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出会い

   出会い


 「ん~~。今日もこれだけか~。」


 手に持ったコンビニのおにぎりを見つめ、ため息をつく。日雇いバイトでネカフェ暮らし、この生活ももう慣れた。空腹さえ心地よく感じ始めている。おにぎりをなるべく満足感を得ようと少しずつ口に入れる。


 「はぁ~。」

 

 さすがにこう毎日おにぎりだと体力が持たない。

 

 「たまにはたらふく肉食いてぇな。」


 自分には夢みたいなことを口にする。肉すら久しく食べていない自分が虚しくなる。


 「何やってんだろなぁ、俺。」


 天気の良い昼間の公園、雲一つない空を見ながらぼ~っとしている。今日はバイトが見つからなかった。しばらく節約しないとおにぎりすら食べられなくなる。


 「さっさと寝るかなぁ。」


 いつもの寝床のネカフェに足を運ぶ。公園内にはカップルやら運動している人、子供連れの家族などがたくさんいる。


 「あっ、今日は日曜か。」


 曜日感覚すらマヒしていた。とよそ見をしながら歩いていると。


 「キャッ。」


 「あっ、すいません。」


 よろける女性に頭を下げる。


 「あっ、貧川さんじゃないですか。」


 「えっ、なんで私のことを。」


 「私のこと覚えてませんか?安西です。安西清美。」


 しばらく女性の顔を見て


 「あ~あの安西さん。久しぶりです。元気ですか?」


 「えぇ、借金はいっぱいあるけど今は仕事も見つかって元気に暮らしています。貧川さんのおかげで仕事見つかったも同然だから感謝してます。」


 「いや私なんて何もしてませんよ。それより迷惑ばかりかけていた気がしますけど。」


 「いえいえ。本当に私、貧川さんのおかげで頑張れるようになったのですよ。貧川さんは元気だったのですか?」


 「まぁ、私はいつも一緒です。」


 少し気まずそうに話をしていく。


 「あっ、私これから仕事なんで。また会えたらよいですね。」


 「はい、ありがとうございます。気を付けて。」


 そのまま安西さんとそこで別れた。


 「まったく、私に感謝するなんて変わった人だ。こんな私に関わって幸せを感じるなんて。」


 とぼとぼといつものネカフェに向かった。今からなら少し早い気がしたため街中をしばらくぶらぶらする。すれ違う人達や街ゆく人達を眺めて


「どいつもこいつも幸せそうにしやがって。みんな不幸になれば良いのに。」


 悪態をついたところで自分の境遇が変わるはずがないのはわかっている。しかし羨ましい。


 「みんな不幸にしてやる。」


 貧川の目が不気味に光る。


 「いやいや、やめとこ。」


 自分にそんな力がないことは重々承知している。だからこんな生活をしているわけだから。


 「どこかに金持ちいないもんかねぇ。誰か養って欲しいものだ。」


 「いつもそんなこと考えているからいつまでたってもうだつが上がらないんですよ。」


 急に後ろから話しかけられる。いつもの嫌な声だ。


 「なんだよ、俺にかまうなよ。お前はエリートなのはわかっているよ。」


 いやらしそうな口髭を生やしてニヤニヤして話しかけてくる。


 「まだそんな生活しているのですかぁ貧川さん。もういい加減諦めたらどうですかぁ。そろそろ限界でしょう。」


 「うるせぇ、どうせ俺は落ちこぼれだよ。でもまだまだやれるんだよ。黙ってろ。」


 「あらあら、強がっちゃってぇ。まぁせいぜい頑張ることですねぇ。みんなあなたがいつ堕ちていくか楽しみにしているんですからぁ。もう少し楽しませてもらいますよぁ。」


 口髭の男をにらみ返して


 「絶対に一発逆転してみせるよ。お前らなんてそのうち上から見下ろしてやるからな。」


 「せいぜいあがいてねぇ。堕ちるのは時間の問題ですけどねぇ。」


 派手なコートを翻し笑いながら去って行った。


 「ちくしょう、どいつもこいつも。俺はただ運がないだけなんだよ。そのうちデカい山当ててやる。」


 そうは言ったものの未だあてはない。アンテナは張ってはいるもののなかなか良い情報が入ってこない。


 「まったく世の中間違ってる。」


 嫌な奴ほど出世していく。俺の周りの出世したやつらはみんな俺を見下し笑いものにしやがる。落ちこぼれを見て自分を満たしている。まぁ俺の生きる世界ではそれが当たり前なのだからしょうがない。


 「ちくしょう。」


 このまま寝床に行こうかと思ったのだが腹が立ちすぎて少し落ち着くために近くの公園に寄る。公園で水をたらふく飲んでからベンチに座る。隣には背の高いいかにも騙されやすそうな顔をした男が座っていた。


 グ~~~ッ


 大きく腹の虫が鳴く。


 「腹減ったなぁ。」


 夕暮れの空を眺めながらいろいろ考えていると


 「お腹空いているのですか?」


 急に隣の男が話しかけてくる。


 「よろしければ一緒にご飯食べませんか?今日は私ひとりで、誰かと食事したいなぁって思っていたのですけど。」


 貧川のアンテナと眼の奥の光がざわめく。


 「えっ、こんな初対面の俺でいいの?ありがたい。」


 「はい、その代わり何か面白い話聞かせてください。」


 「面白い話?俺芸人じゃないぞ。あまり期待するなよ。」


 「いえいえ、その面白いじゃないです。あなたの経験とか聞いた話などを聞きたいだけです。」


 「なんだ?そんなんでいいのか?ならいいぞ。」


 「じゃっ、行きましょう。何が食べたいですか?」


 「当然、肉‼」


 微笑みながらその男は


 「いいですねぇ、焼肉で良いですか?いい店知っているので行きましょう。」


 内心ガッツポーズをして


 「言っとくけど、俺金ないからな。後でボッタくるなよ。」


 「大丈夫です。お金はいっぱいありますから。」


 また貧川の目の奥の光が輝きだす。


 男について行きやって来たのはいかにも高級な焼き肉屋。さすがにビビる。


 「さっ、入ってください。」


 「いらっしゃいませ、これは大金さん。いつもごひいきにありがとうございます。」


 そして当たり前のように個室に案内される。


 「おまえ何もんだ?よっぽど偉い奴なのか?」


 「いえっ、会社は経営ますけど、大したものではないですよ。」


 個室で対面して座り


 「好きな物頼んでください。」


 そう言ってメニューを渡される。


 「何でもいいのか?」


 「はい、どうぞどうぞ。」


 そう聞いてメニューの高いものを大量に頼む。


 「本当にいいんだな?後で請求とか無しだからな。」


 「大丈夫ですよ。気にしないでどんどん食べてください。」


 「おう。」


 遠慮しているようで全然遠慮せずに注文していく。


 ある程度頼んだ頃


 「私は大金持也。一応IT関係のCEOをやってます。人の話を聞くのが大好きで時々このように見ず知らずの人と食事をしたりするんです。」


 「金持ちのすることはよぅわからん。こんなので金使うってよっぽど金持ってんだよな。」


 「そんな贅沢なことはしないので貯まる一方で。後投資なども順調なため困ることはありません。」


 「まったく、世の中不公平極まりないとはこのことだな。俺は貧川、貧川無安。その日暮らしで毎日、毎日食べるだけで精いっぱいの者だよ。そんな奴の話でも良いのか?」


 「はい、私は色んな人の経験を聞くことで成長できると信じている者で。で、貧川さんは何で今の生活になったのですか?」


 「俺は生まれっからの貧乏で親にも兄弟にも見放された存在よ。都会に埋もれれば何とか生きていけると思ってここに来た。人と関わることも苦手な俺は日雇いのバイトでネカフェ暮らし。まぁ、危ない橋を渡ることだけをしていないのが自慢だけどな。」


 「そうなんですね。大変苦労されているのですね。私も以前似たような方と話したことがあるのですが、どうしても警察にお世話になりそうな仕事に手を染めていらして、さすがに怖くなりましたけどね。」


 「お前、そんな奴とも話しているのか?よく生きていられるな。まぁ、俺もやばい奴らとの繋がりはあるが別次元の奴らだからな。」


 「やっぱりそのような方々との繋がりはどうしてもあるみたいですね。私の場合は悪運が強いのか巻き込まれることはないのですが、怖い体験とかありませんか?」


 「俺と関わっている奴らはちょっと変わったやつらだからな。それに奴らは俺を見下しているし、役立たずだと思ってやがる。だから俺は奴らを見返すために一発逆転を狙っているんだ。」


 と、ここで頼んでいたものがテーブルに並ぶ。


 「まぁ、ゆっくりいっぱい食べてください。」


 その言葉を聞く前に肉を焼き始める。酒は飲まないようにしているため烏龍茶を飲む。しばらく食べることに夢中になる。久しぶりの肉であるし高級店の肉である。堪能しない手はない。

 

 無言で肉をほおばって食べていると


 「よっぽどお腹空いていたのですね。そんなに慌てて食べなくても、ゆっくり食べてください。私は食べませんから。」


 「なんだ、お前は食べないのか。」


 「私は小食なのでそんなに食べないんです。」


 「そうか。俺はいつまたこんなに食べれるかわからんからな。今のうちに食べておかなくては。」


 少しずつではあるが貧川の目の奥が光り出す。


 「明日になればまたその日暮らしの始まりだからな。今日くらいはたらふく食わせてもらうぞ。こんなに珍しい金持ちはいないからな。」


 それを聞いて笑う大金。


 「まぁ、私が変わりものなのは承知しています。いつも言われますから。でもそのおかげでいろいろな人と会話が出来るのですけどね。そして私はその分、成長していきます。日々変化を求めたがるのですのよね私は。」


 「変化ねぇ、今どき珍しい奴だな。普通の人間は変わることを恐れるのにな。」


 「変化がなければ人は成長しません。成長がなければ成功なんて訪れませんからね。」


 「でもそんなに金持っていて社長もやっているのに、もう成功した奴の言うことじゃないな。」


 「私なんて成功者なんて思っていませんよ。両親を小さい頃に亡くして親せきの家で育てられていたから、早く自立したかっただけですから。」


 「なんだ、お前ひとりもんか?いい人いないのか?」


 「このようお金があると私の周りに寄ってくる人はみんなお金目当てに見えてくるもので。なかなか一人には決められません。」


 「一人にはって、これだから金持ちは好かん。」


 「そうですか?貧川さんは、誰かいないのですか?いい人。」


 「俺なんかにそんな奴できる訳ないじゃないか。こんな社会のゴミ、相手にする奴なんていないわ。」


 「そうですか?私には何か貧川さんには惹かれるものがありますけどね。何かすごく深いものが後ろにありそうですけど。」


 それを聞いて貧川の目の奥の光が少し陰る。


 「俺の周りは妬みひがみばかりだからな。そんな目にさらされて生きてきたのよ。人間なんて皆一緒、自分のことしか考えていない。所詮生きていくには自分で何でもやらなくてはいけない。親兄弟なんてものも要らん。全ては自分のみ。一人で十分だ。」


 「そうなんですね。何か近いものを感じます。私もずっと一人でしたから。でもなぜか私はいろいろ恵まれた。何をやってもうまくいくし勉強もそこそこできたし。私と貧川さんの違いって何なんでしょうね。」


 「簡単な事よ、周りの者と環境。俺は生まれ持っての不運な者よ。こんなに恵まれない奴はそうそういないと思うけどな。って俺の場合自分から不幸になっているところもあるけどな、俺は人と関わるのが嫌いだから。」


 「私は人と関わることが好きですからね、そこが違うのかもしれませんね。私は基本、人を信じることにしています。だからいっぱい騙されますけどね。でも騙されても何とかなるんです。それに騙されることによりいろいろ気付かされますしね。何でしょうかね。」


 「ふん、ただ悪運が強いだけなんだよ。よっぽど前世で良い行いしたんだろうな。そのうち痛い目に合うぜ。」


 それを聞いて笑いながら


 「良いんですよ、私なんて。ここまで上手くいったんだから。良いことと悪いことも平等に来るものです。いつか本当に痛い目に合うのかもしれませんね。」


 「まったく、そこまでお人好しでなんで成功するんだよ。世の中本当に不平等だよ。方や毎日の飯もままならないって言うのによ。こうなりゃもっと食ってやる。」


 注文した肉を一通り食べた貧川はまた肉を頼みだす。


 「どんどん食べてください、貧川さんは本当に面白い方だ。私もいろいろな人とこの様に話してきましたが自分の不幸を楽しんでいる様に見える。普通は不幸になるとひがんで歪んでくるのにむしろそれを楽しんでいる。というより自己分析が好きなように思えます。人は不幸の時も幸せな時も自分というものが見えなくなるもの、自己分析がしっかりしていれば人生楽しくなるものですからね。」


 「うるせぇ、俺はこれ以上不幸にならないようにしているだけだよ。どんなに頑張っても俺は幸せにはならん。むしろ人間を不幸にするだけだからな。俺が幸せになれば人間は不幸になる。ただそれだけだ。」


 「何か悲しいですね。人が不幸になることで自分が幸せになるって。」


 少し考えだす大金。それを横目にひたすら食べ続ける貧川。


 しばらく沈黙の時間が過ぎる。貧川の食事の音が響き渡る。


 一通り食べ終わり


 「あ~食った食った。」


 「すごい食べっぷりで。見ているこちらも気持ちが良かったです。」


 「タダ飯は美味いものよ。しかし本当に変わった奴だなお前は。こんな俺みたいな奴にごちそうして何が楽しいのか。俺にはわからん。」

 

 「いえいえ、私にはとても有意義な時間なのですよ。これは私の趣味みたいなものですから。人の人生のつまみ食いです。」


 「ある意味悪趣味だな。金で人の人生買っているみたいに聞こえる。まぁ俺はそういうの好きだけどな。」


 「やっぱり似ているのかな私達。」


 「ふん、どこが似ているんだよ。天と地、光と影、陽と陰。まるっきり逆だよ。」


 「そうですか?何か近いものを感じますけどね私は。きっと近いうちにまた会えそうな気もしていますしね。」


 「また会ったらもっと高級なもん食べてやるわ。」


 「またご馳走しますよ。」


 

 店を出て


 「今日はありがとうございました。」


 「なんだよ、こっちがごちそうになったのに何でお礼言われなきゃいけないんだ。本当に変な奴だなお前。」


 「いつものことです。そしてこれもいつものこと。」


 そう言って一枚の札を渡される。


 「なんだこれっ。」


 「今日のお礼です。」


 「お前、本当に良く今まで生きてこれたな。こんな奴は本当にそうそういないわ。」


 「これが私の生き方です。変えるつもりはありません。」


 差し出された札を受け取り


 「これでしばらく飯に困らないな。でもそんなことしていると本当に変な奴にたかられるぞ。」


 「ありがとうございます。でもなぜか大丈夫なんです。不思議と悪い人たちは私の周りから消えていくので。」


 「お前なんかやっているのか?」


 「いえ、私は何もやっていませんよ。自然と周りには良い人しか集まらないですよ、なぜか。」


 「そうか、まぁ今日はご馳走になった。礼だけは言っておく。」


 「なんか貧川さんにはまた会えそうな気がします。」


 「その時はまたたらふく食ってやるから心配するな。」


 大金は笑顔で手を振る。それを見ていつものネカフェに足を向ける貧川。


 

 「今日は久しぶりに腹いっぱいに食べたなぁ。」


 夜の街の中を歩きながらしばらく大金のことを考える。


 「世の中、変わった奴はいるもんだな。しばらくは楽しめそうだ。」


 そういう貧川の目の奥の光が鈍く光っていた。


 街ゆく人達には気づかない不思議な光。闇に潜む者だけが持つ不思議な光。


 口元が知らず知らずのうちににやけていた。


 「これから一発逆転だ。」


 これから起こることを考えてワクワクしだしていた。



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