人狼ゲーム(3)
「和田さん、最後の投票だけど、どうして未亡人じゃなくて神父に投票しちゃったの?」
舞台監督の近藤くんが和田さんに訊いている。
今の練習では残り5人で人狼の2人が神父役の星野くんに投票(人間)して、村人チームの神父(星野くん)と徳永くんが人狼の未亡人(三枝さん)に投票したけれど、村人の和田さんが人狼ではなくて人間の神父(星野くん)に投票してしまった為に村人チームが負けてしまったところだ。
「ごめんなさい、私のせいで村人が負けちゃって。どうしてって言われても星野くんのほうがなんとなく怪しそうだなって思ったから」
近藤くんは舞台監督という名前だけれど人狼ゲームの指導もみんなにする役だ。
「和田さんは既に死んじゃった人の中では誰が人狼だと思っているの?」
「それは。。預言者だって言ってた村長の佐伯くんだと思ってる」
近藤くんが頷きながらコーチし始めた。
「2日目の投票のとき預言者COしている佐伯くんと、東野さんのどちらが人狼かって分からない状況だったよね、でも佐伯くんが処刑されて、夜に東野さんが襲われちゃった」
「それでみんな東野さんが預言者、佐伯くんが人狼と思ってるわけだけど、2日目の夜の投票で星野くんは佐伯くんに投票しているよね、それが5票目でそれが決定票で佐伯くんの処刑が決まっている」
「星野くんが人狼だったら、仲間の人狼の佐伯くんが処刑されてしまう票を佐伯くんにいれるかな?」
和田さんはびっくりした顔をしている。
「いれないよ仲間に投票するとかありえない。そうかそれが判ってれば星野くんじゃなくて三枝さんに投票したんだけど、でも星野くんが誰に投票したかとか覚えてないよ」
負けてしまった村人チームの徳永くんが横から口をだしてきた。
「なにやってんだよ和田、それくらい気づけよ、だから村人が負けちまうんだよ」
申し訳なさそうにしている和田さんを制して近藤くんが続けた。
「人狼ゲームはチーム戦だ、負けたのは個人ではなくてチーム全員の責任だよ」
「徳永くんは今そう言うのだったら、2日目の昼のターンで和田さんに「星野は佐伯に投票してるから人狼じゃない」と説得するべきだった。自分のやるべきこともしないで和田さんを責めているようじゃ、いつまでたっても人狼には勝てないよ」
近藤くんはそこでぐるりと全員を見回してから言った。
「投票は大事だって昨日も言ったよね、「誰が誰に投票したか」は人狼を推理するのにとても重要な情報なんだ。もし覚えてなかったら「星野くんって1日目と2日目って誰に投票してたっけ?」と訊いてみればいい、誰かが覚えていて教えてくれるかもしれないからね」
みんな真剣に近藤くんの説明を聞いている。
いつのまにか近藤くんはいっぱしの人狼コーチになっているみたいだ。
桜小路古都は補欠の篠倉さんに酒場の娼婦役をかわってもらって練習には参加していない。
教室の隅っこで机に千葉くんと向かいあわせで座って、キャラクターデザインの打ち合わせをしている。
今回のモブ男救済プロジェクトでは新しいクラスのモブ男、つまり将来の35歳素人童貞コース候補者をまとめて元気づける計画だ。
そのうちの一人の近藤くんはあんなに堂々と舞台監督役をしているようなら既にもう心配なさそうだ。
千葉くんは漫画オタク、漫画以外のことには興味がないのか、いつも頭はボサボサだし、友達もいないみたいでプロジェクトの一番の標的の一人だ。
「さてと千葉くん、13人分のキャラクターのイラストちゃんと描いてきてくれたかしら?」
桜小路古都は千葉くんに一日で13人分の漫画を書いてくるように頼んでおいたのだ、桜小路古都の場合は頼むということは命令に等しいのだけれど、本人は何かを人に頼んで断られたことはないので全く気にしていない。
「もちろん書いてきたよ、だけどこれを基にして舞台衣装を作るって桜小路さん本気なの?」
「本気よ、父の紹介でコスプレ専門の服屋さんに頼んであるから、千葉くんさえちゃんと書いてくれていれば、その通りの衣装をちゃんと作ってくれるわ」
「それじゃあ見せてちょうだい」
千葉くんはカバンからゴソゴソとスケッチブックを取り出した。
頭からはパラパラとフケが制服の肩のあたりに落ちてきた。
「千葉くん、あなたお風呂にはいってないの? 頭がフケだらけよ」
みんなが遠慮して言わないことも桜小路古都はなんでも気にせずはっきり言う。
「あっごめん、お風呂はあんまり好きじゃないんだ。面倒くさいし、昨日は漫画書くのに夢中だったし」
「千葉くんは私のこと好きじゃないの? 私とこうして打ち合わせするのがわかっているのにお風呂もはいって来なかったのよね?」
「ごめん、漫画を書くので頭がいっぱいで、それに桜小路さんはどっちにしたって僕のことなんかなんとも思ってないに決まってるし」
「質問に答えていないわ、千葉くんは私のこと好きなの? 好きじゃないの?」
「えっ。。。。」
あまりにも直接的な質問にどう答えていいかわからなくて千葉くんは固まってしまっている。
桜小路古都と千葉くんが何やら揉めている様子を察して練習していた生徒もみんな聞き耳をたてている。
「答えないのね、つまり私のことは嫌いだってことね。私を嫌いな人に無理矢理に打ち合わせにつきあわせるつもりはないわ、いいわ打ち合わせは終わりにしましょう無理を言って悪かったわね」
千葉くんが大慌てになっているのは周囲から見ていても明らかだった。
「待って、嫌いだなんてそんなことないです、明日からはちゃんとお風呂もはいってくるから」
周囲の女子たちがクスクス笑っている。
「嫌いじゃない? それじゃあ私のこと好きってことでいいのね?」
「好きです。ていうか桜小路さんのこと好きじゃない男子とかいないし」
「そうなの、まあそれならいいわ」
「言っておくけど千葉くんが何をもって「僕なんか」というのかわからないけど、私は容姿とか顔とか運動神経とか頭がいいとか悪いとか、そんなことだけで男の子の好き嫌いは決めないけど不潔な人は嫌いよ、よく覚えておいて」
「わかった覚えておくよ」
「そう、よかったわ。それじゃあ早くイラストを見せてよ、一日で書いてこいと言ったのは私だからね千葉くんがお風呂も入れなかったのは私のせいもあるわね、言い過ぎたわ」
千葉くんはスケッチブックを開いて説明しはじめた。
漫画だけれど人物が丁寧にスケッチされている。
「思ったより、すごく良くかけているわね、これならそのままコスプレ屋に渡せそうよ」
「そう、桜小路さんがそう言ってくれるなら頑張ってよかった」
千葉くんはとても嬉しそうだ。
桜小路古都はページをめくって全部のイラストを見ていく。
「村長と神父、医者はもうこのままでいいわ、よく描けている。イメージ通りよ」
「酒場の主人、鍛冶屋、自警団長は悪くはないけどちょっとインパクトが弱いわね」
「明日はこれに色もつけてきて、酒場・鍛冶。自警は他の人と一発で見分けがつくくらい派手なのとか奇抜な感じの模様の服にするとか何か考えてみて」
「どれどれ、ふうん、千葉くん女キヤラクターのほうが絵がうまいね」
「シスターの顔がまんま東野さんじゃない、やっぱり千葉くんも東野ファンか。シスターの服は神父とは違う色にしてね、神父が黒ならシスターはダークグレーとか」
「髪切りはこういう実務的な制服みたいなのじゃなくて、モデルが髪切り役やってるみたいなヒラヒラした大人っぽいデザインのにならないかしら、「いい女」担当だから」
「踊り子は駄目ね、こんなのじゃないわ、肩は胸のあたりまで全部だしたオープンショルダートップスにしてスカートも思いっきりミニにして、でも下品にならないようにエロ可愛いいアイドルみたいなのにしてね」
「パン屋はいい感じね、可愛らしくて癒し系なパン屋さんの感じがでているわ」
「金貸しもちょっと違うかな、こういうギャングというかボーイッシュな感じではなくて、もっと大人の悪女っぽい感じのをいくつか描いてきてみてくれる?」
「未亡人は三枝さんだからね、まあ喪服だからこんな感じだろうけどベールとかワンピースを思いっきりロングにするとか強気な未亡人の雰囲気が何か出せないかなあ、まあ千葉くんに任せるわ」
「それで酒場の娼婦がこれね、ふうん、こんな大人しいのでいいんだ。セクシー系だから他の女子に頼めないから私が引き受けたんだけど、胸前とかお臍のあたりまで細く開いてるとか、太ももまでスリットがはいってるとかシースルーで下着丸見えとかくらい覚悟してたんだけど、こんなのでいいんなら恥ずかしくなくていいわ」
「ただし他の男子から娼婦なのに露出がたりないとか言われても私は知らないから千葉くんが責任とってね」
千葉くんはずっと必死にメモをとっていたけど、最後の娼婦のところでアワアワして何か言いたそうにしたのは完全に無視されて、一方的に打ち合わせは終了したみたいだった。
次の日の放課後、今日も桜小路古都は練習は補欠の一人、瑞原さんに任せて千葉くんと衣装の打ち合わせだ。
千葉くんは今日はもしかすると朝にシャワーでもしてきたのだろうか、髪の毛はいつものボサボサじゃなくてサラサラフワフワという感じだ、なんだか可愛らしい。
さっそく桜小路古都に手直ししたり色をつけてきたりしたイラストを見せている。
桜小路古都は一通り目を通したあとにいった。
「いいんじゃない、どれもイメージ通りよ、あとはコスプレ屋さんのほうで考えて調整してくれると思う」
「だけど指示していないのに娼婦のデザインも変えてきたのね、私は昨日のでもよかったのに」
昨日の打ち合わせの後に男子たちに千葉くんが吊るしあげられていたのを桜小路古都は知らない。
名門のアオハル学園とはいっても高校生の男子たちは普通にエッチだった。
「胸はこれ前かがみとかになったら隙間が大きくて中が全部見えちゃいそうね、防止策はなにかコスプレ屋さんに考えてもらいましょう、スリットは腰までね、別に言われた通りにしなくてもいいのに、それに背中は全部シースルーって、私にノーブラで舞台に出ろってこと? まあ考えておくわ」
「せっかく千葉くんがここまで手直ししてくれたからこれでいいわ、あとは全部に色もつけて、週末の土曜日にコスプレ屋さんに頼みに行くけど千葉くんも来れる?」
千葉くんはものすごく大きくうんうんと首を縦にふっている。
コスプレ代は桜小路古都と東野さんが負担することになっている。
父に文化祭の話をしたら、また有名デザイナーの鷹野陽子さんに電話して頼もうとしていたので、それはきっぱりとお断りした。
鷹野陽子さんにオーダーで16人分も衣装を作ってもらったら、それこそお代が大変なことになってしまう。
それで鷹野陽子さんに許可をもらって、昨年に陽子さんに作ってもらった私と東野さんのぶんのハロウィン用のコスプレ衣装をオークションに出して売ることにした。
ただ陽子さんからブランドイメージもあるので最低落札価格は低くても10万円以上にして欲しいと言われてしまった。
さすがに一回着用済みでしかも実用性のないハロウィンコスプレ衣装、それにまだまだハロウィンという季節ではないし、それが10万円では売れるのは厳しいと思ったけれど、そもそも鷹野陽子さんに無理いってハロウィン衣装作ってもらった手前こればかりは仕方がない。
鷹野陽子制作のハロウィンコスプレとしてとりあえず東野さんの分を出品してみた。
はっきり言って鷹野陽子ブランドをなめていた、10万円以上と言われて微妙な顔をしていたのが本当に申し訳ない。
出品したその日のうちに落札価格は20万円を超えていた。
鷹野陽子さんは高級淑女服しか作らないから、ハロウィン衣装というのは超希少価値だったみたいだ。
子供の為なら金はいくらでも出すという金持ちの馬鹿親は世の中に少なくないらしい。
まあ桜小路古都の父親はその中でも格上なくらいな馬鹿親だけど。
落札価格はさすがに100万円は超えなかったけれど当初予想もしなかった金額だった。
次の週に「これが最後」と書いて桜小路古都のぶんを出品したら、前回に落札しそこねた人たちが今度こそとでも思ったのだろうか、東野さんのときよりもさらに高額な落札価格になってしまった。
というわけで16人分のコスプレ予算、潤沢です。
制作には2週間ほどかかってしまったけれど、練習はみんなの塾とかの関係もあって週2回にしたのであっという間にできてきたという感じだった。
補欠の3人のぶんの衣装はとりあえず髪切り(美容師)とパン屋と金貸しだ。
勉強とかが忙しくて一番練習休みが多そうな三人の代打用の衣装だ。
近藤くんの指導もあって人狼ゲームのほうはみんなだいぶ上達しているようだ。
初日に役職者がカミングアウトしたり、人狼や狂人が預言者や霊媒師を騙ってでたりとかもスムーズにできるようになったし、ここは誰の喋るところだなというのをみんなが理解して任せたりして、とても聞きやすくなった。
最初の頃はいつも何人かが同時に喋っていて観客からだと何を喋っているのかわからなかったりしたのだ。
そんなわけで劇としてのレベルもだいぶそれらしくなってきたところだったので衣装が到着してみんなのテンションも爆上がりだった。
桜小路古都も千葉くんとの衣装作成が一段落してからはほぼ練習に参加している。
衣装をつけての初めての通し練習にはクラスのほぼ全員が観客として放課後も残っていた。
村長や自警団長、神父なんかも役になりきっていていい感じだ、やっぱり衣装があると断然違う。
髪切り(美容師)の白沢さんは、超きれいで、どちらかというと女子のほうがうっとりしている。
シスターの東野さん、パン屋の和田さんも本当に可愛いい。
金貸しの阿川さんは大人の悪女っていう感じ。
意外な人気は未亡人の三枝さんだ。
ボーイッシュでいつも強気でちょっと言葉使いも荒っぽい感じの三枝さんの未亡人というのがギャップ萌えなのかもしれない、それにけっこう体のラインが出る衣装で露出は全然ないんだけど、なんとなく色っぽいのだ。
三枝さんばかり目で追っている男子も何人かいたぞ。
でもやっぱり男子の人気は露出系だね。
踊り子の持田さんと、娼婦の桜小路だ。
持田さんは美脚全開で、舞台狭しとあちらこちらと動き回る。
衣装のスカートが短いのでその下の短パンが見えまくりなんだけど、舞台監督の近藤くんから注意されて、なるべく見えないように演技しているのが、かえって見えそうで見えないエロい感じになってしまっているのだけれど本人は全然気づいていない。
桜小路古都は娼婦の役作りをがんばった。
映画とか動画とか手当たり次第に見て研究したのだ。
最初の登場シーンではお客と一仕事終えた娼婦が、その余韻もさめやらぬまま酒場に現れるという設定だったけれど、前髪をひと掴みハラリと落として、胸やうなじのあたりに霧吹きで汗をつくって、なるべく艶っぽい目つきを意識して演技してみた。
素人にしては割合とうまくできたような気がする。
観客で股間のあたりを抑えている男子が何人かいるけれど、まあ高校生の男子なんて盛りのついたサルみたいなものだ、なんにでもすぐに欲情する。
前世が中年オヤジの桜小路古都はそのあたりは良くわかっているので、それくらいで自分の演技に満足したりはしない。
人狼劇の練習は順調に進んでいた。




