北川くん(2)
北川くんはどんな気持ちで一週間を過ごしたのだろうか。
ワクワクして心待ちにしていてくれたのだったらちょっと嬉しい気もする。
次の週、北川くんは道具類を揃えてきた。
思ったより結構な大道具だ。
でもキャンパスは予想より小さいのを持ってきた、A3用紙くらいの大きさだ。
「北川くん、最初に一番重要なことを言っておくけど私が下着姿になっても触れたり襲ったりは絶対しないでね」
「そんなことしないよ」
「とぢらかというと北川くんのためなの」
「うちの父は過保護で私がほぼ一人暮らしなので心配して家中のあちこちに非常ベルが置いてあるから、これみたいに」
私は非常ベルのリモコンを見せた。
「これを押すと警備員が飛んできて北川くんは捕まっちゃうから」
「だから、そんなことしないって」
「警察に逮捕されるだけじゃなくて、父の建設関係にはヤバい知りあいもいるみたいだから、そうなったら北川くんはたぶん生きて卒業できないと思う」
「桜小路さんのお父さんってそういう人だったの?」
「父は普通の経営者よ、でもいざとなればそういう知り合いもいるってこと」
「父は私を溺愛しているから、きっとただではおかないと思うの」
「だから北川くんがそんなことになっちゃうのは私としても不本意だし、これだけは最初に言っておくから肝に銘じて」
「確かに僕が桜小路さんのお父さんだったら、娘が襲われたら相手を殺したいと思うかも」
「わかった絶対エッチなことは考えないよ」
「北川くん。できない約束はしないほうがいい、そんなの無理に決まってるわ」
「私が下着姿になるのよ」
「北川くんがエッチな気持ちにならないなんて絶対無理に決まってるじゃない」
「エッチな気持ちになったり、エッチな目で見てしまうのは仕方ないわ」
「それは構わないけど、絶対に触ったり襲ったりはしないでってこと、見るだけ妄想するだけにして」
「あとは絵さえちゃんと描いてくれればそれでいいから。」
「構わないんだ。。。」
「無理なことは求めないわ。わかったかしら」
「よくわかった。絶対に触らない」
「そう、よかったわ。それじゃあ始めましょうか、用意して」
北川くんは持ってきた道具を出してきて架台にキャンパスをセットした。
鉛筆だけで絵具とかはまだ使わないみたいだ。
「準備できた? それじゃ私も準備するね」
私はその場で脱ぐことにした。
たぶんその方が北川くんもドキドキするだろう。
私が脱ぎ始めたら、やっぱり北川くんはガン見している。
陰キャでも健全な男の子のようだ。
シャツを脱いでインナーキャミも脱いでブラだけになったら、北川くんは唾をのんでいるようだった。
スカートを下ろして黒のミセパンも脱いですぐにブラとショーツだけになった。
意識は35歳男でも魂が女子のせいか、やっぱりかなり恥ずかしい。
なんとなく内ももをすりあわせるようにモジモジしてしまう。
別にあざとく誘惑しているわけではない、本気で恥ずかしいだけだ。
そこまでいくと北川くんのほうも、ガン見は恥ずかしいのか目をそむけている。
でも本能に負けて時々チラ見している。
超恥ずかしいけど、それはもともと覚悟のうえだ。
北川くんを35才素人童貞にしないプロジェクトはすでに開始されたのだ。
「ちゃんと見ないと描けないでしょ、こっちを見てちゃんと描いて」
本人からお許しが出たので北川くんは渋々というふりをしてガン見にもどった。
ほとんど見ているばかりで全然描いている感じがしない。
視線は胸のあたりに集中している。
ハーフカップのブラなので谷間も胸の形もばっちり見えている。
桜小路古都の胸は巨乳ではないけれど高校一年生としてはまあまあ豊かなほうだと思う。
視線が胸ばかりなのは下半身のガン見は北川くんにはハードルが高いのか。
結局、3時間くらいかかったけど、素人の私が見てもほとんど描けてない気がする。
「北川くん、見るばっかりで全然描けてないんじゃない?」
「まだ輪郭だけじゃん」
「この前のデッサンと油彩の下絵とでは違うんだよ、こういうものなの」
私が素人だと思って胡麻化そうとしている気がする。
まあいいか、今後に期待しよう。
2周目もほとんど同じような感じだった、たぶんあんまり進んでいないと思う。
3週目に私は北川くんに注意することにした。
「エッチな目で見てもいいと言ったけど、それは絵をちゃんと描いてくれるならよ」
「君はどう思っているか知らないけど、私はこの絵すごく楽しみにしているから」
「どうしてそんなに楽しみにしてるの?」
「だから高校生の私を記録しておきたいって言ったじゃない」
「何十年かたって私がお婆ちゃんになっても、この絵を見て「そうそう私はこういう高校生だった」、これってクラスメイトの北川くんが描いてくれたんだよなあって思いだすの」
「この絵が最高の絵なら高校生の私も、それを描いた北川くんのことも今こうしているこの時間も私の中でキラキラした思い出として一生残るのよ」
「でもこの絵がつまらない絵なら、忘れられて、いつか見かけても「これってなんだったっけ?」って思うだけ」
「私は最高の今を記録したいの」
「だからエッチな目で見てもいいし、帰ってから一人エッチしてもいいから、絵だけは北川くんの全力で描いて」
「上手いか下手かとかそんなことはいいの、高校生の北川くんが全力で「今はこれ以上は描けない」っていうのを描いてくれれば私は満足だから」
「そんな絵ならきっと私の記憶に永遠に残るから、北川くんのこともね」
つい熱く語ってしまったが、北川くんもけっこう真剣に聞いてくれていた感じだ。
あいかわらずこっちを見てる時はエッチな感じのガン見だけど、キャンパスに向かっている時は表情が真剣になっている。
何週かすると北川くんはほとんどこっちを見ていない感じになった。
キャンパスに没頭している。
桜小路古都が下着姿でここにいるんですけど?
なんで君は全然こっちを見ないのかなあ?
真剣になってくれるのはいいんだけど、なんだかちょっと納得がいかない気もする。
教室で何人かの女子がヒソヒソ話している。
「北川ってさ、なんだか雰囲気かわったよね」
「なんか美大目指してるらしいよ」
「えっ、マジなの。美大って難関でしょ」
「将来は芸術家とか超かっこいいじゃん。 見た目はアレだけど」
「そうかな。頭いいし、なんか堂々としてるっていうかさ、見た目もそんなにアレじゃないよ」
「何か目標に向かって頑張ってるとかっていいよね」
「え~、なにそれ、好きって言ってるようなもんじゃん」
「違うって、そういうんじゃないから」
「ひゅーひゅー、照れるなって」
「だからそういうんじゃないって言ってるでしょ。」
モテてんじゃん。。。北川のくせに。
確かにいつの間にか陰キャな雰囲気が消えているような気もする。
絵を描いてくれているときに訊いてみた。
「なんか北川、最近は堂々としているとか言われてたよ」
「ええと、桜小路さんの下着姿見てるの僕だけだから。」
「ほかの男子に何言われても、僕のほうが勝ってると思う」
「ふうん、そうなんだ。 ところでこの絵ってさ、いつごろ完成するの?」
「絵って気持ちを入れると終わりがないんだよ」
「ダ・ヴィンチは気に入った作品は一生手元において手をいれ続けたらしいよ」
「えっ、それは困るよ。 一年以内くらいにはちゃんと完成させて。」
「わかってる。でもまだもうちょっと時間はかかりそうかな」
北川のくせになんだか偉そうだ。
余裕とか見せてんじゃないよ。
でもモブ男救済プロジェクト第一弾はなんとなくうまくいっているような気がする。
たぶん北川くんは35歳素人童貞にはならないだろう。