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桜小路古都の日常  作者: 雅流
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近藤くん(3)


第一体育館に来てみると、まだ開演前なのに既に半分くらいは席が埋まっていてる。


先ほどのお姉さんたちのデモンストレーションが効いているのかもしれない。


まもなく8割方の客席が埋まり、人狼会議が始まった。


「これから始まる人狼会議はガチです、出演者も誰が人狼で誰が役職者なのか知りません」


「なので場合によっては3回連続で人狼さんが処刑されてあっという間に終わってしまう場合もあるかもしれませんが、そこはガチ勝負のスリルでもあるのでご容赦いただきお楽しみください」


煌びやかな海賊衣装を着た役者たちが登場して開演のダンスパフォーマンスを見せてから、すぐに劇が始まった。


ところがいきなり話し合いは桜小路古都が考えていたのとは違う展開をみせた。


スパンコールのようにキラキラ光る黒いショートパンツをはいた美脚のお姉さんの海賊が言ったのだ。


「初日からCO(カミングアウト)しちゃって悪いけど私が預言者よ、最初から知っている人間は妹のリンダ、今日は私とリンダには投票しないでちょうだい」


桜小路古都は顎に手をあてて考えながら言った。


「何故まだ人狼も見つけていないのに彼女は預言者をCOしてしまったのかしら? これでは今日は狩人に守ってもらえたとしても明日は狩人は連続では守れないから、せっかくの預言者がすぐに襲われて死んでしまうわ」


近藤くんが横から答えるように言った。


「彼女が預言者COしないと夜に人狼に襲われてしまうだけではなくて、昼のターンで人狼に間違われて処刑されてしまう可能性もあるからじゃないかな。 もしそうなると彼女が知っている「リンダが人間だ」という情報さえ誰も知ることができなくなってしまうから」


もっともな説明だけれどそれでも桜小路古都には納得がいかなかった。


「確かにその可能性はあるわね、でも預言者は一人なのに人狼は3人いるのよ、皆が何も情報がない状態で投票するなら、間違って預言者が処刑されるよりも、たまたま人狼を処刑できる可能性のほうが3倍も高いわ、やっぱり、わざわざ人狼に自分が預言者だと知らせるCOは悪手だと思うわね」


「さすがわ桜小路さんだね、でも人狼が処刑できる可能性は3倍ではなくて、けっこう低いと思うよ」


「処刑は多数決だからね人狼同志はお互いを知っているからお互いには投票しない。誰か人間が他の人間に投票したら、それにあわせて投票して誰かをスケープゴートにすることもできる」


「それに人間が人狼を探しているのと同じで人狼のほうも預言者を探しているんだ、こいつは預言者かも?と思われたら3票を重ねられて処刑される可能性だって低くはないんじゃないかな」


桜小路古都はハッとしたようだった。


「なるほど人狼が3票持っていることが重要な意味を持つのね、そこまで考えが回らなかったわ。近藤くん凄いじゃない、誰かに間違いを指摘されたのは久しぶりだわ」


本気で感心して桜小路古都がキラキラした瞳で隣にいる近藤くんを見つめると、近藤くんはびっくりしたように目を丸くして恥ずかしそうに横を向いてしまった。


「近藤くん、せっかくのデートなんだから横向いてばかりいないで少しは私のほうを見てよ、君の解説はなかなか面白いわ、やっぱり近藤くんにエスーコートしてもらってよかったわね」


「いや僕はちょっとだけ人狼ゲームの経験があるってだけで・・・、だけど彼女が預言者COしたのはそれだけの理由じゃないと思うよ、見ていればすぐにわかると思う」


謎めいたことを近藤くんに言われて桜小路古都はすっかり人狼ゲームに夢中だ。


マッチョな体つきの男性海賊役の俳優が言った。


「みんな聞いてくれ、これはとても大事なことだ。俺は預言者なんだ、最初から知っている人間は船長のフックだ。」


桜小路古都は意外な展開に驚いてしまった。


「ねえ近藤くん、預言者が二人っていうときもあるの? 」


「ないね、預言者は一人だけのルールだから、つまりどちらかは預言者じゃないのに預言者だと嘘をついているってことだね」


「嘘をついてもいいルールなのね、でもどうしてそんな嘘をつくのかしら? 人狼から見て誰が預言者だかわからなくして襲われないようにするため? でもそれだと狩人もどちらを守っていいかわからないし、村人もどちらの預言者を信じていいかわからなくて困るのではないかしら?」


そこまで言って桜小路古都は隣の近藤くんとバチッと目があった。


「あっ、困るのね。つまりどちらが本当の預言者かわからなくして人間たちを困らせることが目的、つまり嘘をついている方は人狼ってこと? 」


「人間チームは人狼を全滅させないと勝てないのよね? 預言者のどちらかが人狼なのだとしたら人間チームは預言者を騙っている人狼を処刑しなければ勝てないってことよね」


「でも処刑したほうの預言者が人狼ではなくて本物の預言者だっていうこともありえる」


「つまり1/2の確率で本当の預言者かもしれない人を自分たちで処刑しないとならないということね」


「そうだね、さすが桜小路さん理解が速い。預言者二人のうちどちらかは人狼か狂人だね、もし人狼の場合は人狼同志はお互いがわかっているから、人狼からはどちらが本当の預言者かもわかっていることになる。」


「つまり夜のターンに確実に本物の預言者のほうを襲うことができる、でも狩人にはどちらが本物の預言者かはわからないからどちらを守っていいかわからない」


「なるほど、そうだとするとやっばり彼女がいきなりCOしたのは失敗だった気がするわね」


「そうでもないよ、彼女がCOしないで翌日にCOした場合に、もしかしたら他の人から見ると前日処刑してしまった人が預言者で、彼女は預言者を騙っている人狼かもしれない。 つまり2日目にCOすると自分一人しかCOしていない場合ですら皆に信用してもらえない可能性があるってことだね」


人狼劇はその後も桜小路古都の予想を裏切るような展開をいくつも見せて、最後には人間チームが全部の人狼を処刑して人間チームの勝利で終わった。


なんと勝った人間チームも残ったのはたった二人だけだった。


「近藤くん、すっごく面白かったね。それに近藤くん凄く詳しくて感心しちゃったわ」


「桜小路さんが楽しんでくれてよかった。僕はただ元々知ってたってだけで感心されるようなことじゃないし」


「ううん私は近藤くんと一緒でとても楽しかった、男子と一日一緒にいてこんなに楽しかったのは初めてかも」


「本当は僕なんかじゃなくて兄に案内してもらえばもっと良かったんだろうけど、でも桜小路さんがそんなに楽しかったのならよかったよ」


「なんで? 悪いけど近藤くんのお兄さんには興味ないわ、近藤くんのほうがずっと魅力的だもの」


「桜小路さん、気をつかって無理しなくていいよ。僕は兄みたいに勉強もスポーツもできないし、受験だってこのT大に入れるか学力的にギリギリなんだよね」


「近藤くんはなんでT大に入りたいの?」


「兄もいるし、やっぱりT大を出れば就職とか将来もいろいろ有利だろうから」


「ふうん、そうなんだ。まあ他人の下で働くには学歴はけっこう便利かもね」


「近藤くん、兄弟のこと悪く言われると気分を害するかもしれないけれど、私あなたのお兄さんはあまり好きではないわ、ああいう人が大人になったみたいな人を何人も知ってる」


「T大を出て父の会社で幹部やってたりする、話を聞くと学生時代のことばかり、自分の人生の中でたかが18歳での受験成功が人生のなかの一番自慢な出来事なのね、40年とか生きてきてT大卒だっていうそれが一番自慢なことって寂しくない? 」


「私が「T大なんか」って言った時のお兄さんのムッとした顔。自分が一番誇りに思ってることを貶された人間の顔ね。 馬鹿馬鹿しいわT大が貶されたからって自分の全部が否定されたみたいな顔して」


「学歴なんてその人間の価値のほんの一部でしかない。近藤くんは人狼ゲームについて自分の頭で考えて表現して私を感心させてくれたわ、近藤くん自身の価値で私を楽しませてくれたの」


「私は近藤くんに、つまらないお兄さんの真似なんか目指してほしくない、私にとって魅力的な近藤くんのままの個性を伸ばしていってほしい。」


「ねえ近藤くん、私たちも文化祭で人狼劇やらない? 近藤くんが監督してくれるんなら絶対に今日のよりもっと素敵な人狼劇になると思う。 私と一緒にやろうよ」


「桜小路さんも一緒にやってくれるってこと?」


「言ったでしょ、好きでもない男の子と一緒に文化祭の劇やりたいとか思わないって、近藤くんが監督するなら私も全力でサポートするわ」


「秋の文化祭までずっと桜小路さんと一緒に練習できるってこと? ほんとにいいの?」


「そうね私は俳優で出るわ、リンダよりもずっとセクシーな衣装にしようかな、どう?楽しみ?」


近藤くんは真っ赤になって目を背けた。


知ってるんだ、さっきの人狼劇のなかで一番セクシーな衣装のリンダ役の女性、胸元は大きく開いて胸の谷間がこれでもかと主張していた。


ひらひらのロングスカートなんだけどスリットが深くて、片脚を台にのせて見栄をきったポーズでは太ももまで美脚があらわになっていた。


近藤くんがずっとリンダばっかりガン見していたのに気づかない桜小路古都ではない。


「ねえ、近藤くん。やるの? やらないの? どっち?」


「もちろんやるよ、僕が監督するんだ。桜小路さんも出てくれるなら絶対にT大人狼よりも素晴らしい舞台にするから」


そう言った近藤くんの瞳もキラキラと輝いて見えて、そして学園祭にくるときに比べると帰り道はなんだか少し堂々として見えるような気がした。


駐車場へと向かう学校の出口のあたりはだいぶ人影が少なくなってきていた、向こうから近藤兄が何人かの友達らしき人たちと歩いてくるのが見える、向こうもこちらに気づいているだろう。


「それじゃあ近藤くん、今日はありがとう。文化祭も楽しみにしてる」


「うん、桜小路さんも帰り気をつけて」


「あっそうだ、近藤くんに言っておくけど「特別な好き」じゃなくても、それは今のことだから」


「嫌いや無関心から「特別な好き」にはならないけど「好き」はそのうち「特別な好き」になるかもしれないね」


近藤くんは言われた意味がピンとこないらしくてポカンとしていた。


桜小路古都は近藤くんに顔を寄せると、近藤くんの頬にチュッとキスをした。


「今日のお礼、ほんとに楽しかったから」


呆然と立ちつくしている近藤くんをその場に残して桜小路古都は颯爽と運転手の玲子さんが待つ駐車場へと去っていった。


このプロジェクトも成功かな? でもそれよりもデートは本当に楽しかった。


近藤くんを元気にする機会は秋までまだまだいくらでもあるしね。


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