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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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文化祭(2)

吉田くんは毎回真面目に文化祭の劇の練習会に参加してきている。


それはそうだ桜小路と東野という学園でもツートップの美女と一緒に練習できるのだ。



なんだけど。。それにしては少しテンションが低い気もしないではない。



台本とかはちゃんとしっかり覚えてくるんたけど、なんというか覇気がない。


セリフも棒読みだし、演技もひどすぎる。




もしかして美女二人を相手に気後れしているのか。


やっぱり免疫力低すぎだ。



これじゃあせっかくの文化祭の練習という絵に描いたようなアオハル状況なのに全然アオハルしていないじゃないか。



まあ、やっぱり恋愛成分が入ってこないとアオハルしないよね。



けれども、さすがに東野さんに吉田くんとの間に恋愛成分を期待するのはムリムリだろう。



それなので私が恋愛成分とフェロモンを担当してあげよう。




「ねえ吉田くん、ちょっといいかな」



桜小路古都にすぐ横に坐られて、名前で話しかけられて吉田くんはけっこう固まっている。




「えっ、なに? 桜小路さん」



「あのさあ、もしかして吉田くんって東野さんのこと好きなの?」



「えっ、えっ、なんで? あっ、いや、そんなことは。。。」



「東野さんのこと好きじゃないんだ?」



「いや、そんな。。好きじゃないっていうわけじゃ。。。」



キョドリがひどい、考えてもいなかった質問で混乱しているのもあるかもしれないけれど、目が泳いでいる。




「なんだ、やっぱり好きなんじゃない。もう告白とかしたの?」



「えっ!! 告白とか、そういう好きじゃなくて、友達として好きっていうか」



「ふうん、まあとにかく東野さんのことが好きで、それだから私との絡みのシーンでは演技にやる気がでないってことね」



「えっ、そんなことは。ヤル気がないとか、そんなことはないよ」



「そう? 私は吉田くんのことけっこうイイナと思ってたのに、東野さんとあからさまに差をつけられちゃって正直けっこうショックだよ」


「まあ東野さんかわいいから仕方ないけど」



「えっ、そんなことないよ。桜小路さんとのシーンだって僕はがんばってるつもりだけど、こういうのあんまり得意じゃないから」



「吉田くんは私とのシーンは全然がんばってないと思う」



「東野さんかわいいからね。吉田くんが東野さんとのシーンばかり頑張る気持ちはわかるよ」




何と言い訳したらいいのかわからなくて固まっている吉田くんを残して私は帰ることにした。



「ごめん、私、今日はこれで帰るね」




今日のこの後の段取りとかを確認していた東野さんが私が帰り支度を始めたのを見て慌てている。



「えっ桜小路さんちょっと待って、今日はこの後みんなで通しの練習が・・・」



「ごめんちょっと無理。 体の調子が悪くなっちゃったの」



「えっ? 大丈夫? それじゃあ仕方ないね。心配しなくていいよ桜小路さんのパートは私が代読してやっておくから」




天使かよ、東野さん。




「ありがとう、東野さんの代読なら吉田くんも喜ぶと思うから任せるね」



私はわざと吉田くんにも聞こえるように少し大きめの声で言った。






「マリアそっちは任せる、みんなをスキルで癒してやってくれ」



「アベル、あなた一人では危険だわ、私も行く」



吉田くんの台本棒読みも少しはマシになってきた。


東野さんは本物の女優さんみたいに上手だ。



そんな二人の仲睦まじい様子を見ながら桜小路は溜息をついていた・・・


という演技を私は周りからも目につくように熱演している。




そして、あの日の練習以来すっごく元気のない・・という演技も続けている。


私はモブ男に恋する可憐なJKなのだ。



東野さんは心配してたびたび聞いてくれる。



「桜小路さん、なんだか元気ないみたいだけど大丈夫?」


「ごめんね気乗りしないのに私が無理に誘ったから・・・」


「本当に嫌だったらそう言ってね、みんなには私から話してもいいから」




天使すぎる。



なんの陰謀で私に近寄ってくるんだ? とか考えていた自分が恥ずかしくなるくらいだ。




けれども今の私にはクラスで一番の美少女から思い寄せられるというアオハルを吉田くんに経験させるというミッションがあるのだ。




「大丈夫、ありがとう東野さん」



「本当に大丈夫? 嫌なこととか心配なこととかあったら何でも言ってね」



「東野さんが優しいのはわかってるから、でもごめん東野さんには言えないかも」



「えっ、何? どういうこと? 私なにかした? だったらごめん」



「ううん東野さんは何も悪くないの、私がバカなだけ」




ごめん天使の東野さん。 


これもプロジェクトのためなんだ。




私も準主役の悪役令嬢なので主役のアベル、つまり吉田くんとのシーンの練習も少なくはない。



東野さんは主演兼監督という責任感からか自分に関係ないシーンの練習もしっかりと見ている。



いつも天使な東野さんにしてはダメだしとかも厳しかったりする、真剣だ。




私は吉田くんとの二人のシーンではストーリー的には不要な場合でもとにかく吉田くんの目を熱烈に見つめて演技している。 


もちろんわざとだ。




東野さんは気づいているはずだけど、それについては何もダメだしはしない。



私は吉田くんに言いたい。




当事者ではない東野さんでさえもこんなにあから様に気づいているのになぜ君は気づかない?



それで逆に私のほうが気がついた。



もしかしてこいつ、マジで東野さんが好きなんじゃね?


だからこの桜小路古都が熱く見つめても全然気持ちに気づかないとか?




モブのくせに東野さんをマジで好きとか、なんという身分をわきまえない奴なんだ!




東野さんの方が吉田くんの気持ちに気づかない理由は私にもよくわかる。



毎日、そこら中の男からそんな視線に晒され続けていれば、そのうちに耐性ができて気にならなくなるのだ。



東野優子はそれくらい毎日、男の子たちの熱い視線にさらされている。




だけどそれでも驚いた。




桜小路古都と一緒に文化祭の練習をしながら、桜小路古都以外の女をマジで好きになる男がこの世に存在するとは考えたこともなかった。



まあいい、吉田くん。 


君は前人未踏の変人のようだが、それはそれでアオハルだ。




そうとなれば話は別だ。


私ではなくて東野さんで吉田くんがアオハルしてくれるなら、それに越したことはない。




私は吉田くんにラブラブ光線を出すのはやめにした、三人のときはそれとなく理由をつけてその場を離れて二人にしてやる。



けれどもまあ仕方がないことだけど二人の間はまったく進展していない。



それはそうだ。東野さんは私のように慈善事業のようなプロジェクトを遂行とかしているわけではない。



カースト制度上、東野さんの目線からは吉田くんなどは石っころと何のかわりもないのだ。



東野さんは誰にでも優しいけれど誰にでも愛をふりまくわけではない。




そうは言いながらも文化祭の日は近づいてきている。



劇の練習は順調だ。



私は一歩身を引いて二人の恋愛を陰ながら応援している。




二人の恋愛。。。ではないな。



東野さんはまったくそんな気持ちは欠片もない。過去も現在も未来も。




でもまあいいだろう片思いでも恋愛は恋愛だ。


かなわぬ思いでもそれはそれでアオハルだろう。



この文化祭行事がなければ吉田くんが東野さんと話をする機会など全くなかった筈だから。





練習を終えて帰り支度をしていると東野さんがやってきて隣に座った。



「桜小路さん、帰り支度のところ悪いけど少しお話ししてもいいかな?」



「別にいいけど、なにかしら」



「ちょっと言いにくいんだけど桜小路さんって吉田くんのことどう思ってるのかなって?」



ん? どういうことだ? おいおい、まさかとは思うけれど、もしかして東野さん吉田くんに興味持ち始めたのか?




「どうもこうも今回の劇の主役で、吉田にしてはよく頑張っているんじゃない?」



「そういう話じゃなくて、男の子としてどう思ってるのかなって・・」



「何? 東野さん、まさかと思うけど吉田のことが好きなの?」




「それはない!!! そうじゃなくて桜小路さんがどう思っているかってこと」




桜小路古都が吉田くんごときのことをどうこう思うわけがない。



けれどもプロジェクトとしての救済対象にはなっている。



東野さんにはそんなことを話すつもりは全くないけど。




「なんとも思っていないわ、だいたい吉田くんは東野さんのことが好きみたいだし」



「それは私だって気づいているけど私は全然ないから」




まあそれはそうだろう、吉田くんでは東野さんには全くつりあわない。




「でも桜小路さん本当は吉田くんのこと気になっているんじゃない? 」



「最初はあんなに見つめてたのに、なんだか途中から私に遠慮しているのかなって。。。」



なるほどそういうことか、私を心配してくれているんだ。


やっぱりマジ天使だわ。




「私が吉田くんをどう思っているかということを東野さんと話したいとは思わないから」



「そうだよね。ごめん。」



「でも私、本当に全然ないから、もしそうだったら私のことは気にしないでって言いたくて」



「つまり東野さんが言いたいのはこういうこと?」



「吉田くんは私が振った男だけど、あんたには丁度いいだろうからお下がりしてあげるわ。」



東野さんの目が丸くなった。



「そ、そんなつもりじゃ。。。」



「私はただ桜小路さんと一緒に文化祭がしたくて誘ったのに、私のせいで桜小路さんがっていうのは嫌で。。。」



「東野さん、あなたも気にしなくていいわ」



「なんにでも賞味期限というものがあるのよ、人の気持ちがいつまでも同じ場所にあるとは限らないわ」



「吉田くんが東野さんを見つめている間に、私の気持ちも変わったの」



「私も吉田くんのこととか今は全然なんとも思ってないから」



「そうなんだ、それならいいけど」





文化祭の演劇のクライマックス。



悪役令嬢が、アベルに顔を近づけて囁くシーンだ。



レベッカ:「貴方には私の気持ちはわからないわ、断罪するがいい、それでも貴方たちに赦しをこったりはしないから」


観客には聞こえない囁くような声で私はちょっとだけアドリブを入れてみた。



「スキダッタノニ。。。貴方には私の気持ちはわからないわ、断罪するがいい、それでも貴方たちに許しをこったりはしないから」




吉田くんは一瞬ちょっとポカンとしていたが、すぐに最後のシーンへと移っていった。




劇はけっこう好評だったと思う。


まあ所詮は高校生の文化祭の寸劇だ、たいした劇ではない。



観客の90%くらいは桜小路古都を見にきただけの観客だ。


残りの10%は東野優子のファンかな。




なんと吉田くんは文化祭の最終日に東野さんに告白した。



もちろん瞬殺で「ごめんなさい」されていたが、あの吉田くんが女子に告るとか、すっごいアオハルしたじゃないか。



その勇気で今後も生きていけばきっと吉田くんは35歳素人童貞にも性犯罪者にも引き籠りにもならないのではないかと思う。




それに文化祭の練習は思いのほか楽しかった。



やっぱり私は悪役令嬢に向いている。



実際には私ではなくて東野さんが救済したようなものだけど、まあこのプロジェクトも成功なような気はしている。


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