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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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文化祭 : 東野優子side

「ごめんなさい」



吉田くんには悪いけど秒でおことわりさせてもらった。


実際に吉田くんにはまったく興味がないし、それに桜小路さんのこともある。



このモブくんは逃した魚の大きさに気づいているんだろうか? 


大きさという意味では魚というか鯨くらいかもしれないけど。




でも桜小路古都さんは吉田くんのどこが気にいったのだろう? それが一番の謎だ。



私の名前は東野優子、アオハル学園の一年生、女子高生なりたてだ。



自分で言うとちょっとイタいかもしれないけど私はけっこういけてる女子高生だと思う。


顔だってまあまあ可愛いいし、クラス委員長もしている。


入学してから、もう三人の男子に告られた。



けれども私のクラスには特別な女子がいるので私は所詮はザコキャラだ。


そのキラキラ女子は桜小路古都さんという。



実は桜小路さんと私は小学校と中学校が一緒だ。



桜小路さんは私なんかまったく眼中にないかもしれないけれど、私はずっと桜小路さんとお友達になりたいと思っている。



桜小路さんは私にとって憧れの女子だからだ。




小学校のころの桜小路さんは今とはずいぶん違っていた。



桜小路さんは今は友達も作らないし孤高な女王様キャラだ。

才色兼備な桜小路さんにはまたそのキャラがよく似合う。


でも小学生のころの桜小路さんはニコニコと誰とでも仲の良い素敵な女の子だった。


本当にかわいくて、本物のアイドルが同じ教室にいるようなものだ。


誰もが桜小路さんと仲良しになりたいと思っていた。




結局、桜小路さんには6~7人くらいのお取り巻きができた。


桜小路さんは誰にでも愛想がよかったけど、いっつもそのお取り巻きたちが桜小路さんを囲い込んでいた。


お取り巻きたちはいい気になっていた。


それはそうだクラスのアイドル桜小路さんの側近みたいな感じなのだもの。


そして、だんだんと虎の威を借る・・みたいな感じになっていった。



そのうちにお取り巻きたちは、一人の女子をイジめはじめた。


桜小路さんがいないときを狙っては、その女子をイジめるのだ。



たぶん、というか絶対に桜小路さんはイジめを知らなかったと思う。


もし桜小路さんが知ったら絶対にやめさせたはずだ。


桜小路さんはそういう人だ。



けれどもお取り巻きたちは桜小路さんがいる時には決して手をださなかったので桜小路さんは知らないままだった。


クラスの誰もお取り巻きたちが怖くて桜小路さんにも先生にも言えなかった。 


私もそのうちの一人だ。



そうこうしているうちにイジめられている女子が不登校になってしまい、イジメが露見した。


桜小路さんとお取り巻きたちが職員室に呼ばれて先生から注意を受けた。



友達がその様子を聞いていたのでクラスの全員が知っている。


お取り巻きたちは「桜小路さんは関係ない」と正直に話したけれど、先生はグループのリーダーは桜小路さんだと知っていたので桜小路さんにも聞いた。



桜小路さんは「私は知っていました、なので私がやらせたと同じです」と言った。



そんなはずはない、桜小路さんは絶対に知らなかったはずだ。


そんなことはクラスの全員が知っている。




桜小路さんのご両親が学校に呼ばれて、被害者のご両親に桜小路さんと一緒に頭を下げたけど許してもらえなかったらしい。


2週間くらいすると、被害者の子が登校してきた。



桜小路さんが2週間、毎朝と毎晩、その子の家まで謝りに行っていたらしい。



私はそれを友達から聞いて知ってびっくりした。

そして感動した。


桜小路さんは絶対にイジメを知らなかったはずだ。


でも自分のお取り巻きの子たちがしたことならば自分の責任だと考えたのだろう。



こんなアイドルみたいな美少女なのに。


まだ小学生でそんな考え方ができる子がいるなんて私は信じられなかった。



私はお取り巻きの子が怖くて桜小路さんに本当のことを伝えることさえできない子だったのに。




桜小路さんは中学にはいると孤高の女王になった。


誰ともお友達にはならない。



きっと小学生のときのことが桜小路さんを変えたのだと思う。



私は中学では別のクラスになってしまったけど、桜小路さんのことはずっと気になっていた。



本来の彼女はあんな風じゃない。


誰にでも優しくてかわいくて、いるだけでクラスがぱあっと明るくなる。


そんな桜小路さんに戻ってもらいたい。


もちろん今だって、いるだけでクラスは明るくなるけど。




私たちが勇気がなくて黙っていたせいで何も知らない桜小路さんにすごい迷惑をかけてしまった。 


それはずっと私のトラウマだ。




高校にはいっても桜小路さんは孤高の女王のままだった。



だから私は自分が桜小路古都になることに決めた。


いつか桜小路さんが本来の優しくて誰とでも気さくに仲良くしてくれる、そんな彼女に戻るまでは私が桜小路さんの代わりになる。



本来なら彼女がしているだろうクラスのみんなのために尽くすのだ。




あのイジめられっ子の八重樫くんがイジめっ子に殴りかかるなんてことを何故したのか、私にはだいたい想像がついている。



イジめられた男子のヒジョビショになった教科書を新しく買ってあげる。


そんなことを考えついて実際に行動に移す高校生は桜小路さんのほかにはいない。



桜小路さんにもらった教科書であれば、それを奪われそうになった八重樫くんがあんな風になるのもよくわかる。



それは命がけという感じの抵抗だった。




八重樫くんが桜小路さんを見る眼差しを見れば何が起きていたのかは想像がつく。


でも桜小路さんの態度はまったく変わらない、孤高の女王のままだ。


八重樫くんとの間に何があったかなんて、お首にもださない。




でも桜小路さんは今も本来の桜小路古都のままなんだとわかって私は嬉しかった。



それと同時に、八重樫くんへのイジめを見て見ぬふりをしていた私は小学生のときの私から何にもかわってはいなかった。


やっぱり私じゃだめだ。




だから桜小路さんを無理矢理に文化祭にひっぱりだしたんだ。




でも桜小路さんの条件が「吉田くんも一緒に劇に出演すること」だったのには驚いた。


吉田くんって誰? と思ってしまった。



クラス委員長でありながら自分のクラスの男子に対する感想としてはマズいと思う。


でも実際に吉田くんはかなり目立たない男子だ。



八重樫くんみたいにイジめ対象になるような陰キャではないけど、なんていうか普通すぎて目だたない感じが別の意味で陰キャだ。




桜小路さんは私とは本質的に違うんだと思う。



私は無意識に人に評価というかランクをつけて見てしまっている。


桜小路さんならSSS、吉田くんはBとかいうみたいに。



でも、みんな誰もが普通はそういうものなのではないかとも思う。


他人に対するある種のランク付けって誰でもしている。




でも桜小路さんは違う。


誰にでも優しくて親切で、そして対等に見ているのではないかと思う。



なんで吉田くんなの? と思うが、それは桜小路さんにしかわからないことだ。



でもきっと桜小路さんは「吉田って誰だっけ?」とは思わないのだろう。 私とは違う。




何が「私が桜小路古都になる」だ。



思い上がりも甚だしい。


私が桜小路古都になれるわけがない。


そんなことを考えていた自分が本当に恥ずかしい。




何はともあれ桜小路さんは劇に出演してくれることになった、素直に嬉しい。


クラスのみんなも超喜んでいる。




桜小路さんは断然の人気ナンバーワンだけど孤高の女王なのでちょっと近寄りがたいのだ。


特に男子たちは。。。いや女子もそうか。



それなので桜小路さんと一緒に文化祭の出し物やれるとか、みんな高校生活で一番のイベントかもしれない。


私が桜小路さんOKを報告するとクラスの皆に「東野さん天才」と褒められた。



それにしても私がヒロインで桜小路さんが悪役令嬢というのは厳しい。


精神的に厳しい。



でも桜小路さんのつけた条件がそれなので仕方がない。




桜小路さんからは私はどう見えているのだろう?



私はそんなにいい子じゃない。


「実はクラスの中では私はけっこうイケてる」と自分で思っているような嫌な女子なのだ。



イジめも見て見ぬふりをした。



でも桜小路さんから見たら、八重樫くんも吉田くんも私もきっと同じなんだろう。



それはそうだ桜小路古都の前では誰もが「その他大勢」のうちの一人でしかないから。



それでも、せっかく桜小路さんがOKしてくれたので、いい文化祭にしたい。


それは本気でそう思っている。



クラスのみんなも目が輝いているし。




北川くんは自分から舞台の美術は自分がやると立候補してくれた。


さすがは美術部員。


美大目指している北川くんが描いた舞台の背景画が本気すぎてビビるレベルな件。




予想していなかった私がバカだっただけだけど、桜小路さんは何をやらせても桜小路古都だった。


初練習のときにびびってしまった。



まだ初練習なのに台本を一冊、一字一句全部覚えてきているのだ。


私はまだ今日練習する予定のパートほんのちょっとくらいしか覚えてきていない。




全部通しで読まないと役に感情移入ができないからだと言っていた。


言っていることが文化祭の劇のレベルではない気がする。




そして、めっちゃ悪役令嬢だった。




桜小路さんの部分だけ全米の24時間ドラマかと思うくらいのリアリティだった。


悪役令嬢感が凄すぎる。




本当はあんなに天使のような人なのにこんな悪役令嬢になりきれるって。。。


感情移入が・・とか言ってたことの意味がよーーーくわかった。


やばすぎる。




私はその日から家に帰っても鏡に向かって練習することにした。


動画に撮って自分の演技に自分でダメだししてみた。



全員が桜小路さんのクオリティについていけないと桜小路さんの努力が無駄になってしまう。


私は遠慮なく全員の演技にダメだしすることにした。 


ほんとの映画監督みたいだ。




それで気づいた、桜小路さんの演技はちょっとだけ変なところがある。


アベルとのシーンだけがやたらと熱いのだ。



レベッカは魅了のスキルでアベルを誘惑する設定なのだけど


どう見てもレベッカのほうがアベルに恋をしているような演技になっている。



眼差しが熱い。 


顔が近い・・キスしてしまうのではないかとドキドキしてしまう。



これって台本の設定と違うよね?



もしかしてこれって役の設定じゃなくて、桜小路さんの素の気持ち?。。。




いやいやいや、ありえない。 


何を考えているんだ私は。





桜小路さんが吉田くんとか。。。絶対ありえないだろ。




ある日、吉田くんと打合せしていたと思ったら桜小路さんが体調が悪いからと言って帰っていった。



それからだ。なんだか桜小路さんの様子がおかしくなったのは。




私が演技していると妙にジィツとみられている気がする・


それとなんだか私、桜小路さんに避けられている気がする。




主役の吉田くんと私、それから悪役令嬢の桜小路さんとでの打合せが必然多いのだけれど、前は打合せ後もいろいろ話とかしていたのが、この頃はすっといなくなってしまう。



明らかに避けられている。



私なにか桜小路さんにしたかしら?




思い当たることがひとつだけある。




桜小路さんの演技のことが気になってしまって、吉田くんのどこがいいのかと考えてしまった。


観察していて気づいたんだけど、吉田くんって、もしかして私のことが好きなの?


ってか、明らかに私のこと好きじゃん。




えっ? もしかして桜小路さん吉田くんのために自分から身を引こうとしている?



えーーーーーっ、ありえないよ、ありえない。



私が桜小路さんの想い人を盗っちゃうとか、そもそも吉田くんのこと全然なんとも思っていないし。




それからずっと桜小路さんは元気がない。





私はなんとかしなきゃと思うけど、どうしたらいいのかわからない。




吉田くんを見ているとムカついてくる。




この馬鹿はなんで気づかないんだ?


私みたいなザコキャラを見つめてる場合じゃないだろ!




けれども時間は過ぎていく。




私は決心した、私のために桜小路さんが身を引くとか絶対ありえない。



そもそも私は吉田くんのことは何とも思っていないのだ。


桜小路さんにちゃんと伝えようと思った。




それで思いきって聞いてみたのだ「吉田くんのことどう思ってる?」って。


私の行動はいつも後の祭りだ。




桜小路さんはもうすっかりフッきれていた。


自分に遠慮しないでとか言った私のほうが馬鹿だった。



桜小路さんは誰かに何かを譲ってもらわなくても、したければ何でも自分の思う通りに独力で出来る人なのだ。




吉田くんを自分のほうに向かせたいと思えば桜小路さんには簡単なことだったろう。


けれども、それよりも桜小路さんは吉田くんの気持ちを大切にしたのだ。


ただそれだけだ、彼女は自分がしたいようにした。




「吉田くんは私が振った男だけど、あんたには丁度いいだろうからお下がりしてあげるわ。」 そう言いたいの?



あの時は空気が凍るかと思った。 


悪役令嬢のレベッカより全然怖かった。




桜小路さんは相変わらずクールで無表情だけど、文化祭は楽しかったみたいだ。


なんとなくそれはわかる。




一番驚いたのは吉田くんが告ってきたことだ。


もちろんゴメンナサイしたけど。




私は吉田くんみたいな男の子を何人か知っている。


好きになった女子をストーカーみたいに視線で犯しているくせに、告ってくる勇気もないような男の子たちだ。



好きな女の子に対して少しの勇気も出せないような男子を好きになる女子がいるとは思えない。




彼らはずっとそうやってその視線で見つめていれば、そのうちに女子が気づいて「私のことが好きなの?」と言ってきてくれるとでも思っているのだろうか?



そんなわけはない。

見つめるだけで告ってもこない男とかキモいだけだ。



だから吉田くんが告ってきたのには驚いた。


そんな勇気はどこにも欠片もない男の子だと思っていたのだ。



ちょっと見直したかもしれない、答えはゴメンナサイだけど。



桜小路さんが一瞬でも気持ちを動かしたことのある男の子なのだ。


私が気づかない良いところが何かあるのかもしれない。



きっと私には見えないものが桜小路さんにはたくさん見えているのかもしれない。




でもそれはそれで仕方ないと思うことにした。




文化祭を一緒にやってみてよくわかったから。


桜小路さんはやっぱり特別な女の子なんだって。


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