

「何か大きな力でも働いているのかもしれませんね。」

 

二人がこの縁を運命的なものであることを感じながらこれからの契約の流れなどの説明をしていく。


 

「よう貧川、調子はどうなんだ。」

 

いつものネカフェでくつろいでいるとチビの無水が入って来た

 

「ふんっ、俺にかまうなよ。」

 

「相変わらずだな、こう見えても心配しているんだぜ。さすがに闇堕ちは俺も見たくないからな。大品だって一応気にかけているぜ。」

 

「うるせぇ、俺は今まで一人でやって来たんだ。これからも一人で十分だ。かまうな。」

 

無水に背を向け横になる貧川

 

「このヤマは絶対にうまくいかせるんだ、邪魔すんなよ。俺の手柄だ。」

 

「邪魔なんかしないよ、今までもただ見ていただけだからな。でも今回はさすがにあとがないからな。」

 

「闇落ちが何だよ。そうなってもそれが俺だ。今回は成功させてやる。それだけだよ。」

 

「いつでも声かけてくれよな、これからもからかう相手がいなくなるとさすがに寂しいからな。」

 

無水はそう言って姿を消した

 

「大丈夫、絶対にうまくいかせるんだ。見返してやる。」

 

胸の中にいろいろなものが沸き起こってくるのを感じながら貧川は今後の策について思いを巡らせていた。


 

「社長、マンション買うんですか?安くないでしょう。」

 

「いや、お金のことはそんなに気にしていない。私は面白いと思ったらその流れに乗るだけだから。今までもそれで成功してきた。なっ、木村。」

 

「お前の運の良さには本当に嫌気がさすよ。俺にも分けて欲しいくらいだよ。」

 

「ねっ、大丈夫。心配してくれてありがと順子さん。」

 

小泉の心配をよそに気楽に構えている大金。

 

「さっ、私の心配より自分の心配。さっさと仕事終わらせて帰ろ。」

 

社長の言葉とは思えない言葉が出る会社、そのおかげで社員は思い切って仕事が出来ているし、信頼もある。

 

「ホント、運だけの男だよお前は。」

 

「ありがと。」

 

 

マンションの契約は順調に進みもうすでに終了を迎えていた。

 

「良い縁に恵まれたなぁ。ほかの物件の契約も次々と決まっていくし今月はノルマは軽く突破できる。」

 

「先輩、今月はどうしたんですか?営業トップにもう少しじゃないですか。このままいっちゃうんですか?」

 

「いやいや、もう限界だよ。それに欲は良くない。持続していくことが大事だからね。このままじっくりのんびり行くよ。」 

 

「欲がないなぁ。トップになったら表彰されるのに。」 

 

「いいんだよ、この歳になると表彰されるより長く生き延びることに目が行くんでね。じっくりのんびりよ。」

 

「やっぱりためになります。僕も頑張ります。」

 

「いやいや営業トップには言われたくないよその言葉。」

 

笑い声の中にどこか安心感が感じられた。それほど心の余裕が出てきた証拠である。今までいろんなものに押しつぶされそうになっていたものが何かの拍子に開かれた感じである。

 

「これもあの時声をかけてくれたおかげだな。」 

 

貧川のことを思い浮かべ、そっとほくそ笑んだ。


 

「ではこれで契約は終わりです。本当にありがとうございます。」

 

「いや、甲斐さんの熱心な思いが伝わりましたから私はそのまま流れに乗っただけです。とても分かりやすく丁寧な営業でしたよ。」

 

「そう言っていただけると光栄です。私も最近はやる気も出てとても良い感じです。これも大金さんを紹介してくれた方のおかげです。」

 

「やっぱり私のことを誰かに聞いていたのですね。でもその方には感謝しなくてはいけませんね。このような良い縁を結んでくれて。」

 

「本当にそうですね。」


お互いに良い縁に恵まれたことを疑わずに貧川のことを想っていた。


 

「そろそろだな。」

 

貧川の目の光が不気味に光り出す。

 

これから起こることを楽しそうに微笑んでいた。


 

その日、甲斐は外回りしてからの出社。会社に戻ると何やらみんなの雰囲気が険しい。

 

「どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「あっ先輩、ちょっと大変なことが起こってしまって。」

 

そこに上司が甲斐を目にして

 

「甲斐、ちょっといいか。」

 

「はい。」

 

と別室に呼ばれた。

 

少しこわばったように話し出す上司

 

「実は例の都市開発のことなんだが。」

 

「えぇ」

 

何が起こったのか全然把握できない甲斐

 

「無くなった。」

 

しばらく何を言っているのかわからなかった。

 

「えっ?」

 

「都市開発自体が無くなった。」

 

いろいろなことが頭の中を巡り

 

「じゃぁ、今推しているマンションは?」

 

「建設はそのまま進めるそうだ。しかしその資産価値については。」

 

真っ先に大金の顔が浮かんだ

 

「えっ、どうするんですか。このまま販売を続けるのですか。」

 

「上の判断はこのままでいくそうだ。」

 

「では顧客を裏切ることになるじゃないですか。良いのですかこのままで。」

 

「仕方がない、もうすでに動き出したものではあるのだから。顧客の皆さんには申し訳ないが運がなかったとしか。」

 

 部屋を出た甲斐はしばらく途方に暮れていた。自分を信じてくれた人のことを考えていた。このことを伝えるべきか黙っているべきか。

 

「先輩大丈夫ですか?」

 

「あぁ、しばらく考える。」

 

 信頼してくれた人に対してどう接していけばよいのか、頭を抱えてデスクにうずくまっていた。


 

 

「すいません忙しい中。」

 

「いえ、どうしたんですか急に。」

 

「ちょっといろいろと大変なことが起きまして。」

 

 きちんと話をしようと大金を呼び出した甲斐

 

「大変な事とは?」

 

 マンションの件について説明をする甲斐

 

「なんだ、そんなことですか。」

 

 話を聞いてもあっけらかんとしている大金。

 

「私はもともと資産については無頓着なことはお話した通りです。気にしないでください。大丈夫ですこのまま契約はそのままで。」

 

「ありがとうございます。それを聞いて少し安心しました。しかし大金さんには損をさせたことには変わりありません。本当にすいませんでした。」

 

 深々と頭を下げる。

 

「頭をあげてください。全然気にしてないですよ、むしろこの縁が結ばれたことの方が嬉しいだけですから。」

 

「そう言っていただけると光栄です。しかし私は大金さんにとって貧乏神なのかもしれません。このまま私と繋がっていたら不幸になりますよ。」

 

「大丈夫です、この縁を結んでくれた方に感謝しましょう。」

 

 平謝りする甲斐に対して、全然気にしていない様子の大金。

 

「さぁ、契約後の流れの説明よろしいですか。」

 

 大金は甲斐を少し気にかけて話の流れを変えていった。

 

「はい、では今後の流れについてお話させていただきます。」

 

 甲斐もそれに気づいて大金との会話を続けていった。


 

「…といった流れになります。何かご不明なことはありますか。」

 

「いえ、丁寧な説明でわかりやすかったです。この通りに進めてください。」

 

 一通り説明を終えて気が楽になった甲斐。

 

「そう言えば依然話したこの縁を結んでくれた方の名前がわかったんですよ。」

 

「えっ、そうなんですか。」

 

「はい、大金さんのオフィスの入ったビルの清掃員の方で貧川って方です。」

 

 それを聞いて何か腑に落ちた大金。

 

「そうですか。貧川さんは何かしら私も縁を感じていた方なんですよ。そうかぁ、なるほどぉ。」

 

 少し考えて

 

「これからまだまだ何かあるかもしれませんね。」

 

「これ以上何があるんですか、もうこりごりですよ。良いことなら良いですけど。」

 

「たぶん幸運ですよ。」

 

 根拠のない自信に満ちていた。


 

 しばらく都市開発の撤廃により会社の中がバタついた状態であった。それが少し落ち着きマンションの建設状況の確認などに周りが動き出していた。

 

「だいぶ落ち着きましたね。」

 

「そうだな、俺は大金さんだけだったから良かったけど他の奴らはもっと大変だったんだろうな。」

 

「そうですよ、私なんて3件ですからねぇ。それも全部キャンセルされてしまいましたから。ノルマの何もあったもんじゃないですよ。」

 

「結構キャンセルも入ったからなぁ。会社も押していたしな。」

 

「完成ももう間近ですしね。」

 

 そう、マンションの工事は順調に進み完成間近なのである。

 

「これ以上何もなければ良いけどなぁ。」

 

 そこに部長が怖い顔して入って来た。

 

「みんな聞いてくれ。また問題が起きた。」

 

部屋の中がざわつき始める。

 

「さっき工事関係者から連絡が入ってきて、例のマンションが火事になった。詳細はまだこれからだがこれからの対応についてみんな覚悟していてくれ。」

 

 そう言って奥の部屋に入って行った。

 

「先輩どうなっちゃうんでしょう。もう私にはわかりませんよ。」

 

「俺もわからん。もうどうにでもなれだ。」


 

「お久しぶりぃ、貧川く~ん。」

 

 いやらしい声を出しながら公園のベンチでいつもの様におにぎりを食べていると隣に髭が来た

 

「なんだよ大品さんよぉ。冷やかしかぁ。」

 

「いえいえ、そこそこ頑張っているなぁって思いまして。そんなに力を使って大丈夫ですか?そのうちバテますよ。」

 

「大きなお世話だよ。まだまだ余力は残っているからよ。大人しく見ていろよ。俺にかまうな。」

 

「まぁ、せいぜい頑張ってねぇ。」

 

 髭がベンチを立ち去っていく。

 

「ふんっ、まだまだこれからよ。」

 

 貧川の目の奥が光る


 

 このことをどう大金さんに伝えようか悶々として過ごしていた。

 

「本当にどうしようかなぁ。」

 

 会社のデスクに座りいろいろ考えているがどうにも良い案が思いつかない。

 

「先輩、大丈夫ですか?最近ずっと暗いですね。」

 

「当たり前だろ、せっかく信頼してもらって買ってもらった物件が火事だなんて。どう説明して良いものやら。俺のメンツやら全て潰された気分だよ。」

 

「まぁ、良いことありますよ。」

 

 後輩に励まされ余計に落ち込みそうになる。

 

「本当に俺は貧乏神だなぁ。とりあえず大金さんに連絡とるか。」

 

 踏ん切りをつけ大金とのアポを取り伝える内容をまとめていると部長が部屋から出てきて

 

「例の火事の件で報告がある。」


 


「あっ、大金さんこちらです。」

 

 カフェで待ち合わせをしていた甲斐

 

「すいません、お忙しいところ。」

 

「どうしたんですか?連絡いただいた時何か暗い感じがしてましたけど。」

 

「あの時は確かに暗かったですね。でも今日は良い知らせです。」

 

 早く伝えたいのをグッとこらえ水を一口含む。

 

「あのぉ、何から話せばよいか。まずですね、例のマンションですが火事になりました。」 

 

「えっ、それは良い知らせではないでしょ。どうなるんですか?」

 

「残念ながら契約は破棄になります。代わりの物件なども紹介できますが、その前に。」

 

 少しタメてから

 

「火事になった物件ですが保険会社の契約事項に購入者様に対しての項目もありまして見舞金の方が支払われることになりました。」

 

 資料を大金に渡し

 

「こんなに貰えるのですか?」

 

 その額にびっくりする大金

 

「もともと安い物件ではなかったものですから保険も手厚く入っていたようで。そこでどうですか?他の物件には興味ありませんか?」

 

「さすが営業さん。」

 

 少し考えて

 

「今回はここまでにしておきます。実際欲しい物件なんて今無いわけでして。また今回はたまたまの縁が導いてくれたものですから。また何かの縁がありましたら紹介してもらいます。」

 

「そうですよね。私も今回の縁は何か不思議なものが感じられましたから。それが良いです。」

 

「甲斐さんは貧乏神なんかではないですね。結局のところ私はこうして得したわけですから。」

 

 お互いにこの不思議な縁をかみしめていた。


 

 気分よくオフィスに戻っていた大金。

 

「貧川さんじゃないですか。」


 ビルの清掃をしていた貧川を見つけ声をかける。

 

「甲斐さんから聞きましたよ。貧川さんが私のことを紹介したって。ありがとございます。とても良い縁に恵まれました。

 

「何言ってるかわからん。仕事の邪魔すんな。」

 

 相変わらず仏頂面の貧川に

 

「やっぱり貧川さんとの縁は何かあると思っていました。」

 

「だから知らねぇって。俺にかまうな。」

 

「また食事に行きましょうね。」

 

 そう言ってオフィスに戻る大金

 

「なんなんだよまったく。お礼を言われる貧乏神って。チクショウめ。」

 

 悪態をつきながら雑に仕事をしていく。

 

 そこに派手なコート姿の髭が現れ

 

「貧川くぅ~ん、だいじょうぶぅ~。」

 

「またいらん奴が現れた。」

 

「そう言わないでよぉ。こう見えても心配してるんだからぁ。まさかこれで終わりなんて言わないわよねぇ。」

 

「当たり前だ。まだまだこれからよ。今回は綿密に策を練っているんだから。」

 

「あらぁ~そうは見えないけれど。手を貸そうかぁ~。」

 

「うるせぇ、これは俺のヤマだ。俺一人でやってやる。絶対に手を出すなよ。」

 

「心配していっているのにつれないねぇ。じゃぁ頑張ってねぇ。」

 

 そう言って姿を消していった。

 

「ふんっ、どいつもこいつも。次こそは。」

 

 次の策はもうある。俺にはもう後はない。ただやるだけだ。


 

 一通り仕事を終え清掃会社の事務所に戻る。

 

「お疲れ様です。貧川さん。これ差し入れです食べてってください。」

 

「ふんっ。」

 

 不愛想に差し入れのお菓子を手に取り椅子に座って食べ始める。

 

「お疲れ様で~す。」

 

「お疲れ、安西さん。いつも頑張っているねぇ。本当に働き者だよ、あなたは。」

 

「まだまだ頑張らなくちゃいけないので。これからもよろしくお願いします。」

 

「そこに差し入れあるから食べなさい。」

 

「ありがとうございます。」

 

 とそこに座っていた貧川を見ると

 

「あっ、貧川さん。どうしてここに。」

 

「あら、二人とも知り合いかい。」

 

「以前お世話になって、ここで働けるようになったのも貧川さんのおかげなんです。」

 

「この不愛想な貧川さんがねぇ。人は見かけによらないねぇ。」

 

「ふんっ」

 

 貧川は不愛想に席を立ち帰ってしまった

 

「たぶんシャイなだけなんじゃないかな。本当は良い方ですよ。」

 

 立ち去った貧川を目で追っていた。


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