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因果


ネカフェに着いた貧川、いつもの様に受付けをすませ部屋に入る。


するとどこからともなく声が聞こえる。


 「どうだ?調子は。」


 「ふん。いつもと同じだよ。どうせ俺を笑いに来たんだろ。せいぜい今のうちに笑っておくんだな。」


 「相変わらず威勢の良い奴だ。でも威勢だけでは世の中わたっていけないのが世の常。特に我々の世界ではな。全ては結果がすべて。結果のない者は堕ちるのみ。わかっているな。」


 「へっ、そんなの鼻っからわかっているわ。だから俺はいつも笑われているのだからな。でも今回ヤマはデカいぞ。逃してなるものか。絶対みんなを見返してやる。」


 「ほぉ、ではせいぜい期待しているぞ。ひよっ子の落ちこぼれさん。」


 そういうと声は聞こえなくなった。


 「ふん、せいぜいほざいてろ。今は落ちこぼれでもそのうち結果出してやる。結果出しゃ良いんだろ結果。」


 床に横になりしばらく思考を巡らす。


 『あいつは良いカモだ。慎重に行かなくてはな。縁の紐は繋いでおいた。後は俺の策次第だ。大丈夫だ。俺は出来る奴だ。』


 自分を鼓舞して策を色々と考え始めると

 

トントン


 ドアをノックする音


 「誰だ。」


 扉が勢い良く開いてあのいやらしい髭が現れた。


 「いやぁ、相変わらずこんな所にいるのですかぁ。ほぅ、なかなかどうして案外良い空間ですねぇ。一人暮らしをしていたらあなたなんかすぐにゴミ屋敷になるでしょうけどねぇ。小綺麗でよいよい。」


 「なんだよ、急に。最近よく俺の前に現れやがって。そんなに俺が怖いのか?」


 「あらぁ、ご機嫌斜めねぇ。この落ちこぼれの今にも墜ちそうなあなたがぁ。いやいやムキになるのも馬鹿らしいですねぇ。いやね、良いカモを見つけたらしいって嗅ぎ付けたのでね。あなたごとき堕とせるのかなぁってね。何なら引き受けてやろうか?って思っただけでしてねぇ。」


 「相変わらず鼻が利く奴だな。お生憎様、今回の相手は俺が堕とすよ。絶対に。デカいやヤマだからな。お前なんかにやるかよ。絶対に手を出すなよ。俺一人の手柄だからな。」


 「あらあら、威勢の良いこと。私はあなたごときに堕とせる相手ではないのかと思っただけよ。せいぜい自分が堕ちないように気を付ける事ね。せっかく親切に手助けしてあげようと思ったのに、残念。」


 「うるせぇ、やるったらやるんだよ。絶対にみんなを見返してやるんだから。」


 「おぉ、怖い怖い。一応忠告に、奴はかなり手強いわよ。巻き込まれないようにね。」


 「ふん、俺の手に掛かればイチコロよ。いらない心配ありがとよ。」


 「まぁ、頑張ってね。私はあなたが堕ちる所をずっと見たいのだから。」


 「悪趣味には付き合わねぇよ。今回で一発逆転だ。」


 大きな声で笑いだす髭の男


 「せいぜい頑張ってねぇ。後、今日は定例会よぉ、楽しみにしてるわよぉ。」


 捨て台詞を吐き出ていった髭男。


 「どいつもこいつも。」

 

 

俺は貧乏神。齢200歳ほどである。あの髭男は大品数一、齢800歳ほどでずっと貧乏神界のトップに君臨している奴である。


 貧乏神。そう人を不幸にしてなんぼの商売。俺はその生き方の通りきちんと人を不幸にしてきた。それなりの結果も出してきた。しかしいつも最後が悪い。そのせいで俺は貧乏神界でも落ちこぼれになっている。おかげで俺の性格は歪みに歪みきって来た。歪めば歪むだけ結果も悪くなる。悪循環である。そう、俺は焦っている。だから一発逆転を狙ってデカいヤマを探していた。今回はかなりの大物。慎重に行かなくてはいけないがあの髭男の目をつけられている。今回の定例会で奴の動きを止めなくてはこの山も取られてしまう。


 「ほんとに、どいつもこいつも。」


 定例会までは時間がある。腹もいっぱい。眠気が襲って来た。


 「しばらく休むか。」


 床に横になったまま目をつむる。


 頭の中にいろいろな思いが駆け巡っていた。誰にも相手にされず友達なんてものの存在すらわからない。ずっと一人で生きてきた。同じ貧乏神達には冷たい目で見られ続け、誰も味方などいない。全ての判断は自分のみ。その結果、悪い方向に進んだとしてもそれは自分の責任。自分のやったことが自分に降りかかっているだけ。それはわかっている。わかっているけど寂しい。

 

 「ふんっ。」


 なかなか寝付けずにゴロゴロ床を行ったり来たりしていた。ただ照明しかない天井を見ながら自分のしてきたことを振り返っていると辺りが急に真っ暗になり身体が落ちていく感覚にとらわれる。

 

 辺りは暗く所々に灯篭の明かりが見える。



 貧乏神の定例会。


 何十年かに一度行われそれぞれの貧乏神の評価がされる。

 

「よぅ、貧川。相変わらず底辺にいるのかぁ。」


 そう言って来たのはチビの無水。齢500歳一応先輩である。

 

「うるせぇなぁ。どうせ俺は落ちこぼれだよ。そんなに落ちこぼれの俺をからかって楽しいのかよ。」


 「あぁ、楽しいねぇ。そろそろ堕ちていく手前のお前の顔を見るのもあと少しだからなぁ。少しは拝ませてくれよ。」


 「ふん、せいぜいほざいていろ。そのうちトップに躍り出てやるからな。お前なんて見下してやるよ。」


 「おぅおぅ、口だけは威勢が良いなぁ。楽しみにしておくよ。おっ皆無も来たか。またほざいてるぜ、この能無しが。」


 「言わせておけよ。それしか出来ないんだから。今回はお前、どうなんだよ。」


 「任せておけよ。こんな落ちこぼれとは違うからな。それなりの成果は出してるぜ。」


 ここで現れたのがいけ好かないイケメン面の皆無、齢400。無水の後輩であるが出来る奴である。そのうち髭の大品を抜くのではと言われている。


 「そんな奴相手にしていると出世できないぞ。俺は常に上しか見ない。下を見ていたところで身になることなんてないのだから。」


 「さすが、言うねぇ。そうだな、こんな奴相手にしてるだけ時間の無駄ってことだな。じゃぁなぁ、貧川。せいぜいあがいていろよぁ。」


 二人が定例会の場に向かっていった。


 「ふん。俺が今まで成果を出せなかったのは運がなかっただけだ。しかし今はやっと運が向いてきた。せいぜいほざいていろ。」


 今回のヤマについて定例会で発表して誰にも手を出せなくしてやる。俺だけの手柄だ。


 いろいろ策を練りながらみんなの集まる社に向かっていった。


 定例会、それぞれの貧乏神がそれまでの成果とこれからの目標などを発表する場。それによってそれぞれのランクが提示される。まぁ俺には関係ない場。どうせいつもの様に一番下なのだから。この結果を気にしているのは上位の者だけで、結果によっては褒美や出世が見込まれる。出世すればするだけ神の域に達していき将来的には神の住む場所に行くことが出来る。そしてその逆に悪い結果ばかりだと闇堕ちと言われる未来永劫抜け出せない闇の世界に堕とされる。その闇堕ちに一番近いのが俺である。今まで闇堕ちするほど成績が悪い奴がいなく、ここ何百年と闇堕ちした奴がいいない。そのため、みんな俺が闇堕ちすることが楽しみでしょうがないのである。闇堕ちがどういうものなのか知らない奴もいるためその瞬間に出会えることが良いらしい。


 「人の不幸が栄養の貧乏神、仲間ですらその栄養にしたいんだな。」

 

 「皆の者、よく集まってくれた。今回の定例会はいろいろと久しいことが起こっておる、私も楽しみにしていた。では、これから定例会を始める。」


 貧乏神界のトップ、本当の神様である。


 「今回のトップはいつもと同じように大品、そして最下位もいつものように貧川。この結果も楽しいものである。ここ何百年とこの関係が変わらない事実、実に珍しいこと。愉快である。しかしこの結果に皆は満足か?いつも同じ結果ではつまらないであろう。どうだ?貧川。」


 いきなりふられて動揺するも


 「今回は大丈夫です。私はこれから絶対にのぼりつめます。見ていてください。」


 俺ももういつもと同じ結果ではいられない。今回は大丈夫、絶対にものにする。そう誓うために神に向かって宣言する。それを聞いて周りの貧乏神達は失笑している。


 「今回はしっかりモノにしますので見ていてください。」


 「楽しみにしているぞ、貧川。しかしわかっておるな、今回ダメだった時の対応を。」


 「はい、甘んじて受けます。それだけ私も本気で頑張ります。」


 また周りから笑い声が聞こえてくる。


 そのあと皆のそれぞれの結果報告やこれからの狙いなどを聞いていく。そんな話などは全然耳に入ってこなくただ自分のことだけ、自分の目標のための計画を丹念に練っていた。そうこうしていると 


 「以上で今回の定例会を終わる、皆の者これからも精進するように。」


 皆が散りじりに散って行く。それぞれがそれぞれの持ち場へと消えていった。そこに髭が目の前に現れ


 「本当に楽しみにしてるわよぉ、貧川さん。」


 「今回は手出しするなよ、俺の獲物だ。どうせお前の上には立つことはできないかもしれないが今よりはマシになる。絶対だぞ。」


 「あらぁ、何の心配?私はあなたなんて相手にしないわよ。せいぜい頑張ってねぇ、いろいろと楽しみにしているから。」


 「ふん。」


 髭はその場から消えていった。


 「大丈夫だ、俺が本気出したら絶対できる。流れが来ているんだ。このチャンスを絶対ものにしてやる。」


 気付いたらいつものネカフェに横たわっている貧川。様々な思いの中、眠りについた

 



「おはようございます、社長。」


「おはよう、こずえちゃん。今日も早いね。」


「まだまだ新人ですからこれくらいは。」


「珍しいねそんな考え、今どきでないよ。もっと気軽に働いていいのに。」


「いえいえ、早く仕事に慣れなきゃ。」


「おはようございま~す。」


「あっ、順子先輩。おはようございます。」


「おはよっ、こずえちゃん。相変わらず早いね。」


「うぃ~す。」


「柴田さん、また二日酔いですか~。」


「きちんと出勤しているから良いんだよ。あっ、社長おはようございます。」


 続々と出勤してくる社員たち。

 

「あれっ、木村さんは?」

 

「あっ、木村先輩なら仮眠室に。」

 

「なんだまた泊りか~、そんなに帰るのが嫌なのかねぇ。」

 

「私が起こしてきますよ。」

 

「ありがとう順子さん。よろしく。」


 社員はこの4人の小さい会社ではあるが、大金と木村で開発したシステムが当たり物凄く儲かっている。会社を大きくしても良かったのだが多くの仕事を他の会社に回し今は運営を主にしている。そのためこの人数で十分である。大金の運営の才と運、そして木村の頭脳で業績もうなぎのぼりである。

 

「やっと起きていたのか木村。」

 

「あ~家に帰るのがめんどくさい。どうせ一人だし、ここの方が落ち着くよ。」 

 

「お前のデスクを見たらわかるよ。完全に私物化してるからな。」


 木村のデスクの周りにはお気に入りのフィギュアがずらりと置かれている。

 

「この可愛さがわからない奴とは話したくないね。で、もう朝なのか?」

 

「相変わらずですねぇ木村さんは。これ朝飯です、コンビニですけど。」

 

「気が利くねぇ柴ちゃん。」


 弁当を受け取りデスクに戻る木村。

 

「じゃぁ、それぞれ仕事始めようか。今日は週末だから夜は奢るよ。」

 

「さすが社長、太っ腹。」

 

「いつもみんなには頑張ってもらっているからね、このくらいはさせてもらうよ。さっ、仕事仕事。」


 それぞれがそれぞれの仕事を始めた。

 

大金もデスクに着き仕事を始めたが、ふっと貧川のことを思い出す。何かしら不思議な縁を感じていた。


 

「たぶんまた会えるのだろうな。」


 そんなことをつぶやき作業に戻った。



 

「さてと。」


 いつものネカフェを出ていろいろと策を練ったことを思いめぐらす貧川。


「大丈夫、これだけしっかりした策を何重にも考えたんだから。後は不幸の縁を使ってあいつに近寄るだけだ。」


 公園のベンチに座りおもむろにバイトを探し始める。スマホの求人を眺めていると不気味に輝く求人広告を見つけニヤリとする。



 

「さぁ定時だ。帰るよぉ。」

 

「えぇ~ずるいですよ順子先輩。私はまだ終わらないです。少し残業していきます。」

 

「俺も残業ぉ。お疲れさん。」

 

「なんだぁ、私だけぇ~。じゃっ、お先で~す。」

 

「お疲れ様です。」

 

「社長、お先で~す。」

 

「うん、気を付けて帰宅してくださいね。」

 

自分の仕事の管理はそれぞれに任せている。それだけ優秀な社員が揃っている。本当に私は縁に恵まれている。

 

「大金、先帰ってよいぞ。俺はどうせまた泊りだから。」

 

「木村、いい加減家帰れよ。ここはお前の家じゃないんだぞ。」

 

「もう家みたいなもんだよ。」

 

そう言ってデスクもフィギュアを撫で始める。

 

「私達も大丈夫ですよ、社長帰ってください。」

 

「ありがとう、こずえちゃん。じゃぁ、先帰るわ。みんな無理しないでくださいね。」

 

「お疲れ様です。」

 

「お疲れ~。」

 

身支度をして帰る準備をしてオフィスを出る。

 

オフィスを出てビルも廊下を歩いていると清掃員の人がビルを掃除している。

 

「お疲れ様です。」

 

声をかけるも振り向きもせずに作業している清掃員。その後ろ姿に何か思い出しそうになる。

 

「あっ、もしかして貧川さんではありませんか?」

 

その声を聞いて振り返る清掃員。

 

「んっ?なんだお前はこの前たらふく肉食わせてくれた奴じゃん。なんだ、このビルで働いているのか?」


 

「それは私の言葉ですよ。なんで貧川さんがここにいるのですか。」

 

「お前と会ってから日雇いを辞めて契約社員になったんだよ。まだ宿無しだけどな。」

 

「えっ、そうなんですね。少し気になっていたのですよ、良かった。少しは食べれるようになりましたか?」

 

「うるせぇ、俺にはかまうなよっ。どうせロクなことになりゃしない。」

 

「そんなこと言わないでくださいよ。これも何かの縁、仲良くしましょうよ。」

 

素知らぬふりをして作業に戻る貧川。それを嬉しそうに眺める大金。

 

「ここで働いているならまた会えますね。これからよろしくお願いします。」

 

「ふんッ。」

 

相変わらずの貧川に手を振り帰る大金。その後ろ姿を見る貧川の目の奥には薄く鈍い光がうごめいていた。



 

街の電光掲示板や照明等がきらめく中、人ごみに紛れて歩く二人の姿。


「大品さんよぉ、貧川のやつどうなるのかねぇ。」

 

チビの無水が髭の男の後ろをひょこひょこついて歩きながら聞いてくる。

 

「どうでしょうねぇ、あの貧川ですからねぇ。どう頑張っても結果は同じでしょうけどねぇ。」

 

「楽しみですねぇ。どう転んでも次の定例会まで持つかどうかの話でしょうねぇ。」

 

奇妙な笑い声をあげて喜ぶ無水。

 

「そんなに仲間の不幸を喜ぶものではないですよぉ。一生懸命応援しようではないですか。」

 

こちらも口元は笑いながら話す。

 

「まぁ、じっくりお手並み拝見しましょ。私たちが手を出すまでもなく自滅するのが彼ですから。」


 

「本当にあいつはどうして貧乏神なんてやっているのか。どう考えても真逆のことしているとしか考えられないからね。」


「世の中には生きる世界を間違えるものもいるのですよ。その人にあった世界でしかその人の真価は認められない。貧乏神界に生まれた彼はそれ自体が不幸なのかもしれませんねぇ。今までよく頑張っている方ですよ。今回は上手くいったとしても結局は結果を後伸ばしにしているだけなのにねぇ。それに早く気付いて欲しかっただけなのにねぇ。あんなに頑張っちゃって。」

 

二人の人影が光の中からだんだんと闇の中へと消えていく。

 

「それではここで。」

 

「は~いぃ、お互いまた頑張りましょうねぇ。」

 

「大品さんにはどう頑張っても追いつけませんよ。私は私なりにやっていきます。」

 

そう言って別れていった。



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