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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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高嶋くん


休み時間にクラス委員長の東野優子さんが話しかけてきた。



私は休み時間にはいつも「話しかけるな」オーラを全開にしているので、こんなに気軽に話しかけてくるのは東野さんくらいだ。



彼女は私の弱みを握っているので上から来るのだろう。



忌々しいが、弱みを握られているので無視することもできない。




「桜小路さんはハロウィンはどうするの?」




前世の私は35年間ハロウィンなるものに何かをした記憶はない。



けれども桜小路古都は小学生の頃は両親とハロウィンパーティーをしていた。


天使のコスプレをさせられていたのは黒歴史なので誰にも言わない。



「どうするのって、どうもしないわ」



「それじゃあ私の家で女子ばかりでハロウィンパーティーやるから参加しない?」



「悪いけどそういうの興味ないわ」



「そんなこと言わないでよ、文化祭も桜小路さんが参加してくれて盛り上がったし、またみんなと楽しもうよ」




つまり小学生のときの悪事をバラされたくなければ参加しろということね。




「わかったわ、東野さんにそう言われては断れないわ」



「えっ! 参加してくれるの! よかったーー、みんな喜ぶよ」




白々しい、私が断れないのをわかっているくせに。



東野さんはほとんどの時間は天使だけれど、脅してくるときの東野さんだけは好きになれない。





「でも条件があるわ」



「えっ、また条件なの? でもいいよ、桜小路さんが参加してくれるならなんても言って」




「条件は2つで、ひとつはパーティーは私の家でやること」



「もうひとつは何人か男子も参加させること、メンバーは私が選ぶ」




「えーーーーーっ、桜小路さんのお家に行ってもいいってこと!!!」



「そうよ、何か文句でもあるの」



「ないない、みんな大喜びだよ、行ってみたかったんだ桜小路さんの家」



「でも男子はちょっとかなあ。。。普段はできないちょっと露出の多いコスプレとかもしてみたい子もいるし。。。」



「そう、それではこのお話はなしね、貴女たちだけで楽しんで」




「うーん、わかった。。でも男子って誰の予定か聞いていい?」



「女子は何人の予定なの?」




「ええと4人くらいの予定だったんだけど桜小路さんが参加するとなると10人くらいになっちゃうかも。多すぎて無理だよね」




「10人くらいなら問題はないわ、ちょうどいいお部屋があるから」


「そうね男子は北川くん、八重樫くん、吉田くん、それから高嶋くんの4人にするわ」




「ええと桜小路さん、ちょっと言いにくいんだけど、もう少しパーティー慣れとかしていそうな男子のほうが盛り上がりそうな気がするけど。。。」



「女子たちもその4人なら無視できるでしょ、エロいコスプレでもできるんじゃない?」



「まあ確かにイケメン男子だと、大人しぶる子が多いかもね」



「わかった、条件はのむって言っちゃたしね」




「よかったわ、着替えができる部屋もあるから、学校が終わったらマイクロバスでみんなで私の家まで移動でいいかしら?」


「えっ、車で送ってくれるの?」




「私の家でって条件だしたのは私だからね、飲食もこちらで用意するわ」



「えっ、なんだか申し訳ない気が。。。」



「別に問題ないわよ、お菓子くらいは持ってきてね」




「女子は私が集めてもいい?」



「いいわ、でもなるべく東野さんが普段から仲良くしている子にして」



「わかった、楽しみにしてる」






ホームパーティーは久しぶりだけれど両親がよく使っていた部屋なら30人くらいまでは大丈夫だろう。




こちらもそろそろ次のプロジェクトにとりかかろうと思っていたところなので丁度いい。




今回のターゲットは高嶋明くんだ。




高嶋くんをモブに分類するかは悩むところだ。




何故なら彼にはとてもいいところがあるので、それに気づいてくれる女子が多いなら35歳素人童貞の道へ進むとは思えないから。



私は高嶋くんが小天使なのを知っている。




もしかするとそれを知っているのはクラスでは私だけかもしれない。



休み時間にぼうっと校庭を見ているのなんて私くらいだからだ。





広岡千絵さんは大人しくてかわいらしい子だ、東野さんとも仲がいい。



ただちょっと大人しすぎると言えなくもない。




彼女は「植物係」だ。



学校の花壇の世話をしている。



とても丁寧に世話されていてすごく綺麗な花壇だ、誰もほとんど見てはいないけれど。




広岡さんは物語の中の登場人物なら心の優しい可憐な少女ということになるだろう。



でも現実の学校社会ではそうはならない。


誰も知らないところで土いじりをしている地味なモブ少女ということになってしまう。




その広岡さんが夏に新型コロナに感染して一週間学校を休んだ。




その一週間の間に花壇に水をやっていたのが高嶋くんだ。




いつも休み時間に窓から外をぼうっと眺めていたら高嶋くんが花壇に水をやっていたのだ。



たぶん広岡さんに頼まれたわけではないと思う。




世話係がいなくて花壇の植物が枯れてしまうのが可哀相だったのだろう。




けれども高校生はなかなかそんなことには気づかないものだ。



現にいつも窓から広岡さんが花壇の世話をしているのを見ていた私でさえ、広岡さんの欠席と花壇を結び付けてまで考えることなんてできなかった。




水をやる高嶋くんの姿を見るまでは。




だから高嶋くんはモブではなくて主役になれる素質がある逸材かもしれない。




でもひとつだけ問題がある。



高嶋くんには病気がある。


吃音なのだ。



差別用語っぽいけど「どもり」ともいう。




たぶん先天性なのではないかと思う。



そのせいで高嶋くんはほとんど学校では喋らない。




コミュニケートがなければ人柄は伝わらない。



高嶋くんみたいな逸材でも35歳素人童貞コースにのってしまう可能性は十二分にあるのだ。




なので今回のターゲットは高嶋くんだ。



吃音でもいい、もっと喋る高嶋くんになってもらいたい。




吃音の70~80%は自然治癒すると聞いたことがある、でもそれもやはり訓練だろう。



もし吃音が大人になっても治らなかったとしても明るい高嶋くんでありさえすれば彼の良さをわかってくれる人ときっとめぐり合えると思う。





そういうわけで私は高嶋くんに話しかけた。




「高嶋くん、ちょっとお願いがあるのだけど」




高嶋くんは固まっている。



桜小路古都に名前呼びで話しかけられればモブ男はたいてい固まる。




「私の話聞いているかしら?」



「さ、さ、桜小路さん、な、な、なんの用?」



「私、ハロウィンパーティーをするのだけどコスプレの衣装選びを手伝ってほしいの」




高嶋くんは今度こそ目をまんまるにした。




「ど、ど、どうして僕が?」




「何? 嫌なの? 文化祭のときも衣装係だったでしょう?」




「私がわざと衣装の裾を切ってスリットにしておいたのに縫い付けて脚が見えないようにしたのは君だよね、その罰よ」




「あ、あ、あれは、わ、わ、わざとだったの?」




「そうに決まってるでしょレベッカは悪役令嬢なのよスリットから脚が覗けば悪役令嬢感が増すじゃない」




「ご、ごめんなさい。 や、や、やぶれているのかと思って」




「まあいいわ、とにかく放課後に一緒に衣装を見についてきて」




「わ、わかった。ハ、ハンズとかに買いにいくの?」




「そんなわけないでしょ、父の関係のブティックで作ってもらうのよ」




後ろを振り返って東野さんにも言った。



「東野さん、貴女も一緒にきてね、揃いのコスプレ着てもらうから」

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