八重樫くん
1年A組はそこそこ良い学級だと思っていたのだけれど、それは私の思い違いだったようだ。
このクラスで八重樫祐樹くんはこの頃イジメにあっている。
最初はクラスの男子数人に頭をこづかれたり、パシリでパンを買いに行かされる程度だったのだけれど、最近は教科書や机に落書きされたりもしている。
35歳素人童貞みたいな男の子を作らないのが桜小路古都の高校生活での目標だ。
私の在籍するクラスに限ってイジメられっ子が引き籠ったり自殺したりなど決してあってはならない。
そんな人生では35歳素人童貞よりひどいではないか。それは許されないことだ。
「八重樫お前さあ~、誰か助けてみたいな顔で周り見てんじゃねえよ」
「誰もお前のことなんか知らねえんだよ、お前がウザいのがいけねぇんだから」
「ほら桜小路だってそう思ってるから黙ってんじゃん、お前がウザいのが悪いんだって」
この馬鹿そうな男の名前はなんだったかしら?
これはこれでモブ男かもしれないけれど、私の名前を気安く呼ぶとか百年早いわね。
名前も知らないけれど君は救済対象リストからは外しておくわ。
「ちょっとそこの君、そう君よ」
「君が何をしようと私はまったく興味がないのだけど、自分が何かをする引合に私の名前を使わないでくれるかしら」
「私は無視しているだけで君の行動を肯定しているわけでも否定しているわけでもないわ」
「てめぇ、ちょっとくらい美人だからっていい気になってんなよ桜小路、犯すぞこら」
美人なのは認めるのね。 そこだけはちょっとはまともね。
「言葉に気をつけたほうがいいわ。私は使えるものは何でも使う主義なの」
「今の言葉を父が聞いたら怖い人がすっ飛んできてマジで君はボコボコにされるよ」
名前のわからない男の子は固まって、次の言葉が出なくて沈黙した。
「無言なのは反省したと理解したわ、許してあげる」
「どちらにしても君が何をしようと私は興味ないし関係ないから、それだけは言っておくわ」
ドン引きされるほどの高飛車でトンデモな発言だが私は桜小路古都なので許される。
賢くて美人で親が金持ちで性格悪、それが桜小路古都。
モブ男では私にはたちうちできない。
という経緯があったにも関わらず、今も八重樫くんへのイジめはあいかわらず続いている。
私は片桐玲子さんにお願いして、下校中の八重樫くんを誘拐同様の手口で車に乗せて家まで連れてきてもらった。
「八重樫くん、君イジめられてるよね」
「それは桜小路さんもよく知ってると思うけど」
「八重樫くん、私は八重樫くんがイジめられていることには全く興味がないのだけど自分のクラスから引き籠りや自殺者がでるのは困るのよ」
「それは僕じゃなくてイジめている方に言ってよ」
それはなかなか道理に基づいた意見だ。
「嫌よ、それで私までイジめられるようになったら迷惑だもの」
「桜小路さんがイジめられることはないと思うけど」
まあそれはそうだけど。
「イジめられているのは八重樫くんなんだから自分でなんとかしなさいよ」
「なんとかできるならしてるよ」
「まあ、それはそうね。でも引き籠りや自殺は困るのよ」
「それで私、考えたんだけど、イジめられても八重樫くんが引き籠ったり自殺したりさえしなければいいかなあって」
「桜小路さん、それってかなり酷いこと言ってると思うんだけど」
それは確かにその通りかもしれないな。
でも桜小路古都はどんなに酷いことを言っても許される、そういう当たり前のことを八重樫くんが理解していないのは減点対象だ。
「イジめられて引き籠ったり自殺したりっていうのは、つまりそれが耐えられないくらい辛いからだと思うのよ」
「一人で辛い思いを抱えていればそうなるわよね」
「だから私も辛い思いを八重樫くんと共有してあげることにする」
「つまり八重樫くんは一人じゃないっていうこと、私も一緒に辛いんだから」
「それってやっぱり桜小路さんも一緒にイジめられるっていうこと?」
「だからそれは嫌って言ったでしょ、そうじゃなくて八重樫くんがイジめられて嫌な思いをしたら、その度に私も何か嫌な罰をうけて気持ちを共有するっていうこと」
「桜小路さんの言っている意味が全然わからないんだけど、どういうこと?」
「そうねえ痛いのとか汚いのとかは私はダメだから、それ以外で私が嫌なことって言ったら、恥ずかしいことくらいかしら」
「八重樫くんがイジめられたら、私もそれと同じくらい嫌な気持ちになるような恥ずかしいことをするっていうのはどう?」
「どうって言われても。。。」
「八重樫くん、先週はどんなイジめにあったの?」
「こづかれて、パシリをやらされて、国語の教科書と机に落書きされた」
「けっこう嫌そうなことされたわね、う~ん、それと同じくらい私が恥ずかしくて嫌なことと言うと。。。」
「私が制服を脱いで上半身はブラだけになって八重樫くんに見られるっていうのはどうかしら?」
「桜小路さん何言ってるのかますますわかんないんだけど」
「私はその辺の女子みたいに夏になったからって透けブラとかしていないんだからね」
「ブラ姿見られるとか超恥ずかしいんだから! 八重樫くんは私のブラ見たくない?」
「それは見たいけど」
「正直ね。イジめられたけど桜小路のブラが見られたんなら、まあ我慢するかってなる?」
「イジめられたら、そのたびに桜小路さんが恥ずかしいことしてくれるっていうこと?」
「そうよ、そのかわり引き籠りも自殺もなしよ、どう契約する?」
「する!」
「即答じゃん。そんなに私のブラが見たいの? 八重樫くんってもしかしてすっごいエッチ?」
「そんなことないよ桜小路さんのブラ見たくない男子なんていないと思う」
なかなか正直でよろしい。
ちょっとは可愛いいところもあるわね。
「わかったわ、契約成立ね、それじゃあ先週イジめられたぶんとして私も恥ずかしい目ににあうわ」
私は制服のシャツとその下に来ていたキャミを脱いでブラだけになった。
油絵を描いてもらうためにわざわざ買ったハーフカップの水色のブラだ。
胸の谷間までおっぱいの形が丸わかりで、ちょっとめくったらすぐに乳首まで見えてしまいそうだ。
「恥ずかしいから、あんまりジロジロ見ないで」
「でも桜小路さんが自分で脱いだんじゃない」
「自分で脱いだって恥ずかしいものは恥ずかしいのよ」
「恥ずかしすぎて私のほうが引き籠りそうだよ」
「僕のためにごめん」
「どう? これで先週イジめられたぶんと相殺できた?}
「うん、相殺できた」
けっこうチョロいなこいつ。
「今週もイジめられたとしても我慢できそう?」
「綾小路さんがそのぶん後で相殺してくれるんなら我慢できると思う」
「八重樫くんやっぱりエッチだわ」
「でもわかった。これからも八重樫くんがイジめられた度合いに応じて私も恥ずかしいことするよ」
「酷くいじめられたりしたら全裸見せなきゃならなくなったりしてね」
「えっ、全裸?」
「そこ反応するところじゃないから」
「ごめん」
結局、毎週月曜日の放課後に前の週にイジめられた内容の報告会を私の家ですることになった。
帰っていく八重樫くんの足取りは学校では見たことがないくらい軽やかな感じがした。
実を言うと、油絵で経験済みなせいかブラ姿は前ほどは恥ずかしくはなかった。
なんなら来週は下も見せてもいいかなと私は思った。 慣れは怖い。