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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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映像研(3)

二宮一太は思った。

映像研に入っていて良かった。


もちろんショートフィルムの作成も戦隊ドラマも大好きだけれど、実のところオタクと呼ばれるほどのめりこんでいたわけではない。


一太が映像研に入るきっかけになったのは有名な俳優が主催するショートフィルムフェスティバルというイベントだった。


プロの映像関係者やアマチュアの愛好家が自主制作の作品を応募して、優秀な作品には賞が贈られる。

世界中から応募があるので外国語の作品や、日本の作品でも有名なアイドルが出演していたりする作品などもある。


一太はすっかり興味を惹かれて3日間のフェスのほとんどの作品を鑑賞してしまったくらいだ。


そして表彰式のときに初めて須賀明という高校生を知った。


その生徒の作品はたくさんのプロの映像もある中から奨励賞を受賞したのだ。


紹介のときにアオハル学園つまり一太の通っている学校の二年生だということがアナウンスされた。


高校生でこんな大きなフェスで入賞するような人が実は自分のすぐ身近にいたのだということに驚いた。


その作品は約10分くらいの映像だった。


女性が悪者に絡まれてピンチになったところを助けに入った男が正義のヒーローに変身して飛び蹴りで悪者をぶっとばす、というストーリーとも言えないような内容だった。


見どころは変身した正義のヒーローが空中を飛んでいって飛び蹴りをするシーンだ。


見どころというよりも、これを撮るだけの作品だということは明らかだった。


正義のヒーローはフィギュアだということは一目瞭然だ。


映像に興味がない人にとっては人形が飛んでいく様子をスロー再生しただけの、なんの面白みもない作品に思えるだろう。


でもその正義のヒーローは飛びながら色々とポーズを変えて飛んでいくのだ。


しかもその影までもが一緒に動いていく様子が映っている。


あんな小さな人形の影があんな大きく普通の人間が飛んでいるように映るわけがない。


作品を審査員の一人が説明していた。


「この作品を高校生がたった一台のデジカメで撮ったというのは驚きですね。」


「フイギュアを天井から細い透明な釣り糸で吊って、一枚撮っては少しだけ動かした位置にまた吊って、またそれを撮影してということを数百回以上繰り返したのを繋げてこの映像はできています」


「それから気が付いたと思いますが、影も忠実に再現されているのですが、実はこのフイギュアの影を撮ってもこうは映りません、実際には小さくて見分けがつかないでしょう」


「影は別撮りで同じように一枚一枚撮影してそれを繋げて作っています」


「その2本の映像を合成して最終的にこの作品になっているわけですね」


「とても創意工夫にあふれた作品だと思います」


「どれだけの時間をかけてこの作品を作ったのか想像もつきません、高校生だということですけど受験とかは大丈夫なんでしょうか(笑)」


「映像の撮り方そのものの技術もプロなみですし、審査員満場一致で奨励賞は決まりました、須賀さんのこれからのご活躍にも期待したいと思います」


一太は次の週に登校するとすぐに須賀明に会いにいった。


それでわかったのだけれど須賀明はアオハル学園では意外と有名人だった。


裸の写真を愛好家に撮らせて稼いでいる変態で、女子を見るとパンチラを撮らせろと迫ることで有名らしい。


クラスでは「変態」といえば須賀のことで、クラスの女子からは嫌われているというより怖れられているということらしかった。


けれども須賀に会いにいって一太はすぐに仲良くうちとけることができた。


裸のバイトの噂もちゃんとした芸術モデルだとわかったし、パンチラ撮影の件も単に戦隊ヒーロー好きがこうじた結果だということが理解できた。


何よりも話していて楽しい、こんな身近に眉もひそめずに戦隊ドラマの話についてつきあってくれる、というよりは熱く語ってくれる仲間がいるとは思いもしなかった。


二人はすぐに意気投合して映像研をつくることにした。


そう言っても須賀と一太とでは撮影についての技量と経験が天と地ほども違うので、撮影やストーリーつくりなどは須賀が全て行なって、一太は助手みたいなものだ。


周囲からは変態の仲間扱いされるようになったが全然気にならなかった。


今まで見るだけだった戦隊ドラマを自分が作るほうになったのだ。


監督の実力はすごい。


実写で撮ったのとフイギュアの特撮を合成して本物の戦隊ドラマみたいに仕上るのだ。


学園の誰にも監督とその作品の凄さを理解してもらえないのは残念だけれど一太は毎日が楽しくて仕方がなかった。


そうしているうちに戦隊ヒーロー好きがもう一人加わって映像研は3人になって楽しく過ごしていた。


そんなある日、いつもの公園で撮影していると桜小路古都がやってきた。


あの桜小路古都だ。


有名な両親の娘で、芸能人も顔負けの学園で一番の美少女、しかも成績はいつも学年で1位。


ほとんどの男子学生の憧れのマドンナだ。


カースト底辺の自分とは真逆にいる、3年間学園にいても絶対に時空が交わることはないと思っていた桜小路古都が、なんと自分のほうからやってきたのだ。


どうやら桜小路古都は監督に撮影の依頼にきたらしい。


やはり天才は天才を知るのだろう。


誰も相手にしていない監督のところに桜小路古都は自分から足を運んで撮影依頼に来たのだ。


噂にたがわない天才少女だと思った。 


しかも美人とかズルすぎるとも思う。


一太が吉沢桃花について説明すると桜小路古都は頷いて聞いていた。


あの桜小路古都と会話してしまった。 一太はそれだけで胸がドキドキしてきた。


桜小路古都が撮影できるのだったら一太は死んでもいいとさえ思った。


だけど大丈夫だろうか。


この時ばかりは監督が「パンチラを撮らせろ」と言わないことを祈った。


監督はパンチラのことは何も言わなかった。


それは良かったのだけれど、それ以上のことが起きてしまった。


あろうことか監督が桜小路古都の撮影依頼を断ったのだ。


そんなことがあるだろうか。


桜小路古都を撮影するチャンスを拒否する映像作家なんて監督のほかにはいない。


一太は一瞬、目の前が真っ暗になった気がした。


でも結局はなんだかんだで桜小路古都たちの演劇を監督と一緒に見にいくことになった。


今日は学校が終ったら近隣の全ての神社仏閣に行って「監督が撮影を受けますように」と祈願するつもりだ。


それにしても監督はやはりすごいと思う。


自分などは桜小路古都の半径5M以内に近づいただけで緊張で硬直してしまう。


それくらいの圧倒的な美少女オーラがすごいのだ。


だけど監督は桜小路古都と対等に普通に会話していた。


あげくの果てには「あんなに顔の整った女は果物や花などの静物と同じだ」などと天罰のくだりそうなセリフをはいていた。


やっぱり監督はみんなが言うとおり真正の変態なのかもしれない。


でも監督が真正の変態だとしてもそんなことは構わない。


自分はついてくだけだ。


監督はすごい。


監督と一緒にいなかったら自分が桜小路古都に認知されるなどという大事件が起きることは絶対になかっただろう。


あとはワンチャン。


監督が桜小路古都で戦隊物を撮影することになって、桜小路古都のパンチラに立ち会えたなら本当に死んでもいいと思う。


とにかく監督についていくだけだ。


神社仏閣だけではなくて教会にもお祈りに行ったほうがいいかもしれない。


恐獣戦隊ジャッカルーについてはもう一度よく復習しておく必要があるな。


実は監督は正義のヒーローではなくて悪の怪人のほうが好きなのだということを一太は知っている。


たぶん監督さえも知られていることを知らないだろう。


でも監督はたまにこっそりとエッチな動画を見ているのだ。


それは変身した女ヒーローが怪人に負けて犯されてしまうというアダルト動画だ。


あんな動画に商業的価値があるのだろうかと思うのだけど、少なくとも一人は需要があるようだ。


監督に一度聞いたことがある。


「なんでパンチラにこだわるんですか? だから誰も撮影に協力してくれないんですよ」


「何を言ってるんだ。 エロと暴力、これは絶対必要だ」


「エロも暴力もでてこない作品なんて誰が見るというんだ、笑止千万」


もしかすると監督が本当に撮りたいのはあのアダルト動画みたいな作品なのかもしれない。


天才とナントカは紙一重だって言うし。


桜小路古都が出演してくれることになっても監督はヒーローのコスプレとお面とかをつけさせようとするかもしれない。


それだと誰にも桜小路古都だとわからない。


それだけは阻止しないとならないな。


一太は自分の一番大事な仕事としてそれを胸に刻みつけた。



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