人狼ゲーム 東野優子side(3)
バイオレッタの配役を桜小路さんから三枝さんに替わってもらったことで、その後は順調に文化祭用の人狼劇の練習は進んでいる。
姫野先生はその後も何回か練習を見に来ていたようだけれど、何も言ってこないので学校側OKはとれたという理解でいいのだろう。
ところで学級委員長である私、東野優子はこの頃けっこう色々と忙しい。
桜小路さんがプロデューサーということで役者の生徒だけではなくて照明やらナレーションやら色々な係になった生徒たちがプロデューサーの桜小路さんに相談したいことが山積みで、その度に私のところへ「桜小路さんに訊いてくれない?」と頼みに来るのだ。
確かに桜小路さんはいつも近寄るなオーラを出しているけれど、私だって小中学校が同じだったというだけで桜小路さんに友達認定されているわけでもなんでもないのに困ってしまう。
でも桜小路さんにはクラスのみんなとなるべく交流して欲しいと思っている。
なので、みんなから頼まれればなるべく断らずに桜小路さんに伝えるようにしている。
役者のほうは自分の自分の練習はまあまというところかな。
一年生のときと違って主役ではないので気が楽だし、シスターというのは衣装だけで誰から見ても「シスターだ」と判るので、演じるのもやりやすい。
あとは心配した三枝さんの酒場の娼婦だけれど、いらない心配だったようだ。
桜小路さんのやっていたバイオレッタとは全然違うけれど、サバサバ系の娼婦という感じで上手く劇の舞台感にマッチしている。
それに思いのほかなんというか色っぽい。
サバサバ系の口調も強気な娼婦さんなんだけど、たぶん自警団長はいつも自分を買っている客という設定を三枝さんが作っているのだろう、バイオレッタが自警団長に絡むところだけは凄くネットリした感じなのが関係性を思わせて生々しい。
さんざん三枝さんの娼婦役を馬鹿にしていた自警団長役の徳永くんが逆に照れているのかきょどった演技になっているのが可笑しい。
徳永くんのあの演技はどうかと思うのだけれど、舞台監督の近藤くんがスルーしているので、たぶんコメディーっぽい部分もあっていいと考えているのかもしれない。
徳永くん、小学生かよ。
明らかに三枝さんのこと意識してるじゃん。
それなのに口では「三枝の娼婦とか客がくるのかよ?」とか、好きな女の子に意地悪するガキンチョそのものだ。
三枝んのほうは徳永くんのことどう思ってるのかな?
意識していたら逆にバイオレッタの客設定とかはしないような気もするので、そうだとすると徳永くんちょっと可哀想かもって思ってしまう。
通し練習のあと三枝さんが桜小路さんに何か相談している。
三枝さんはバイオレッタの役のことで桜小路さんと個人練習をしたとかで少し仲良くなったらしい。
この頃は時々自分から桜小路さんに話しかけたりしてている。
桜小路さんはいつも近づくなオーラは出しているけど、話しかけてきた子を無視するようなことはしない。
みんなも何でも私にばかり言ってこないで三枝さんみたいに桜小路さんに話しかけてみればいいのに。
「古都さん、ちょっと相談してもいいですか?」
「なに? 秋良ちゃん」
「徳永の演技のことなんですけど、あれなんとかならないっすかあ~、古都さんから舞台監督の近藤くんになんとかさせろって言ってやってくださいよ」
「そうねえ、あれはちょっと笑えるよね。でもほら舞台監督は近藤くんだから。私はプロデューサーだけど舞台のことは近藤くんに任せる約束だから、どうしてもって言うなら秋良ちゃんから近藤くんに直接言うしかないんじゃない?」
「え~、冷たいなあ。 近藤のやつ前はオドオドしてたくせに舞台のことになると厳しいから言いにくいんですよねえ」
「私の見るところだと秋良ちゃんより近藤くんのほうが舞台全体を見て考えてるみたいだから、とりあえずは舞台監督に従ってみて、それから考えたほうがいいんじゃないかな」
「は~い、古都さんがそう言うならそうしてみまーす」
@@ 三枝さん、桜小路さんとファーストネームで話してるんだ!!! 初めて知った。
え~ずるいよ~、私だって桜小路さん、東野さん呼びなのに。。。
羨ましすぎる。
三枝さんはサバけたところがあるからなあ、桜小路さんああいう子が好きなのかな。
私はこういう、うじうじ考えてるところがダメなのかも。。。
「桜小路さん、私も古都さんと呼んでいいですか? 私のことは優子ちゃんと呼んでください」
うわ~っ無理だあ、無理すぎる。絶対言えないわこんなこと。
それにもし言えたとして桜小路さん真顔で「東野さんは東野さんでしょ」しか言わない気がする。
でもまあ、桜小路さんが三枝さんとだけでも少しはうちとけたならいいことだ。
ちょっと嫉妬もあるけど、三枝さんボーイッシュでかわいいしね。
私にはあのキャラは無理だから仕方がない。
教室に入ろうとして気になる会話が聞こえてきたので思わず足をとめてしまった。
「ねえ聞いた? 三枝さん、桜小路さんのこと「古都さん」呼びだよ」
「そうそう聞いた聞いた、桜小路さんも「秋良ちゃん」だって」
「バイオレッタの役替わったからって馴れ馴れしく近づいちゃって、ちょっとだよねえ」
嫉妬??
あれっ? 三枝さんも教室にいる?
ああ、わざと三枝さんにも聞こえるように言ってるんだ。
ちょっとこれは見過ごせないな、注意しないと。
でも少女たちはまだこれ見よがしに嫌がらせの話をしている。
「東野さんだって桜小路さんって呼んでるのに、分をわきまえないっていうかさ」
「そうそう、東野さん可哀想」
えっ! ちょっと待って、そこは私は関係ないでしょ。
なんでそこで私の名前がでる。
「桜小路さんだって、東野さん無視して三枝さんが話しかけてくるとか本当は嫌なんじゃないかな」
ないない。絶対そんなことないわ。あんなに親しそうに三枝さんと話してるのに。
「桜小路さん優しいから、秋良ちゃんとか話しあわせてるだけだよ」
三枝さんが立ち上がって少女たちに近づいていく。
「あんたらさあ、私になんか言いたいなら直接言えっていうんだよ、なんだよ感じ悪いな」
「三枝さあ、そういう態度がそっちこそ感じ悪いんだよ、桜小路さんと話すなら東野さん通せって言ってんの」
「なんで? 古都さんと直接話しちゃいけないわけ? おかしいでしょクラスメイトなのに」
「東野さんは桜小路さんと幼馴染で、みんなが桜小路さんに話しかけにくいのを取り持ってくれてんだよ」
「私は別に東野さんに取り持ってもらわなくても古都さんと話せるし」
「あんたはそれで良くても、東野さんが機嫌こわして取り持ってくれなくなったら、みんなが困るんだよ」
「何そのルール? 私そんなの聞いてないし古都さんもそんなの求めてないと思う」
三枝さんはそれだけ言うと私のいる出口のほうに走ってきた。
ドアをガラッと開ければ当然、私と面と面で向かい合いになる。
三枝さんは一瞬驚いたようだったけど、キッと私を一瞥して睨むとそのままどこかに駆けて行った。
呆然として立っていると少女たちが私に気づいた。
「あっ、東野さん、ごめん。私たち余計なことした? でも三枝が東野さんのこと全然何も考えてないから頭にきちゃって・・・」
私は頭がパニックだ。
「ああ、いいの、みんなも桜小路さんのことで私に気を使わないでね」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
私って何やっていたんだろう?
桜小路さんに憧れて、桜小路さんとお友達になりたくて、桜小路さんのためにと思って色々してきて。
でもそれって全部、本当は自分のためじゃない。
桜小路さんが小学生のときのことを教訓にしてお取り巻きを作らないようにしているのに、もしかして私自身がお取り巻きになってたってこと?
私が一番軽蔑しているものに私自身がなっていたなんて。
それじゃあ桜小路さんの努力も全部ぶち壊しじゃない。
桜小路さんがいつまでたってもどこかに壁を作ってうちとけてくれないのは、そのせいだったのか。
私って馬鹿みたい。
みんな桜小路さんとお話ししたいのに私の顔色ばかり窺っていたのかしら。
私が、みんなが桜小路さんと話すのを邪魔していた?
最悪だ。
もう学校に来たくない。
死んでしまいたいくらいだ。
そんなつもりはないのに気がついたら目から涙がポロポロととめどなく流れていた。
そうして私、東野優子は不登校になった。




