表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜小路古都の日常  作者: 雅流
17/47

近藤くん

アオハル学園では二年生になるとクラス替えが行われる。


それから2年間は卒業まで同じクラスだ。


ほとんどのクラスメイトとは別のクラスになったので一年生から桜小路古都と同じクラスの生徒は5人だけだった。


でも桜小路古都は孤高の人なので友達づきあいはほとんどないから寂しいとか残念というような気持ちはまったくわかなかった。


あえて残念だったことを言うとするなら、東野優子さんとまた同じクラスになってしまつたことくらいだ。


彼女は桜小路古都が小学生の頃はイジメッ子グループのリーダーだったという黒歴史を知っている唯一の生徒なのだ。


できれば弱みを握られている東野さんとだけは別のクラスになりたかったが運が悪かったとあきらめるしかない。


クラスのメンバーが入れ替わったので見回してみると、将来35歳素人童貞になりそうな匂いのするモブ男がそこそこにいる。


どんなにクラスが入れ替わっても、どこにでもモブ男は必ず一定数以上存在するのだ。


この世の中が全て相対評価でなりたっている以上それは避けようがない現実だ。


問題は、モブ男自身は自分が35歳素人童貞コースであることに薄々気づいていながら、それから目をそむけて気づかないふりをしていることだ。


でも現実を残酷に直視させることばかりが本人のためとは限らない。


だから桜小路古都はモブ男が35歳童貞コースに向かう道から、ちょっとだけでも逸れた違う道へと歩き始めるきっかけを与えてあげたいと思っている。



新しいクラスになって周囲を見渡して一目で陰キャとわかるモブ男を発見した。


近藤誠二くんだ。


なんだかいつもオドオドしている。


口癖は「僕なんか」だ。


まだ高校二年生だし優秀な生徒しか入学できないアオハル学園に在籍しているというのに、この自己肯定感の異様な低さはなんなのだろう?


自分を肯定できない人間が他人に肯定されるなんていう幸運は現実の社会においてはほとんど起こらない現象だ。


このまま進めば近藤くんは間違いなく35歳素人童貞になるだろう。


今までのターゲットの中でも最も桜小路古都の救済プロジェクトに適したターゲットと言える。


近藤くんを救わずして誰を救うと言うのだ。



そういうわけで二年生になって初めてのプロジェクトの対象は近藤くんということに決まった。



とりあえずは近藤くんのことをもっと良く知ることから始めなければならない。


最も安易な方法ではあるけれど二年生になってもあいかわらずクラス委員長に選ばれた東野さんに訊いてみることにした。


東野さんは弱みを握られている煙たい存在ではあるのたけれど、弱みを脅迫材料にして何かを強要してくるとき以外は天使のように親切な女子なので頼りになる。


一年生のときからクラス委員長をしていて生徒会などにも顔が利くし、なにより優しく親切、社交的なので誰からも好かれていて交友範囲が広い。


周囲とのコミユニケートを一切拒否して孤高を貫いている桜小路古都に比べれば学園内のことについての情報保持量は比較にならないのだ。


東野さんに相談してみると、私から相談を受けたことがさも嬉しいかのように笑顔でいろいと教えてくれた。


きっとこれでまた桜小路古都に貸しが一つできたと優先的な地位の確立にほくそえんでいるのだろう。


「近藤くんのことが知りたいの? 桜小路さんっていつもなんていうか思いがけない男子のことを訊くよね?」


「思いがけないかどうかは東野さんの主観でしょ、教えてくれないのならいいわ」


「待って、待って。桜小路さんに相談されたら断るなんてありえないよ、でもそんなに良くは知らないんだよね」


「小中学も違う学校だし、一年のときも違うクラスだったでしょ、クラブ活動とかもしていない帰宅部みたいだし目立ちない男子だからね」


「それじゃあ東野さんはなんで近藤くんのこと知っているの?」


「実は友達の女子に相談されたことがあるのよ、去年の3年生つまり卒業して今頃は大学生になっていると思うけど生徒会長をしていた近藤先輩が好きだって」


「桜小路さんと同じで成績はいつも学年トップ、スポーツもバスケ部のキャプテンやってたキラキラ男子ね」


「それがあの近藤くんと二人兄弟のお兄さんというわけ」


それだけ聞いただけで桜小路古都には近藤くんの自己肯定感の低さに大体見当がついてしまった。


つまりブラコンだ。


なんでも優秀な兄と比べられて卑屈になっている弟、なんだか漫画やドラマとかにもよく出てきそうなくらいありがちな設定だけど、実際にも現実にもあるんだというのは初めて知った。



桜小路古都は今までの人生で何かで人に劣っていると悩んだことは一度もないので、近藤くんの感情が理解できないし、寄り添うこともできそうもない。


でも対処法はそんなに難しくないように思った。


要は兄に対して自分のほうが勝っていると思えるようなことを示してあげて自信をつけさせさえすれば、良い方に転がっていきそうだ。


男子は桜小路古都と少しでも仲良くなっただけで他の男子に対して優越感を抱く動物なのだ。


よっぽどヘタをうたなければこのプロジェクトも失敗することはないだろう。




二年生になりクラス替えの内容が発表されると学園内は大騒ぎだった


その中でも一団の生徒たちが大ハシャギでハイタッチなどをしあっている。


その様子を眺めていると東野さんがいつのまにかスッと横にたって話しかけてきた。


桜小路古都に物怖じもしないでこんなに気安く話しかけてくるのは東野さんだけだ。


忌々しいが弱みを握られているので仕方がない。


「あの子たち、桜小路さんと同じクラスになれたのであんなに喜んでいるのよ」


「周りの子たちも羨ましそうに見ているわね」


桜小路古都には小学生の頃から見慣れた光景だ、ただこんな偏屈な女と同じクラスになったからといって何が嬉しいのかまったく理解ができない。



それでも、こっちは知らなくても相手は誰もが自分のことを知っているというのは便利な面もある。


それなので桜小路古都は今まで一度も話したこともない近藤くんの席にいって当たり前のように話しかけた。


クラス替えがあってほとんどのクラスメイトが桜小路古都に挨拶に来たが、桜小路古都自身が自分から相手の席までいって話しかけるというのは初めてだった。


桜小路古都が近づいてきただけでクラス中の視線が近藤くんに集中している。


「近藤くん、ちょっとお話しさせてもらってもいいかしら」



近藤くんの顔からはサッと血の気が引いて青白くなった。


桜小路古都に名前呼びで話しかけられて緊張で固まってしまったようだ。


「黙っているのは私とお話しするのは嫌ということかしら、私はぜひ近藤くんとお話しがしたいのだけど」


「嫌なわけなんかないです。でも僕なんかでいいんですか?」


「僕なんか・・というのはどういう意味かしら、私は近藤くんと話したいと言ったのだけど」


「あっ、いや、桜小路さんならみんな話したいと思ってるだろうから」


「他の人のことはどうでもいいわ、私は近藤くんと話したいの」


教室中がシーンと静まり返った。


あの桜小路古都と、近藤とかいうあいつはいったいどういう関係なんだろう?


誰もが興味津々で聞き耳をたてている。


「ごめなさい、いいよ何でも話します。ところで桜小路さんが僕なんかになんの用?」


「聞きたいのは近藤くんのお兄さんのことよ、お兄さんはどこの大学に進まれたのかしら」



周囲から、な~んだという感じのため息がもれて、クラスの緊張感がふっと緩んだ感じがする。


教室の端のほうでヒソヒソと何人かの女子たちが話している。


「桜小路さんでもやっぱり近藤先輩なんだ。。。でも二人ならお似合いだよね」


なんだか見当違いなことが話されているようだけれど桜小路古都はそんなことには頓着しない。


近藤くんも、なんだか知らないけれど納得したような顔をしている。


「ああ兄のことですね、兄は今年からT大です」


やはりそうか。


アオハル学園の学年トップだ、T大進学は一番無難なコース選択だろう。


つまらなそうな奴だ。


でも海外留学とかではなくてよかった。


「そう。T大学なら学園祭は5月のはずね、一緒に見に行くから近藤くんエスコートしてちょうだい」


「えっ」 それ以上は何も言えないで近藤くんは固まっている。


「心配しなくてもうちの車で送り迎えはしてあげるから、エスコートは大学についてからでいいから」

「それからお兄さんにも私と一緒に行くと伝えておいてね」


「えっ、でも・・・」


近藤くんは事態に理解が追い付かないようで混乱しているみたいだったけど、それだけ言うと桜小路古都は返事も聞かずに自分の席にもどってしまった。


返事など聞かなくても桜小路古都は今までの人生で誰かに何かを依頼して断られたことは一度もないのだ。


つまり桜小路古都と近藤くんの二人でT大の学園祭に行くのは確定事項となったということだ。





新しい学年の新学期なんてあっという間に時間が過ぎてしまう。


3人ほどの男子から告白されたが、秒でごめんなさいして全部断ったりなどしているうちに一か月がたちゴールデンウイークも終わるともう学園祭の日だった。


桜小路家の家政婦である片桐玲子さんの運転で近藤くんと一緒に車でT大の学園祭へと向かっている。


いつも学校に送迎してくれているワンボックスカーではなくて黒のリムジンだ。


大きくて運転しずらいと玲子さんはこぼしている。


私と近藤くんの前の座席にはスーツ姿のガタイのいいおじさんが二人坐っている。


近藤くんと二人で学園祭を見に行くと言ったら、そんな人ごみの危険なところに大事な一人娘を護衛もなしに行かせるわけにはいかないと父親に言われてボディーガードというかSPというのだろうか付けられてしまったのだ。


高校生の男女二人のデートなのに無粋なこと甚だしいけれども仕方がない。

母親にも「古都ちゃんは特別にかわいいから護衛はつけてもらったほうがいい」と言われてしまったし。


駐車場の前は大渋滞だったので玲子さんにお願いして先に下ろしてもらった。


思ったよりも結構な人が来ていて、ぼうっとしているとはぐれてしまいそうなので近藤くんと手をつないで歩くことにした。


近藤くんは最初は「無理」と言っていたけど、その割には少し嬉しそうに手をつないでくれた。

汗ばんでいるけどそれは我慢しよう。


SPのおじさん二人は1mほど後ろをついて歩いてくる。


私たちが手を繋いでいても全く気にした様子はないので安全確保だけが仕事で、あとは高校生がイチャイチャしようがどうでもいいのだろう。


まあ、父には報告されてしまうかもしれないが。


「お兄さんには、行くってちゃんと話してくれたんだよね?」


「うん。最初はお前が来ると俺の株が下がるとか断られたんだけど、桜小路さんも一緒だって言ったら軽食の模擬店をやってるから絶対来いって言われた」


東野さんからの情報では近藤兄は昨年までつきあっていた女子がいるはずだが、それはどうなっているのだろう?


生徒会長とかしていたけれど案外チャラい奴なのかもしれない。


まあ彼女がいても男なら誰でも桜小路古都には会いたいかもしれないが。


そんなことを話しながら歩くのだけどナンパがひどい。


男子と手をつないで歩いているというのに模擬店の客引きやら、本格的なチャラ男のナンパやらどんどん声をかけられる。


でも全部無視して歩いていくと、すぐ後ろから怖そうな明らかにSPとわかるおじさんが二人ついてくるので、みんなすぐに諦めておとなしくなる。


最初は邪魔だと思ったけど、すっごい役にたつじゃんボディーガード。



ちょっと歩いていると小さなステージみたいなところでちょっとセクシーな感じの女海賊みたいな衣装を着たお姉さんたちがデモンストレーションの寸劇を始めた。


「これから始まるのは人狼と人間の凄惨な闘い、人狼会議」


「海賊団の中に紛れ込んだ人間に変身して化けた人狼を見つけて処刑する、究極の頭脳ゲーム」


「史上最高の難問、人狼会議は15時から第一体育館のステージで行います」


「入場自由ですので皆さん見に来てくださいね」


究極の頭脳ゲームか、さすがにT大の学園祭っぽいプログラムね。


「ねえ近藤くん、なんだか面白そうだね後で見にいってみようよ」


近藤くんもうれしそうだ。


「うん、僕は人狼ならちょっとは知ってる。 見る前にルールくらいは教えてあげる」


おおっ、人狼ゲームなんて私は初めて聞いたけど近藤くん知ってるのか。


人は見かけによらないな。


「でも究極の頭脳ゲームなんでしょ、ルールとか難しいんじゃないの?」


「ルールはそんなに難しくないよ、ただ必勝法とかあるわけじゃないから相手しだいでは究極の頭脳ケームってなるかも」


「ふうんそうなんだ、必勝法がないっていうところが気に入ったわ、楽しみね」


「ところでお兄さんも参加している模擬店っていうのはどこなの?」


「ええと、たしかこ辺りだと思うんだけど、あっあれかな?」


日除けのテントをはってテーブルを並べて焼きそばとか唐揚げとかを売っている模擬店が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ