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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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三枝さん

小柄でショートカット、目のクリッとした可愛いい女子。

ちょっとボーイッシュな感じで中学生の男子みたいな雰囲気、三枝秋良さん。


これで男子にはけっこう人気がある。

元気で明るくて本当に男の子みたいな喋り方とか、そういうのがツボな男子も少なくないということかな。


そんないつも元気いっぱいの三枝さんが、いつになく緊張した感じで桜小路古都に近づいていく。


「あの桜小路さん、ちょっとお話しする時間とかあるかな」


読んでいた本からチラッと目線をあげて誰だか確認したようだ。


「ないわ、今は本を読んでいるの」


別に不機嫌なわけではない。

この塩対応は桜小路古都の通常モードだ。


だから幼馴染の東野さん以外は不用意に桜小路古都に話しかけたりはしない。

近寄るなオーラを全開にしている相手に「どういうつもりだ?」とか思われるのは誰だって嫌だ。


周囲の生徒が「三枝さんなんで話しかけてんの?」みたいな顔で見ている。


「バイオレッタの役のことでちょっとお話ししたくて。。。」


「その役は貴女にお譲りしたから私には関係ないし、お話しすることは何もないわ」


やっぱり桜小路さんは通常モードだなあと誰もが思っている。


「ちょっとバイオレッタの役作りで悩んでいてプロデューサーの桜小路さんに相談したいの」


三枝さん凄い!!! と誰もが思っている。


東野さん以外で桜小路古都に塩対応されてここまて粘れる人は滅多にいないからだ。


美少女というのはニッコリと微笑まれれば、それだけでホッコリと心が温かくなるけれど。逆に冷たい表情で塩対応されたときの心の痛手も半端ないのだ。


それを聞いて桜小路古都が本をパタリと閉じて、三枝さんのほうに向きなおった。


周囲に緊張が走る。


桜小路古都は本が好きだ。

かなり好きだ。


なので読みでのある大作も大好きだ。


桜小路古都の父は水滸伝とか三国志とかの長編の中国歴史物語が好みで、家の書棚には全巻が並べられていたりする。


子供のころから本という本を読み漁った桜小路古都もそれらの中国長編を熟読していて、遺伝なのかけっこうその手の作品が面白かったりもする。


水滸伝や三国志などというものは歴史を語る一方で仲間たちとの絆や一宿一飯の恩義というようなものが物語の根幹をなしている。


その影響をうけたせいか女子高生には似つかわしくないけれど桜小路古都は「一宿一飯の恩義」という言葉が大好きだ。


言葉の響もいいし思想も悪くないと思う。


バイオレッタの役を誰も引き受けてくれなそうなところに三枝さんが手をあげてくれた。

これは一宿一飯の恩義と言えるだろう。


そうだとすると、ここまでして、バイオレッタの役作りについてプロデューサーに相談したいという三枝さんの相談を無下にしてしまうのは水滸伝の宋江や三国志の劉備玄徳に申し訳がたたないかもしれない。


「わかったわ、でもなんだか難しそうな相談みたいだから、放課後でもいいかしら? 私にもいろいろとあるので家まで来てもらえるなら時間はとれるから」


「えっ? 桜小路さんの家に行っていいってこと? マジ?」


「そんなことで嘘をついても仕方ないでしょ、バイオレッタを替わってもらった恩もあるし、うちの車で送るから放課後になったら一緒に来て」


「やった、ありがと、そんなに難しいことを相談するつもりはなくて桜小路さんのバイオレッタがすごかったから参考になることが何か聞けたらな・・っていう感じなんだけど。。。」


「わかったわ、夕飯もうちで食べていきなよ。両親はいないから私もどうせ一人だし」


「えっ、ご飯までってさすがにそれは悪いよ。」


「食べたくないのなら無理にとは勧めないわ、まあどっちにしても一緒に帰りましょう」


周囲の誰もが羨ましそうな顔をしている。

それはそうだ、桜小路古都の家なんて行きたいに決まっている。




駐車場で待っていてくれた家政婦兼運転手の片桐玲子さんがドアを開けてくれて、桜小路古都と三枝さんは一緒に車に乗り込んだ。


玲子さんは心得たもので何も言わないけれど表情だけで「まあ珍しい」と思っているのはよく判る。


毎週金曜日に勉強を教えている男子を乗せる以外で桜小路古都が帰りに誰かを連れてくるのは本当に珍しいことだからだ。


「玲子さん、こちらはクラスのお友達の三枝秋良さん。今日は晩ご飯を家で食べてもらいたいのだけど大丈夫かしら?」


「お二人分でしたら大丈夫です、ご用意できています。掃除もお風呂の準備なども済んでいますので私はお送りしましたら本日はこれでお暇させていただきます」


つまり玲子さんは自分の分の食事を三枝さんに回して、自分は食事をしないで帰るということだ。


元々、家政婦がその家で雇用主と一緒に食事をとるのには難色を示していた玲子さんを、いつも両親がいなくて一人で食べるのは寂しいからと無理を言ってつきあってもらっていたのは桜小路古都だ。


食事をしないでその分早く帰れるのなら、そのほうがいいのだろう。


「お帰りの時間が決まっているようでしたら、その時間に車をご用意いたしますね」


いつも一緒に勉強している男子が帰るときには時間になると玲子さんが来て送ってくれている。


「今日はいいわ、遅くなるかもしれないし、泊まるかもしれないので父のタクシー券使うから、玲子さんは今日は終了にして」


「そうですか、それはありがとございます。でも何かありましたらいつでもお電話ください」


玲子さんは本当に親切だ。

あきらかにお手伝いの業務範囲を超えている。


いつだって娘を放りっぱなしの両親に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。


三枝さんはなんだかソワソワしている。


「桜小路さん、タクシーとか泊まるとか、そんなの気にしなくて・・電車で帰れるし」


「駅まで遠いし、暗くなると一人歩きは危ないから、そんなに遠慮しなくてもいいわ」


「そう、それじゃ帰るときにその時の感じで電車にするか決めるから」


「それではそうしましょう、ということで玲子さんは電話とかしないからゆっくり休んでね」


玲子さんはニッコリと微笑んで車をゆっくりと発車させた。

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