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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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人狼ゲーム 東野優子side(2)

「なに? 東野さん」


振り返った桜小路さんの、その弾けるような笑顔が怖い。


桜小路さんはいつもこんなふうに満面の笑顔で話したりはしない。


二人きりになるのを待って話しかけられた、このシチュエーションだけで既に「何か面倒なことを言う気ね」と察しているのだろう。


頭の回転が速すぎる人とはなにかと話し合いが難しい。


その笑顔に負けそうになりながらも、なんとか気持ちをたてなおして私は言った。


「桜小路さん、怒らないで聞いて欲しいんだけど、実は人狼劇のことで先生からバイオレッタの配役を誰か別の人に変更できないかって相談されてしまって。。。」


「配役の変更は別にかまわないけれど、それはどうしてかしら?」


「えっ、かまわないの?」


あんなに完璧になるまでバイオレッタを練習していたはずだ、桜小路さんはすごく怒ると思っていたのだけれど、全然平気な顔だった。


「桜小路さんの演技が上手すぎてバイオレッタの登場シーンが直前までエッチしてたみたいに思えるので学園祭にはふさわしくないんじゃないかって」


「それはそう思えるでしょうね、本気で直前までセックスしていた気持ちで演技しているから」


そうだよねえ。 そういう演技だよねえ。


前から気になっていたんだけど桜小路さん、やっぱりそういう経験あるんだ。


ちょっとショックかも。


普段の態度とか考え方とか、私たちより全然大人びているから当然そういうのも経験済みなんだろうなあと思う反面、桜小路さんが男の子にそういうことされているっていう絵が全然想像できなくて、そういうのないんじゃないかなあという希望的観測もあったりしてた。


いかんいかん、今はそういうこと考えている場合じゃなかった。


私がごちやごちや頭の中で考えているうちに桜小路さんのほうが先に言った。


「先生の言うことも理解はできるわ、今どきそういうこと言うのは教師とか学校としては逆にリスクがあるのではないかとも思ってしまうけど、別に姫野先生を困らせるつもりもないし」


「でも桜小路さんは本当にそれでいいの?」


「別にいいわよ、どうしてもバイオレッタがやりたいとかいうわけでもなかったし他の人にお願いするのにはちょっとな役かなと思って引き受けただけだから」


「文化祭で人狼劇がやりたいだけで、なんの役とかそういうのには別にたいした興味はないから全然平気」


「それって真に受けて大丈夫なやつ?」


「東野さんこそ何をそんなに気にしているのか私にはわからないわ」


「OK、桜小路さんがいいならバイオレッタは配役変更ってことで」


桜小路さんはちょっとだけ考えるような仕草をした。


「でも娼婦の役が文化祭にふさわしくないということだと私から誰かに替わっても同じではないかしら? 役者のみんなもけっこう練習重ねて世界観できちゃっているから今更バイオレッタの役を失くしてしまうというのもどうかしら? 困ったわね」


「ああ、それは大丈夫だと思う。 桜小路さんの演技がすごすぎて娼婦が生々しすぎるだけだから、他の人が演じるなら大丈夫と思う。先生も娼婦の役自体を失くせとは言ってなかったし」


「なるほどそういうことね。確かに他の人で私のバイオレッタのクオーリティーを出せる感じはしないわね」


こういうところが桜小路さんが桜小路さんのところなんだと思う、変に謙遜したりしないのだ。


でも桜小路さんだと嫌な感じはしない、とぢらかというとちょっと可愛く思えてしまうくらいだ。


「でも困ったわね、娼婦の役なんて私以外に替わって演ってくれる人がいるかしら」


それは確かにそうだ。


別に普通に「娼婦の役やってくれる人?」と頼めば引き受けてくれる女子生徒は何人かはいそうだ。


でも桜小路さんがやっていたのを代打でやれと言われて引き受けてくれる人がいるだろうか?


私なら絶対嫌だ、桜小路さんの代わりなんて無理無理・・と思ってしまう。


こればっかりは予想もつかないけれど、みんなに話してみて誰か引き受けてくれる奇特な人がいることに期待するしかないだろう。


桜小路さんがまったくバイオレッタとか学校の横暴とかそういうのに頓着しないのには驚いた、いつものことだけど琴線がどこにあるかわかりずらいんだよね。



学級会議は大荒れだった。


先生の手先となって桜小路さんの配役を奪った私には非難轟轟だ。


でも桜小路さん自身がみんなを説得してくれて涙目の私を救ってくれた。


やっぱり桜小路さんは優しい、冷たく見せているけれど誰より優しい。


それがわかっているからクラスのみんなもそれ以上は私を責めなかった。


騒ぎがおさまったのを待って桜小路さんが言った。


「そういうわけで娼婦の役で申し訳ないんだけれど誰かバイオレッタの役を私と替わってくれないかしら」


さっきまでの騒がしさはなんだったのだ? というくらいに教室が静かになってしまった。


そうだよねえ、桜小路さんの代わりとか誰にも無理だよ~


桜小路さんが阿川さんのほうを見て言った。


「阿川さんどうかしら? 金貸しも娼婦もそんなに変わらないでしょ?」


いつもちょっとクールな感じの阿川さんがぶんぶん首をふっている。


「無理無理、金貸しだって役作り大変で、近藤に毎日ダメ出しされながらやっとなんとかここまでやってきただけなんだから」


ダメかあ~、私も頼めるなら阿川さんくらいかなあと思ったんだよなあ。


その後、そもそも娼婦の役はなくして別の配役にしたらどうだとか色々な意見が出たけれど、プロデューサーの桜小路さんが劇の世界観として娼婦の配役には拘っていることもあって中々結論がでなかった。


これは今日はもう無理だなあと私は思いかけていた。


その時、未亡人の役をやっている三枝さんがおもむろに言った。


「あのさあ、バイオレッタの配役替えるってことは桜小路さんが出演しないってことじゃん」


「それってどうかと思うんよね。徳永とか星野とかいなくなってもどうでもいいけど桜小路さんいなくなるとかありえんでしょ」


本来ならつっこむはずの徳永くんと星野くんが、うんうんと頷いているのが可笑しい。


「なんで私がかわってもいいよ、桜小路さんには未亡人やってもらうってことで」


「なんかさあ未亡人とかっていうのも設定的になんか結構エロい感じじゃん、娼婦もたいしてかわんないし、やってもいいよ」


三枝さんて何ていうか男らしいというかサバサバしてるところあるんだよねえ、こういう時にはこういう人がいてくれるとホントに助かる。ありがとう三枝さん。


私はこの機会を逃すわけにはいかないと前のめりで言った。


「それじゃあ、みんないいよね? 配役変更はバイオレッタが三枝さんで、桜小路さんが未亡人ってことで」


一斉に拍手がおこった。


徳永くんがさっきの仕返しで茶々をいれる。


「配役はそれでいいけど三枝の娼婦とか客が来なそう!」


三枝さんは面白そうに言い返した。


「娼婦が自警団長を殺すかもだから警察とかの配役とかも必要じゃね?」


う~ん、たしかにボーイッシュな三枝さんの娼婦ってちょっとイメージ的に無理がありそうな気がしないでもないけど、本人がいいって言ってるんだからいいか。


背に腹は代えられないし。


そうやって配役問題はやっと片付いた。


娼婦の衣装はサイズとかあわないので予算も余ってるし作り直すことになった。


また文句言われても困るのでスリットとか胸元とかは控え目にしてもらうと千葉くんと桜小路さんが言っていた。


さあ、また練習のし直しだね。

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