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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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文化祭

東野優子さんが昼休みに話しかけてきた。


東野さんは学級委員長、美人で成績もいいし、何より面倒見がよくて親切だ。



クラス委員長は最初に推薦された私が強硬に辞退したので、彼女がなったのだけれど適任だと思う。


現に面倒なばかりで何のメリットもない文化祭の出し物について、何やかにやとみんなの世話を焼いている。



当然のように女子からも男子からもクラスからの信任は厚い。




でも私は東野さんが苦手だ。




東野さんはこの学校で唯一、私と小学校、中学校が同じだったのだ。



つまり桜小路古都が小学校のころ、イジめグループのリーダーだったことを知っているただ一人のクラスメイトということになる。



中学校のころはクラスも別でほとんど接触がなかったのだけれど、よりによって高校に来て小学校のときのことを知っている人間と同じクラスになってしまうとは。



私のことはネコを被った悪役令嬢だと認識しているだろう。




「私はクラスの皆さんともあまり親しく交友していないし、そういうクラス行事みたいなものには興味がないから遠慮しておくわ」



私としては無難な回答だ。


普通のやつは私にこう言われれば大抵はあきらめる。



けれども東野さんは違った。



「桜小路さんがあまり人づきあいが好きじゃないのは知ってるけど、これは是非お願いしたいの」


「ライトノベルを劇にするんだけど主役は桜小路さんでってクラスのみんなからお願いされちゃっているのよ」



桜小路古都が断っているというのにすごい圧力だ。



つまり、東野さんは「過去の悪行をバラされたくなかったら協力しろ」と言っているわけだと私は理解した。



それはちょっとまずい、イジメグループのリーダーだったという履歴の露見は私が考えているモブ男救済プロジェクトの障害になる可能性がある。




「わかったわ、東野さんにそう言われては断れないわね」



「よかった。みんな幼馴染の私なら桜小路さんにも頼めるんじゃないかって勝手なことばかり言うから」



私の皮肉にも東野さんは動じない。


そんなに脅しのダメ押しをしなくても私には選択肢はないというのに。



「それで私は何をすればいいの? 」


「さすがに劇の内容とか役によっては引き受けたくない場合もあるかも」



東野さんは一度捕らえた獲物は逃がさないという感じだ。


鋭い眼光で私を見つめながら演劇の内容を詳細に説明し始めた。




ライトノベルというのは異世界学園ラブロマンス的などうでもいような内容の小説だった。 


それを演劇の台本にするということらしい。



異世界の学園で目立たないモブ男に、転生者(勇者)が乗り移って、クラスに巻き起こるいくつかの事件をヒロインの聖女(学園のマドンナ)と一緒に解決していくうちに相思相愛になるというのが話の大筋だ。



「なるほどこういう話なのね、いいわ出演は引き受けるわ、でも幾つか条件がある」



「えっ条件って何? 桜小路さんが出てくれるんなら大抵のことはOKだけど」



「たかが文化祭といっても出演するなら私としてはクオリティを求めたいの」



「主役だけど綾瀬くんではなくて吉田くんにして」



綾瀬くんはクラスで一番人気の男子だ、そこそこイケメンかもしれない。



「綾瀬くんじゃモブ男という脚本のイメージにあわないと思う」



「吉田くんが主役をやるなら私も出てもいいわ、それだけは絶対条件」



「主役の交代ね、わかった大丈夫だと思う、それで桜小路さんが出てくれるのなら」



「それからヒロインは私ではなくて東野さん貴女がやって」



「私はレベッカの役をやるわ」



「えっでもレベッカは」



レベッカは劇のなかで色々な問題を引き起こす影のボスみたいな少女だ。


美貌の公爵令嬢で、親の権力と魅了のスキルで男子を誘惑しては悪に加担させる。


悪役令嬢というやつね。



まあ東野さんから見た桜小路そのものとも言えるでしょう。



悪役令嬢を懲らしめる聖女の役を私にやらせるというのは随分な皮肉だけれど、それ以外にもきっと何か魂胆があるはず。


脅されているからといって何でも貴女の思惑通りにはさせないわ。



「配役については私の一存というわけにはいかないからクラス会で相談させて」



東野さんのクラスでの好感度は間違いなく一位だ。


つまりクラス会で東野さんが反対すれば私の提案は否決されるという目論見でしょうね。


不本意だけれど、その場合は受け入れるしか仕方がなさそうだわ。





「ということで主役は吉田くんと、不肖この私、東野で、レベッカは桜小路さんにお願いするということでいきたいと思います」



東野さんの説明にクラスはざわついた。



「さすがに桜小路さんにレベッカはちょっと。。。サワザワ」



北川くんが手をあげた。



「桜小路さんがレベッカとかありえないと思います。性格悪の役とかリアリティーがなさすぎるし」



八重樫くんが拍手をする



「北川に僕も賛成、桜小路さんはヒロインでしょ」



クラス中から一斉に拍手がおこる。




東野さんが困ったように言った。



「私もそう言ったのよ、でも桜小路さんがレベッカじゃないと出ないって言うから」



「それは主役を東野さんがやるって言われて桜小路さんが自分が主役やりたいとか言えるわけないじゃない」



「桜小路さん、可哀相。。。」



「それって東野さんが主役やりたいだけじゃない」




なんだか話がおかしな方向に進んでいる。



やばい、東野さんを追い込むわけにはいかない。このままでは過去の悪行をバラされかねない。



ここは私が発言する場面かもしれない。



「東野さんは悪くないわ。私にヒロインやってと何度もお願いしてきたのだから」



「私が「ヒロインは東野さんでレベッカが私なら引き受けてもいい」と言ったの」




「桜小路さんはそういう人なんだよ、悪役は私が引き受けてもいい・・って」



「そういう桜小路さんの人柄って東野さんだってわかってるはずなのに」



なんか名前を知らない男の子が熱く語っているけれど、君の意見はありがた迷惑だ。




「そうじゃなくて、聖女はヒロインだけど一番美人で賢いのはレベッカでしょう? 」


「それって私じゃないとリアリティがないと思うの」


「私はリアリティのない劇には出たくないから、その配役じゃなきゃやらないと言ったのよ、東野さんを責めるのはお門違いだわ」



さすが桜小路というトンデモ発言だけれど、それが許されるのが桜小路古都でもある。




結局、文化祭の劇の配役は私の希望通りに決まった。



東野さんが何の目的で私を参加させたいのか、その思惑はわからないけど取り敢えずは目論見は阻止できた。



それにそもそも私としては渡りに舟の話だったからね。






今このクラスで一番35歳素人童貞コースに乗りそうなだと私が考えているのは吉田敬一くんだ。



吉田くんは前世の私に似ている気がする。



勉強はそこそこできる。


見た目もそんなにキモいわけではない。


だけど女子に対する免疫がすごく弱い。


たぶん女子に話しかけられたら盛大にキョドるのではないかな。



今は勉強しなけりゃいけない時期だから女子とつきあうとかそんな暇はない。


とか自分で自分に言い訳して生きているのではないかと思う。



このまま行くと高校生活では恋人も女友達もなしで、大学はそこそこいい一流半の大学に入学するけど女子の少ない学科で、恋人・女友達いない歴22年のままで卒業。


就職では陰キャが面接に影響して学力相応の会社の内定はもらえず中小企業に就職。


仕事が忙しいから出会いがないとか自分に言い訳しながら35歳素人童貞までまっしぐら。



そんな未来がはさっきりと見える。


実際に前世で経験してきているからね。



でもまあ、プロジェクトとしては北川、八重樫という今までの二人に比べればそんなにヘビーな仕事ではない気もする。



楽なプロジェクトもたまにはいいだろう。


私だって無理して毎回わざわざ恥ずかしい思いとかがしたいわけではないのだ。



今までは彼等に自信をつけさせるためにはそれが必要だと思っただけだ。



それに比べると吉田くんの場合は簡単そうだ。


つまり彼にはアオハル成分がたりないのだ。



要はアオハルして女子に慣れさせればそれで問題解決なのだと思う。



ここは一番、女子のなかの女子、カースト最上位の桜小路古都がアオハルな女友達になってあげようじゃないか。


それで全て解決だよね。



というわけで文化祭の劇「モブ男が聖女と学園を無双する話」の主役は吉田くんに決まった。



文化祭の練習で恋する気持ちが交差する。。。


アオハル全開してやろうじゃないか。



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