桜小路古都の事情(2)
桜小路古都はちょっと考える仕草をしてから東野さんに訊いた。
「東野さんは高校を卒業したあとはどこに進む予定かしら?」
「どこにってそのままアオハル学園大学に進学するつもりだけど」
「桜小路さんはT大受けるんでしょ?」
急に話題が変わったので戸惑いながら答えた。
「それなんだけどね、以前はT大を考えていたのだけれど最近考えが変わったの」
「母が留学を勧めてくれているので今は留学しようと思っているわ」
「え~!! 留学ってUSA? 桜小路さんなら留学くらいできそうだけど、ちょっとびっくり」
「それでね英語の家庭教師の先生とかに色々と聞いたり、自分なりに調べたりしてみたんだけど」
「SATっていう大学進学者向けの試験と英語力のTOEFLのスコアのほかにボランティアだとか研究とかプロジェクト活動の実績とか社会的活動も評価されるみたいなの」
「試験や推薦書とかは大丈夫だと思うのだけれど社会的活動とかの実績って全然なのよね」
確かに桜小路さんがボランティアとか集団で何かするものに参加するって聞いたことがないなと東野優子は思った。
桜小路古都は珍しく困った表情で続けた。
「私は1人ですること以外ってあまり好きではないから、そういうことは何もしてこなかったのよね」
「せいぜい東野さんに引っ張り出されて文化祭に参加したりとかくらいでしょ」
「それで思ったの、ただ文化祭に参加したくらいでは実績にも何にもならないけれど、一年生の時に東野さんがしていたみたいに、出し物を提案してクラスをまとめて全体をプロデュースして文化祭での上演を成功させました。 というようなことなら多少は実績として認められるかもって」
「え~、一年生の劇のときって私そんなプロデュースとか大げさなこと何にもしてないよ、ただ単にみんなの雑用係をしてただけだよ」
「それにそんなことくらいで実績として認めてもらえるの?」
「それはわからないわ、でも何もないよりもマシでしょ、舞台や観客の様子を動画でとって高校生がプロデュースした演劇だって大げさにプレゼンするしかないわね」
「ふうん、そうなんだ。 でも桜小路さんなら何にしても失敗とかしそうもない気はするわ」
「だからどうしても人狼劇はちゃんと成功させないとならないの、東野さんに休まれていては私が困るのよ」
「それでどうなの、東野さんは明日から学校に来てくれるの?」
東野優子は思った。
結局はこうなんだよね、演劇の練習が進まなくて困るとか、本当は私のことを心配してきてくれているだけのくせに。
「わかった、友達に困ってるから出てこいと言われたら、ずっと休んでいるわけにいかないものね」
それを聞いて桜小路古都は満面の笑顔になった。
「それじゃあ、明日から出てきてくれるのね、約束よ」
「うん、明日から行くよ。心配かけてごめんね」
「別に心配はしていないわ、来てくれないと私が困るだけよ」
「ふふっ、そうだね。もう困らせないよ」
「ありがとう、お願いに来てよかったわ。」
桜小路さんは要件が終るとお母さんが出してくれたお菓子も食べないでさっさと帰って行った。
久し振りに東野優子が教室にはいって行くと、周りから「おはよう、久しぶり」の嵐だった。
昨日までは何となくギクシャクして雰囲気の悪かった教室内の空気がフワツと明るくなったけれど、休んでいた東野優子だけはまったく気づいていなかった。
さっそく舞台監督の近藤くんがやってきた。
「次の練習は水曜日の予定なんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫かなって何が?」
「いや、ちゃんとみんな集まるかなって思って。。。」
「だって水曜日に練習って決めてあるなら、そりゃあ集まるでしょ」
「そうか、それならいいんだけど」
次に踊り子役の持田さんがやってきた。
「ごめん東野さん、実は水曜日なんだけど家の用事でどうしても無理で・・・」
「そうなんだ、それじゃあ補欠の瑞原さんに練習の代役頼んだらどうかな、確か火曜と金曜は塾で厳しいって言ってたけど水曜なら大丈夫じゃないかな」
「ええと、この前ちょっと瑞原さんと喧嘩しちゃったんだよね、お互い謝って仲直りはしたんだけど、それでいきなり頼み事はちょっと気が引けるというか。。。」
「そんなの気にしなくても大丈夫だと思うよ、でもわかった瑞原さんには私から頼んでおくわ」
「本当! まじ助かるわ。東野さんいつもありがとう」
その後も照明係やら音楽担当やらが次々と相談にやってくる。
東野優子は思った。
「あいかわらず、みんなやる気満々ね。 これなら私なんかいなくても全然大丈夫じゃない」
「やっぱり心配してくれてただけか、また桜小路さんに迷惑かけちゃったな」
そういえばシスター役の自分のパートの練習は全然していなかった。
やばいと思って舞台監督の近藤くんに、水曜日はシナリオのどこからやる予定か聞いてみた。
あれっ?
これって、私が休む前から全然進んでないじゃん???
そう思って桜小路さんのほうを見たら、話しかけるなオーラ全開で本を読んでいる。
なあ~んだ、桜小路さん、私が出てくるまでわざと進めないで待っていてくれたんじゃん。
あいかわらず桜小路さんはすごいなあと東野優子は思う。
私も桜小路さんみたいに何かクラスのみんなの役に立てるといいのだけれど、まあ私にできるのは雑用くらいだからね。
よしっ、それでもできることだけでも頑張ろう!
東野優子が登校してきてクラスの誰もがほっとしていた。
気がついていないのは本人だけだった。




