横浜デート2
ジェントルなおじさんがワゴンをしずしずと運んできた。
ワゴンには何種類ものケーキやアイスクリーム、フルーツなどのデザートがこれでもかというくらい並んでいる。
「お好きなものをどうぞ、選んでいただければサーブしてお持ちします」
だって。
最後にこれはワクワクでしょう。
桜小路古都といえどもれっきとした女子高生、スイーツには弱いのだ。
目移りしてしまって困るけれどショコラのとろっとかかったアイスクリームとドライフルーツを挟んだパイの盛り合わせみたいなやつ、それからベリーやマスカットののったショートケーキとチョコレートでくるんだマロンの盛り合わせ、そのふたつがとても気になる。
どちらも捨てがたくて悩んでしまう。
「もしお好みのものがあれば二つでも大丈夫ですよ」
だって。 天国かよ。
というわけで二つとも頼んでしまった。
正直、失敗したなと思う。
アミューズから始まってもうけっこう色々と食べてお腹がいっぱいだったのだ。
デザートは別腹とは言ってもさすがにやりすぎてしまった。
美味しい。でも苦しい。
これはもうすぐ大学生になろうという女子のする失敗ではないな。
「お腹がいっぱいで苦しいです」
と正直に言ったらセイント先生に爆笑されてしまった。
デート相手の女子を爆笑するとかジェントルマンとしていかがなものかと思いますよ。
「それで車に乗ったら気持ち悪くなるよ。夜風も気持ちいいし少し歩こうか古都」
確かに車は気持ち悪そうだけど、歩けるのか?
一歩あるくたびにゲップが出そうだ。
玲子さんがレストランの出口のところまで車をスッと寄せてくれて、降りてきてドアをあけてくれる。
セイント先生が玲子さんに笑顔で言う。
「腹ごなしに少し散歩しようと思うので車はいいですよ、あとでお送りしますから」
一瞬、セイント先生と玲子さんの視線がバチバチッとスパークしたような気がする。
玲子さんがチラッとこちらを見る。
「うん、ちょっと食べすぎちゃったので少しだけ歩いてから帰る」
「そうですか、夜風で風邪をひかれるといけませんからほどほどに、お電話いただければすぐにお車を寄せますので、いつでもお電話ください」
なぜかわからないけれど玲子さんがセイント先生の方を向きながら話している。
「うん、わかった。ちょっと歩いて落ち着いたら帰るから」
「それがよろしゅうございます」
今度はしっかりとこちらを向いてニッコリと微笑んで答えてくれた。
横浜の夜の街並みはなかなかきれいだ。
なんとなく異国情緒がただよって東京の街並みさとは雰囲気が違うと思う。
少し歩いた先の大きな通りを左に曲がるとかすかに磯の匂いがする。
どうやら通りの先、つきあたりが海に面した公園らしい。
「山下公園ですか?」
「そう、古都も行ったことがある?」
「ええ、昼間ですけど両親と中華街に来た時とかに2・3回」
「そうなんだ。海に面した公園っていいよね。 昼も景色が美しくていいけど夜も波の音がロマンチックだよ」
こいつ、なんかムードを盛り上げようとしてないか?
やばい、なんかドキドキしてきた。
玲子さんがいるからお持ち帰りされる心配はなさそうだけど、セイント先生、キスくらいはする気まんまんだよね?
信号が青になって横断歩道を渡ったら、もうそこは公園の入り口だった。
係留されている大きな帆船の影が黒く浮かび上がって、波が岸に打ち寄せる音も聞こえてきた。
夜の公園だけれど思ったよりも人が多い。
観光名所なだけはある。
これではさすがにセイント先生も女子高生に無理にキスを迫ったりはしないだろうとちょっと安心する。
別にファーストキスというわけでもないし、そんなに緊張することもないんだ・・と自分に言い聞かせるけどやっぱり緊張感は否めない。
スツと手を握られる。
あまりに自然な動作なので、なんの抵抗もできなかった。
くそっ恋愛偏差値も高いな、手慣れていやがる。
でもそれ以上は攻め込んでこなかった、ちょっと残念な気もしないではない。
いろいろとUSAの大学生活の話とかをしてくれた。
こちらもいろいろと質問責めにしすぎたかな?
でも楽しい。
海岸沿いの公園を打ち寄せる波を見ながら歩いていると直ぐに公園の端まで着いてしまった。
もうちょっと話したいな。
セイント先生もそんな雰囲気を察したのか。
「公園を出て少し行くと大桟橋があるけど、そこまで歩いてみる?」
それは知っている。大桟橋も両親と行ったことがある。
でもたぶん公園よりずっと人通りは少ないはずだ、外灯も公園より暗いかも。
キスは。。。されるよね。。。
胸の鼓動が高まる。こんなことくらいで中学生みたいだと自分で自分を心の中で揶揄している。
「うん、もう少し歩きたい」
隣りを見上げるとセイント先生もこちらを見ていて至近距離で目と目があった。
なんだか吸い込まれそう。。。
いつの間にか体の向きが向き合っていて、セイント先生の端正な顔がまっすぐに見下ろしている。
プップウーーーーー!!!!
とクラクションが鳴った。
プップウーー、プツプウー
なおも二回もクラクションを鳴らして車から玲子さんが下りてきた。
「お嬢様、そろそろお帰りのお時間です」
古都さん、じゃなくて、お嬢様・・なのね。
もしかして玲子さん怒ってる?
セイント先生のほうを見たら微笑んでいた。
「どう? 楽しかった? 少しはドキドキしたかな?」
「よく知っていると思っている人でも知らない一面もある」
「色々な人にであって色々な経験をして、時にはドギドキしたり泣いたり笑ったり」
「そうして人は成長していく、そろそろ古都も引き籠りから卒業する季節だね」
そう言ってセイント先生は軽く触れるようなキスをした。
目を丸くしている桜小路古都に軽く手を振った。
玲子さんが車のドアを開けてくれたので、お嬢様らしくお上品に乗り込む。
音もなく車がすべりだして宵闇にセイント先生の姿が小さくなっていく。
桜小路古都は小さく舌打ちした。
「チッ、おでこにとか子供扱いかよ」
運転席の玲子さんの肩が小さく震えているような気がするのは気のせいということにしておこう。
「玲子さん、なにか?」
「いえ、楽しい横浜デートでしたか?」
「まあまあね」
「それはよろしゅうございました」
嫌だなあ、このデートって最初から母の差し金じゃないよね。
けれどもお腹がいっぱいすぎて直ぐに眠気が襲ってきた。
「玲子さん、ごめん。寝る」
言い終わらないうちに桜小路古都は睡魔に負けていた。
モブ男を救うお話ではない回も増えてきたので作品名を変更しました。
あいかわらず遅筆ですがよろしくお願いいたします。




