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8・王国の剣

アイリとソレイユのいざこざがあり、ソフィーリアは貴族街での買い物をし損ねていた。

王宮からの帰り道、ソフィーリアはその事を思い出しはしたが、すでに辺りは暗くなりつつあった。

今更貴族街に行った所で店は既に閉まっている。

はぁ、とため息をついてソフィーリアは買い物は次の機会にする事にした。

そして、帰宅後。

ソフィーリアが気絶した事を聞いていたソフィーリアの父、ランベール・アンドレアノス・フォン・イヴァノフは玄関でソフィーリアの帰りを待っており、ソフィーリアが馬車から降りるなりすぐに抱き抱えて部屋のベッドに寝かせた。


「お父様、私はもう十五歳です。あのような事を従者とは言え、人前でなさるのはおやめください。恥ずかしいので」


「いやぁ、済まないソフィ。お前が倒れたと聞いて気が気でなかったのだ。娘を心配するのは親として当然だろう? フロランスにも使いの者を向かわせた。エイゼンシッツ伯爵夫人の開く夜会に参加しているが、お前が倒れたと聞けばすぐに帰ってくるだろう」


ランベールはエスターライヒ王国に置いて王国の剣と称されるほどの武功を上げた王国最強の軍人であった。

若き頃より剣と魔法の才能に溢れ、軍の統率もこなす将軍であり、忠義に厚いランベールはエスターライヒ王の覚えもよかった。

公爵という地位にある貴族でありながら、率先して敵兵を倒し、魔物を屠り国を守るその在り方は民からも敬愛されていた。

それゆえにあまりに高慢で他者を見下すその娘、ソフィーリアは何故あの王国の剣からあのような娘が、と陰口を叩かれる始末だった。

ソフィーリアがそうなったのは、ランベールが娘にとてつもなく甘い親バカであった事も一つの要因だろう。


「ソフィーリア、ソレイユ王子の前で倒れ王宮で介抱されたと聞いたが、本当かい?」


「はい、お父様。貴族街でソレイユ様をお見掛けして、お話をしておりましたら、何やら気を失ってしまったようです。おそらく、王立学校への入学前で気を張っていたのがソレイユ様に会った事で気が抜けてしまったのかもしれません。ご心配をおかけして申し訳ありません」


「ふむ、ソレイユ王子はお前の婚約相手、思わず気が抜けてしまうのは仕方ない。だが、ソレイユ王子とて男だ、もしお前に何かしていたのなら……」


「お父様、ソレイユ様はそのような方ではありません。どうかその腰に下げた剣から手をお離し下さい」


ランベールが自宅であっても帯剣しているのはエスターライヒ王よりどのような場所であっても王国の剣としてあれという命令を忠実に守っている為だ。

ソフィーリアからしてみれば慣れた物ではあるのだが、前世の記憶を持つ今のソフィーリアには少々心臓に悪い物でもあった。


「おお、すまんな。ついつい、ハハハ」


「今日は貴族街で入学前の買い物をするはずだったのですが、このような事になってしまい、まだ買い物が終わっていません。また後日買い物に行こうかと思っています」


「そうか、わかった。念の為、侍女をもう少し多く連れていきなさい。また同じ事が起きないとも限らないからね。――で、アイリと言う名に聞き覚えは?」


父の口から唐突にアイリの名前が出た事にソフィーリアはドキリとした。

柔和な笑顔を浮かべていたランベールの顔は真剣な物になっており、空気が少し重くなったのをソフィーリアは感じ取った。


「た、確か聖女のスキルを得た事で貴族の位を頂いた者だと、うかがっていますが」


「うむ、そうだ。聖女のスキルを発現させた事でそのアイリという娘は特別貴族として王立学校に入学する事を許された元平民だ。今は聖女の血を引くオルレ家に養子として迎えられ、貴族としての作法を学んでいる最中だと聞く。だが、その元平民の娘がソレイユ王子の頬を平手で打った、という話があってね」


ほんの数時間前の事が既に父の耳に入っているという事実に驚愕するソフィーリア。

ソレイユ自身は自分の過失だとしてアイリを責めるつもりはないと言っていたが『他の者がもしあの場を見ていたなら、いくらソレイユ様のお言葉があったとはいえ、その忠節から何かしらの行動を起こす可能性があります』とはソフィーリアの言だ。

まさかそれに当てはまるのが自分の父だとは思ってもいなかったソフィーリアは内心焦りまくっていた。


(やべぇ、これどうすんだ。お父様は王国の剣、王家に対する忠誠は国随一だ。国を救う聖女とは言え、その忠節からアイリを切り捨ててもおかしくはない、どうにかしないと!!)


「お父様、それが事実だとしたらアイリに何をするおつもりですか?」


「そうだね、もちろん王国の剣として王家に仇成す者にはそれ相応の報いを与えなければならない。それが例え聖女であったとしてもだ」


神妙な顔つきでランベールはそう言った。

恐らく、アイリが聖女であり、国を救う宿命を背負っていたとしても、ランベールは確実にアイリにその剣を振るうだろう。

もし前世を思い出さずにいたなら、恐らくソフィーリアはそんな事気にも留めなかった。

ソレイユを平手打ちした無礼な元平民一人くらい切った所で何の問題もないと、翌日にはその存在を忘れていてもおかしくはない。

だが、今のソフィーリアにとってアイリは自身の処刑、斬首される未来を変えられる唯一無二の存在だ。

それだけではない思いにはまだ気づけずにいるソフィーリアはキュッと手を硬く握り、ベッドから身を起こし、ランベールの眼を見て自分の想いを語る。


「お父様。たとえお父様と言えど、もしアイリに手を出したら……私は絶対に貴方を許しません。あの子は私にとって大切な存在なんです、どうかソレイユ王子のお言葉に耳を傾け、今回だけはその王家への忠節をアイリへの怒りを鎮めてください、お願いします」

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