田中三雄が魔王と戦って勝つまでの話。
三雄は魔王城に到着し入り口を探した。
城門はアイスランスの流れ弾で破壊していたので魔物を蹴散らしながら中に入ったが城の扉が開かない。
「だぁっ!面倒臭い!俺はゲームでもダンジョン制覇とか苦手なんだよ!」
ここで三雄はロールプレイングゲームの知識できっと城の裏側やどこかに開門のスイッチがある事を考えたが面倒臭さから破壊を選択した。
「アーン…ローック!」と言いながら扉を殴って次々と中に入っていく三雄はルークス達が来ていれば扉が開いている事にも気づかずに「くっそ!ルークス達はさらに奥か!?待ってろよ!」と言って部屋という部屋を破壊し、魔王を探索していた。
結局城の全ての階を踏破し扉を破壊した三雄だったが魔王はおろかルークス達も見つからない。
「地下か!確か昔創一が面白いからやってみろって持ってきたゲームでも魔王は玉座の裏に隠し階段があってその先に居たな!でも玉座…あったかな?」
三雄はブツクサいいながら襲いかかってくる魔物の群れを蹴散らし進むと一階に見ようによっては玉座に見える椅子があったのでその後ろを踏み抜くと階段が出てきた。
階段の先は真っ暗で三雄は一瞬躊躇したが「んー…、暗いところはなぁ。夜目の訓練はしたけどどうしても反応が遅れるんだよなぁ。もう天井をぶち抜いて陽の光でも入れるかな」と言いながら、さっさと拳を天に向けて「オーラバズー…」と言ったところで「崩落するからやめなさい」と言って女が現れた。
「女の人?」
「魔王様の四天王の1人ブレスよ。魔王様があなたに好き勝手させると城が滅茶苦茶になるからって私を派遣したわ」
三雄はさっさと手を下ろして「あ、そうなんだ」と言うとブレスは「その非常識さは何?魔王様は礼儀に則ってもう1人の勇者が水晶の谷を攻略したから地下で待っているのよ」と言って呆れる。
「あれ?じゃあルークス達はまだ来てないの?」
「ええ、まだよ」
この言葉に三雄は「ええぇぇぇ…、早とちりかよ!?」と言って肩を落とす。
「てかさぁ、ブレスだっけ?話ができる魔物も居るんだな」
「ええ、魔王様が特別に生み出してくれたからよ。私達以外の魔物には心なんてないわ、ただ本能に従って行動するのよ」
「そうなんだ。魔王の所って遠いの?」
「地下3階よ。そのくらいが丁度良いんですって」
「じゃあ話しながら歩こうぜ」
「構わないわ」
三雄は歩きながらすぐに「なあ、ホルタウロスって美味いよな。ブレスはキンカー派だったりする?後はあのタコ!あれ美味かったよ」と話しかけるとブレスは呆れながら「…あなた魔物相手に魔物の味の話をするの?」と言ってきた。
「え?食べないの?」
「私達は魔王様のお力で生きるから食事はしないわ」
これには三雄は困った顔で「げ…話題がなくなった」と言った。
「ふふ。静かなのは苦手?」
「苦手だな。俺の住んでた村は皆賑やかだからな」
「あらそう。魔王様は寡黙な方だから私達は静かに慣れたわね」
「そっか」
この後も三雄はそれとなく何故人を襲うのかと聞き、それは本能で目覚めた時からそうなのだと言われてしまう。
ただ魔王の指示である程度の抑制と指示出しは可能だと言われて三雄は「じゃあ魔王達がここから出なかったり人間が近寄らなければ襲うとかしなくてもよくなるのな」と喜んでいた。
「私達は見ていたけど、あなた嬉々として魔物達を倒してたじゃない」
「それは襲いかかってくるからだって。それが無ければ俺は故郷でのんびりと皆で生きるんだよ」
話をしていればあっという間に地下三階に着く。道は迷路状だったので「帰った後に直してくれよ」と言ってオーラで出した棒を使って歩いた後に線を引いていた。
帰れるつもりかとブレスは呆れたが「え?さっさと魔王を倒して悪さをしませんって言わせたら帰るよ。帰りにタコ捕まえて帰って村の皆で食べるんだ」と三雄は笑いながら言った。
シンメトリーの部屋、真っ暗で目が悪くなりそうな部屋に蝋燭の炎がゆらめいている。
「ご苦労だったなブレス」
この声が魔王だろう。
光源のせいで顔はよく見えない。
真ん中に座っていた魔王は立ち上がると「勇者よ、さあ私と戦いたければ四天王を倒すといい!」と言い、牛人型のホルタウロスを彷彿させる牛の魔物が前に出てくる。
よく見ると牛は被り物でブレスのような人間型だった。
「我が名はアンクレ!貴様のようなチビ助は叩き潰してくれるわ!」
そう言ったアンクレは見せ場もなく三雄に叩き潰される。
「ぐぇ…」
「まず1人ー。こういう時は一番手って噛ませだよねー。さあ次はだれ?」
三雄はそう言って笑ったがアンクレは四天王最強。
残りの3人は魔物なのに冷や汗が止まらなくなる。
「よい、アンクレは四天王最強。それを物ともせずに居るとは勇者よ私と戦う資格はあるようだな」
「え?最強なの?」
進んできた魔王が段々と姿を見せるとそれは40代の黒目黒髪の男性であった。
「黒目黒髪…日本人?」
「お前もか?だがお前は黒目黒髪ではないな」
「俺は転生者。お前は俺の両親のように転移者か…ん?何で転移者が魔王なんだよ。転移者は魔王を倒しに向かって討死したんじゃないのか!?」
「まあ良い、戦いながら話すとしよう。ブレス、ネクレ、バングル、アンクレを連れて下がれ、勇者の相手は私にしか出来ない。そして私と勇者の戦いの余波でお前達は消し飛ぶだろう」
この言葉に四天王はさっさと逃げ出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うぉぉぉぉぉっ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
三雄と魔王の戦いは一撃で地下室の壁が吹き飛んだ。
どちらも退かないクロスカウンターでお互い苦痛に顔を歪める。
「くっ…いってぇ」
「がっ…バトラバトルズに来てここまでのダメージは魔王戦以来だな」
そのまま魔王は右手を前に出し「ヘルファイヤー!」と言う。
漆黒の炎が見えた瞬間に三雄も「舐めんな!オーラファイヤー!」と言って火を放って相殺してしまうと今度は衝撃で上の城が崩落してきて魔王と三雄は生き埋めになる。
「ぐえ…苦し」
「くぅ…」
2人同時に瓦礫から飛び出すと外に出て殴り合いが始まる。
「お前!魔王戦って言ったな!魔王と戦ったんだな!?」
「その通り!私は勇者としてバトラバトルズに転移をして魔物や魔王と戦った!それが女神の願いだったからだ!」
「じゃあ何で魔王なんてやってんだよ!」
「世界がそう望んだからだ!」
話しながら三雄は戦っている。
本気で殴り殴られている。
その間も魔王は三雄の質問に答えていく。
「何でだよ!勇者は二千の魔物を蹴散らして勇者の装備も辞退して単身魔王城に乗り込んだんだろ!?」
「魔王城?そんなものはない。元々ここはあの王達が住んでいて、自ら汚した土地を見捨てて中央大陸に移動しただけだ!それに二千の魔物を蹴散らし?ああ!蹴散らしたさ!それで近くにいた連中から化け物扱いをされて石を投げられ迫害を受けた!
勇者の装備を辞退?女神の願いに従って城に行ったらバトラバトルズの人間でない者には渡せないと言われ身一つで魔王討伐に行かされた!勝てたら人間扱いをしてやるとまで言われてな!」
三雄は愕然としつつも何となく理解が出来た。
あの王達ならやる。
そう思えた。
二千の魔物を蹴散らして恐れられるのもネツトの皆は褒めるし理解もするがあの女神ですら三雄の戦いには引いていた。
三雄は引かれている事に気付いていたが気にしないようにした。そして目の前の勇者は日本人の姿だから倍辛かったかも知れない。
それは勇者の装備にしてもそうだろう。
「わかる!」
「何!?」
「俺も二千の魔物を蹴散らしたら女神に引かれた!城の奴らに故郷を馬鹿にされて最初は謝られもしなかった!」
「それなのになぜ来た?」
「俺が勇者で魔王のお前が魔物を放つからだろ!だから魔物を制御してこの地から出ないようにしたら終われるだろ!改心しろって!」
「出来るか!魔王との約束を私は果たす!喰らえ!大魔法アトミック・ショックウェイブ!」
「馬鹿!?名前がヤバそう!オーラアーマー!オーラシールド!フルパワー!」
目の前に生まれた高温の光を見た三雄がフルパワーで防ぎ切ると目の前の魔王は肩で息をしている。
すかさず「デストロイキック!」と言って魔王を蹴り抜く。
蹴り飛ばされた魔王は立ち上がる事なく倒れている。
三雄は反撃に気をつけながら近づいて「危ねえ、修行しまくって良かった。なあ、魔王と何があってお前が魔王をしてるんだよ?」と声をかけた。
「魔物が世界の澱なのは知っているか?」
「前に聞いた気がする。だからバトラバトルズは空気も水も綺麗なんだよな」
「ああ、魔王は人々の心の澱が形を成していた。生まれた魔王を女神が何とかしてくれと言った理由はこの地に来てすぐにわかった。
魔王は強大な力を持つ赤子のような存在だった。赤子のような魔王を倒す事は躊躇したが、成長すれば手に負えなくなる事は理解していた、倒さねば世界が滅びると思って戦ったが魔王は何故「殺されるのかわからない」「怖い」と言って必死にもがいた。そして戦っている中で魔王と私の違いがわからなくなった」
「違い?」
「そうだ。過度の力を持ち虐げられた。そして魔王が強いと言う事は人の心が汚れていると言う事だ。かつて女神に言われた。この世界を救いこの世界を変えてくれと…たから私は魔王を殺さずに取り込んで新たな魔王となった。この力で私は世直しをする」
「ちっ、倒したくないんだよ!それは後だ!とりあえずお前は戦いをやめて一度魔物を引っ込めろよ!」
「こ…こと…わる…」
魔王が必死に立ちあがろうとする。
三雄は嫌な気持ちになりながらトドメを刺す気になり「オーラソード…」と言って剣を精製して魔王の方へと向かう。
四天王達も魔王を助けたいが魔王に勝てる三雄にはどう逆立ちをしても勝ち目はない。
そんな時、勇者ルークス達が追いついてきた。
「無事かい!?」
「城がねえ」
「あれをあの子が?」
「倒れているのは魔王?黒髪?…人間?」
「サード!魔王!」
ルークスと共に女神が現れた事で三雄の手は止まり「女神様…、知ってたんだな?」と言う。
「…はい」
女神を見て魔王は「女神…久しいな…。俺はこの世界でも蔑まれ虐げられた…魔王の気持ちがよくわかった。だから俺が魔王になった…。女神の言葉に従い、世界を救い…世界を変える」と声をかけ、その後ろのルークスをみて「…あれは保険か?」と言う。
「はい、ルークスもサードもあなたが魔王を倒せなかった時の次の勇者です」
「日本人か?」
「はい」
ここで魔王はルークスを見て「僥倖だ」と言うと手をかざして「我が名は幸坂 聖!勇者として呼びかける!我が装備よ我が元に来い!」と言うとルークスの身体に纏われていた勇者の装備が光を放ち魔王に向けて動いていく。
「何!?」
「僕の装備が!?」
光が目の前に集まった魔王は「…お前の装備ではない。私はかつて城に赴き剣を持ち鎧に袖を通した。その時に確かに私の装備となった。だが黒目黒髪の私を差別した妃達に剥奪され魔王討伐に向かわされた」と言った後で女神を見て「女神よ、装備の代替わりの条件を言うがいい」と続けた。
「…勇者の死、もしくは権利の破棄です」
「私は破棄をした覚えはない。よってこの剣も鎧も私の元に来た。そもそもお前はこの装備の力を引き出せていない」
勇者の装備を身に纏った魔王は立ち上がると傷がすぐに消える。
魔王は説明するように「自動回復」と言う。
そして剣を構えた時、三雄の背中に冷たいものが走る。
先程の大魔法を防いだ時と同じ防御手段に出たが剣はオーラアーマーとオーラシールドを貫いて三雄の腕と肩に一撃が入ってしまい鮮血が舞う。
「がぁっ!?破られた!?」
「硬いな…まさか私の一撃を防ぐのか?お前は危険だ…ここで確実に殺す」
再度振るわれた剣。
だがそれはルークスの身体に刺さっていた。
ルークスは三雄を押し飛ばして代わりに剣を受けていた。
まだ良かった事は押し飛ばした事で狙いが逸れて手足も切断されずに済んだ事だ。
だが致命傷といっても過言ではない怪我。
三雄は即座に魔王の顔面にオーラファイアを放つ。
手で払おうとも払い切れない炎に魔王が困惑している間に「一度逃げんぞ!」と声をかけるとルークスを抱きかかえて「バカ!あんな危険なやつの前に生身で出るなんて無茶苦茶だ!」と声をかけると「…僕も…勇者で…年上で…同じ日本人だからね…。僕の昔の名は藤見 通…よろしくね」と言って意識を失う。
後ろをついてくるダイヴに「オッチャン!ルークス抱えて!」と言ってルークスを渡し、レグオに「アンちゃん!前は俺が蹴散らすから後ろを見て!」と言い、最後にフロティアに「姉ちゃんはとにかく回復!」と指示を出した。
戦いの場に残った女神は勇者の装備に身を纏った魔王を見る。
本来ならばこの姿で、今ほどではないが圧倒的な力で魔王を討伐し、世界を変える力を持つ勇者。
皮肉にも名前に幸せと聖の字を持つ不遇の男。
悲しいくらい勇者の装備が放つエメラルドグリーンの光が眩しい。
オーラファイアがようやく消えた魔王が「女神よ」と語り掛ける。
女神は恭しい姿勢で「はい」と返事を返す。
「言わなかったのだな」
「言えませんでした」
「バトラバトルズをどう思う?」
「私の生み出した大切な世界です」
「わかっている。魔物がいるから約18年経っても世界は綺麗だ。だが人心は魔王とひとつになり見えるようになったが中央大陸、城付近からは汚れた気が漂ってきて我が力になっている」
それは女神にも見えていて心を痛めていた。
「それでも…、愛すべき世界です」女神はそう言うとその場を立ち去る。
魔王は女神の背中に向けて「マイルールに則らせて貰う」とだけ告げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三雄はルークスを連れてネツトへと帰還した。
村長や創一達には簡単に経緯を伝えて双葉にルークスの治療を任せる。
「危ないわよ。私の治療でギリギリなのよ?何これ?」
休憩に来た双葉に女神が「申し訳ありませんツイン」と謝る。
「勇者に与えた女神の剣…勇者の剣とも呼ぶらしいけどあれで斬られると治りが悪いんだって、それのせいでフロティアの姉ちゃんも回復止めると血が出てくるっから倒れる寸前まで無理してくれたんだよ」
この説明にフロティアは「それを言えばサード君のオーラヒールのおかげですよ」と言って少し申し訳なさそうに笑うとダイヴとレグオも「本当だ。よくあの小さな帆舟でこんなに短期間に帰ってこれたもんだ」「あれだけ魔法を使っても倒れないのも凄いよ」と感謝を伝えていた。
それは「俺の前で倒れる仲間は許さない!」と決めポーズの三雄が言うなりフロティアが持ち直すまでオーラヒールと名付けたヒールを使い、港町で小さな帆船を返さないかもと言う前提で借り受けると「アンちゃん!風魔法でとにかく船を出そう!治すアテならあるから!俺の村に帰るんだ!」と言って船を出す。
そしてレグオとフロティアが同時に力尽きても三雄はオーラヒールとウインドブラストで舟を中央大陸まで進めていた。
「とりあえず傷は塞がったわ。で?勇者の剣で斬られると治りが悪いって?じゃあこの子は勇者なのに勇者の剣で斬られたと」
「とりあえず村長達に報告するからそこで話させてよ」
三雄の言葉でアイン達が集まるともう一度一から説明をした。
三雄は魔王と同じ髪色をしたアインとツイン、両親について隠す事なく異世界からの転移者だと説明をした。
魔王はかつての魔王を取り込んだ勇者の1人だった事、勇者は迫害され続けて世界からハミ出したと思っている事、そして勇者の装備をルークスから奪い取ってしまった事を説明する。
「ふーん…。勇者の装備がなければサードが勝てていたけど」
「勇者の装備を身に付けた魔王相手だと攻撃は今ひとつの防御も突破されると」
「まあ俺の事は後回しでいいよ。でも修行して」
「それはやるわ」
「任せろ」
「俺はそれよりも女神様の事が気になる。女神様、女神様のやる事を魔王が真似するって話を教えてよ」
女神は悲し気に「…はい。彼に与えた力は皆さんと同じ勇者のものです。なので一応言えばルークスも鍛えれば同じくらいまでは強くなります」と話し始めた。
「ただ、彼は魔王を取り込みました。魔王の力の源は世界中の汚れた心です。今も格差が広がり、人々の心に不満が生まれれば魔王の力になります。その力は私には敵わないものの、私に近いものは使えます」
「だから勇者召喚を新たに行えば魔王が真似して日本人を向こうから拾ってくる恐れがあるんだな」
「ええ、それに彼はマイルールを用意しています」
「マイルール?」
「目には目を、歯には歯を、やられたらやり返す…」
「だから女神様は何もしなかったの?」
「はい。私が仮に魔王の居城に勇者たちの転移を行えば魔王は人間の住処に魔物を送り込んだでしょう」
ここで三雄はある事に気付いた。
「あれ?じゃあ俺達が魔王城に攻め込んだから…」
「魔王は城を目指すかも知れません」
「ちっ、何日で着くかな?」
「後7日くらいでしょうか?」
「アイン!ツインも3日だけしごいてくれよ!3日で魔王のやつに追いつく!」
「はぁ……、やらないよりはマシよね」
「久々…って言っても2週間ぶりなんだよな、やるか…」
「ってか「お父さんとお母さん」でしょ!」
思い切り振り下ろされた拳骨に三雄は「痛え!」と言って涙目になっていた。
三雄の訓練はダイヴ達は目を見開いてしまい何も言えなくなっていた。
魔王戦を彷彿させる死闘。
そして村人達からのしごき、三雄は激戦の後でも眠らずに母親の治療で怪我と疲労を無かったことにして更に訓練に勤しむと4日目の朝には「ちょっと城まで行って城を守ってくるよ。あの連中はムカつくけど死んでいい連中じゃないんだ。女神様はルークスのとこに居てあげてよ、後は勇者装備に勝つ方法を考えといて」と言ってネツトを飛び出して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三雄は3日で城に着く。ごちゃごちゃとした前置きは無視して今すぐ逃げろと言ったがダメだった。
「何があったか説明をしなさい」と言った姫の高圧的な態度に苛立ちながら三雄は嘘も方便と思い、「アンタ達が勇者の装備を与えなかった勇者幸坂が、勇者の装備があれば魔王に勝てたのに渡さなかったせいで魔王と相打ちになった」と始める。
姫が慌てて妃を見て「あ…あれはお母様が!」と言えば妃も慌てて「バトラバトルズの人間でもないものが勇者の装備を身に纏える筈もありません!」と返す。
「それは勝手にやっててよ。とりあえず魔王は相打ちになりながら幸坂の事を取り込んだ。今の魔王は幸坂を取り込んだ魔王だよ。魔王は幸坂の身体を使っているから勇者の技なんかも持っていて、ルークスから装備を奪い取った。これがどう言うことかわかる?」
「…魔王の手に勇者の装備が?」
「そうだよ。いい線まで行っていたのに後一歩で勇者の装備が奪われた途端に逆転されてルークスは瀕死、今はネツトで治療を受けている」
「貴方はなぜ無傷なのですか!?逃げてきたのですか!?」
「俺も怪我を負ったが瀕死じゃなかったから治したんだよ。とりあえず今の女神様は勇者の装備に対抗する方法を思案中だから来られない」
「何を世迷言を言います!女神様からもう一度勇者の装備を授かれば良いでしょう!」
「それが出来ねえから困ってんですよ。簡単に言うと、魔王は勇者幸坂の身体を使っているから勇者と魔王のミックスで女神様に準じた力を持ってしまった。今は女神様の配慮でなんとかなってるんです。魔王はまっさらな状態だけどここで女神様が武器を作る能力なんかを使ったら魔王がそれを覚えて四天王に持たせたらそれこそ脅威だ。瞬間移動や超回復なんかもそれ。だから女神様は何も出来ませーん」
段々と言葉が無礼になりつつある三雄は手でバツ印をやって諦めた顔をする。
「そんな!?それなら勇者なのだから玉砕覚悟で挑みなさい!」
姫のヒステリーに三雄は「それで俺死んだらこの世界はおしまいだよ?」と言うが姫は頭を振り乱して「なんとかしなさい!」しか言わない。
三雄は面倒臭さから見捨てちゃおうかなと思ったところで兵士が中に入って来て「あ…あの…勇者様がお見えです」と言った。
「勇者?ルークスは瀕死で動けないぞ?何言ってんだよ!」
「いえ!ですがあの装備は間違いなく勇者の剣と鎧でした!」
三雄は一瞬で背筋が凍り、冷や汗が吹き出した。
勇者の装備を身に纏った者。
それはすなわち魔王だと言うことになる。
「バカや…」
三雄がそう言った時には幸坂は謁見の間に現れていた。
「久しぶりだな」と言って中に入ってきた魔王は三雄を見て「機転と気遣いには感謝する」と小さく言うと姫を見て「もう26かな?かつては十にもならぬ身で差別してくれたな…不思議か?この身体の持ち主の記憶を見させて貰った」と言った。
姫はこの一言で幸坂の記憶がある事を察して「な…、本当に魔王が勇者の身体を…」と言い、妃も「なんと穢らわしい…」と続ける。
「穢らわしい…か。勇者よ、魔王の発生条件は教えていないのか?」
「…言っても無駄だろ」
三雄は臨戦体制の中、魔王の言葉に答える。
魔王は三雄に少し親近感が湧いていて悪い気はしていない。
それは戦いの場で言われた自分も周りから引かれていた事や、先ほど聞こえていた悪事を魔王のせいにして幸坂 聖という人間は勇者の装備を与えなかったために悪に取り込まれたと説明した事から来ていた。
妃達は魔王の発生条件という言葉に興味深く魔王を見ている。
「教えてやろう。魔物は世界の汚れが形取る。海の魔物が増えた時は海に物を捨てすぎて汚れた証拠、そして魔王は人の心の汚さが集まって形取る。今お前達の誰のせいにするかと言うくだらない考えすら我が力になっている!」
この言葉に王達は息を呑むのが三雄にはわかった。
「さて、この身体のマイルールを果たしに来た。この身体の…勇者のマイルールはやられたらやり返す事だ。お前達は勇者を送りつけてお前らが汚したからと捨てて行った城を跡形もなく破壊して行った。その仕返しだ!」
右手をかざす魔王を見て妃が「何を言います!攻め込んだのはそこの勇者!ならば勇者の逃げ帰った故郷を破壊するのが道理!」と声を張る。
呆れた顔の魔王は「国民を見捨てて国なのか?」と言った後で「わかっている。コイツの故郷には四天王を向かわせた。今頃村は無くなっているだろう」と言って三雄に向けて不敵に笑った。
だが三雄は慌てる素振りも怒り狂う素振りもない。
訝しむ魔王が「勇者よ?何故怒らない?何故焦らない。お前の動きは見ていた。走力も何も凄いが本気で走っても故郷に着くのに1日はかかるだろう?」と聞くと「まあ起きてもいない事で怒らない主義なんだよ。それに村の皆なら逃げ出して無事かも知れないしな、家なんてまた建てればいい」と三雄も返す。
「敵わんな」
「そうか?とりあえずここ壊すのやめて決着をつけようぜ」
2人の間で緊張感が高まる。
「よく言う、僅差で私の方が強いのだぞ?」
「それはこの前の話だろ?」
「この前ならば勇者達が居たから連携さえ組めればなんとかなったかも知れないがな」
「なんとかねぇ…、なんとかするには勇者装備を何とかしないとキツいよな」
「それでもやるのか?」
「やるさ。お前に人は殺させない」
「殺すさ!これが乗っ取ったこの身体の願い!やられた事をやり返す!この国の連中が迫害を行ったのだから、私がこの連中を世界から追い出してみせる!食らうがいい!アトミック・ショックウェイブ!」
「ちっ!いきなりかよ!オーラシールド2!」
魔王の手の先で光を放つ大魔法に向けてオーラの盾で発動を防ぐ三雄は王達に向けて「抑えてられんのは少しだ!早く逃げろ!」と言うと兵士達が慌てて王達を逃す。
「…この力、強化したのか?この短期間でか!?」
「鍛えたさ、でも皆が逃げたならいいや、オーラアーマー!シールド解除!」
魔王の魔法を抑えていたシールドを外すと魔法はどんどんと大きくなっていき城を吹き飛ばしてしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
外では逃げ切っていた姫達が惨状を見て「勇者!防ぎきれないとは何事です!」と声を荒げる。そして間髪入れずに三雄は「うっせー!じゃあお前が防いで見せろ!出来ねーなら黙ってろ!」と言い返す。
こうして始まる殴り合い。
変わらずに殴り合いながら「お前は面白いな勇者!」と魔王が言い、三雄は「何がだよ!普通だろ!」と言い返す。
「今の態度だ!何故王達に媚びへつらわない?」
「んなもん!オーラがねえからだよ!偉そうで人の住んでる場所を悪く言うだけで何か敬いたくなるような事してねえからオーラがねえんだよ!俺のネツトの村長なんて俺が勇者だって知ってから村一丸で俺を勇者に育ててくれた!旅で困らないように持たせる金を作るために事業を始めて大成功してる!村の皆も死を気にせずに働いてくれた!だから村の皆にはオーラがあんだよ!俺が敬うのは俺の村の皆だ!」
しばらく殴り合うがやはり勇者の鎧に付与された超回復の恩恵で魔王の傷は治ってしまう。
「くっそ、結局その鎧だよな」
「…日を改めてやろう」
魔王は拳を下ろして大人しくなる。
「は?」
「目的は果たした。村へと帰るがいい。家族が心配だろう?」
「良いのかよ、次は勝つぜ?」
「ふっ、まだ私の方が強い」
魔王が本格的に殺気を消した時、三雄は「じゃあ魔王も村まで一緒に行こうぜ」と誘った。
「…何を言う?」
「別に村が無事だったら四天王連れて帰りなよ。アイツら海を越えられないだろ?」
「…確かに。いいのか?」
「良いって、その代わり人殺し禁止な」
「…お前が無闇に魔物を殺さなければな」
「それは魔物が人を襲わなければだよ」
「ならば私も人が無闇に魔物を襲わなければ見逃すとしよう」
話がまとまりかけた所で待ったをかけたのは姫だった。
「何をやっています!勇者!魔王を倒しなさい!」
「うっせーな、話がまとまりかけたんだから邪魔すんなって、決着は後日だよ。とりあえずここで戦って余波で城下町が滅んでも困るだろ?だからネツトまで帰るから戦うならそっちだよ」
三雄の反論に顔を歪めて怒鳴る姫に魔王が「心地よいぞ姫よ」と言う。
何のことだかわからない姫に三雄が「あー、それも魔王の力になるのか」と言う。
「ああ、負の感情が私の力だ」
「だってさ。とりあえず俺たち帰るから」
ここで妃がムキになって「…まさか!茶番劇だったの!?本気で戦ってないのでは!」と言い出す。
兵士からすれば城が跡形もなく吹き飛んで、殴り合いの余波で瓦礫すら粉々に消し飛んでいるのに何を言うのかという気持ちになっているが姫と2人で「きっとそうに違いない!」「勇者も魔王に取り込まれた」と燃え上がっていて話にならない。
三雄は辟易とした顔で「うっわ…クソウゼェ」と言った後で「じゃあカオロだっけ、代表で魔王に殴られてよ」と声をかけた。
まだ2週間しか経っておらず坊主頭のカオロは「な…何!?」と言って慌てている。
「魔王、殺したら魔王の負け、殺さないようにアイツぶん殴ってよ」
「あんな脆弱な存在を殴れと言うのか?無理だ」
「何言ってんだよ。無理ってのは嘘つきの言葉だぞ。やれば出来る!そう言いながら殴れ」
「触れるではダメか?殴れば必ず殺してしまう」
「うーん…。まあ仕方ないか」
この場にカオロの意思はない。
魔王の強さを証明する為だけのかませ犬でしかない。
半分気絶しながら立ち尽くすカオロの前に魔王が歩み寄ると放つ気のようなものだけでカオロは吹き飛んでゴロゴロと転がる。
三雄は転がっていくカオロを見て「ファール誘う選手みたい」と呆れると魔王も「まったくだな」と言った。
「あれ?魔王サッカー知ってんの?」
「この身体に記憶はある」
「俺、世界杯の時のにわかファンだから応援チームとか無いんだよ。魔王は?」
「無いな、丁度人生の絶頂時に観たから記憶に残っていた」
「へえ、まあいいや。じゃあカオロに一発入れたら帰ろうぜ」
「わかった」
カオロは今の一撃で怯え切っていて首を横に振り続けるが魔王は気にせずに近寄って手のひらで触れるとカオロは「ぐっふぅぅぅっ」と声を出して吹き飛んで行った。
三雄は悶絶しているカオロを見て「わざとらしいけどまあいいや。じゃあ、今度俺が来たら魔王を倒したって証明で魔王が来たら俺が倒されたってことだから。じゃ」と言って帰って行く。
三雄は魔王を誘ってわざと城下町を歩きながら「街の皆さんこんにちは、我々は勇者サードと魔王に身体を乗っ取られたかつての勇者幸坂、現魔王です。街の皆さんには危害は加えないように言いつけてあるのでご安心ください」と始めて、魔王の誕生は人の心の闇がある程度溜まった結果だと説明をして妬みなんかの暗い感情はやめてハートフルピースフルな世界にしましょうと説明をして魔物の発生も土壌汚染や水質汚染が原因だと説明して「ゴミを川に流さない、海に捨てない、毒物を地中に隠さない!それだけで魔物が減りますからね!」と言って歩き、最後には「この俺!勇者サードと今は大怪我を負った勇者ルークスが力を合わせて勇者幸坂を助け出します!だから大船に乗ったつもりでいてください!後は戦闘の余波で城が無くなったのでムカつく姫達を泊まらせてあげてくださいね」と言って城下町を後にした。
「何だあのスピーチは」
「えー、簡単だよ。魔王って悪いやつじゃ無いし、最悪今のままでも幸坂が力を取り戻した!って事にすれば共存可能だし」
「何を言う、お前の村を滅ぼしているのだぞ?」
「魔王が滅ぼしたのか?」
「いや、四天王だ」
「なら村の奴らが負けるわけないだろ?死ななきゃ負けじゃない」
「…最悪は想定しておくものだ」
「そうだな、魔王の最悪は四天王がネツトの村人になってるかもな」
三雄は笑いながらネツトへ向けて歩き始めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三雄が城に向かってすぐに監視から四天王が現れた事を告げられる。
村人達はすぐに村の横に作った「村長の考えた最強の魔王城」に立て篭もる。村を壊されては復興が面倒臭いと言う事で村長の考えた魔王城から顔を出して「村人達は全員この城の中だ!かかってこい!」と言う。
ブレス、ネクレ、バングル、アンクレの四天王は鼻で笑いながら「勇者でもない人間が四天王に勝てると思ったか!」と言って攻め込んでくる。
まずは骸骨剣士風のバングルが入って一歩目の罠にかかって飛んできた丸太に吹き飛ばされる。
バングルの骸骨剣士は骨モチーフの鎧なだけで骨でもなければ鎧のモチーフも本物の骨ではない。魔王が用意していたヘルチタニウムを骨風に加工したものだった。
だがそのモチーフが一瞬でバラバラになって中から人の姿のバングルが出てくる。
「な…なに!?」
「バカな、バングルの鎧を砕く!?」
まさかの事態に驚くアンクレとネクレ。
「うはははは!これぞサードのオーラを纏わせたオーラ丸太!参ったか魔王の手下ども!」
わざわざ村長が顔を出して高笑いをして引っ込むとネクレが青筋を立てて「おのれ人間め」と言って前に出る。
ネクレはフードを被った魔法使い風の出立で「こんな城、我が大魔法で吹き飛ばしてくれる!魔王様程ではないがくらえ!メルトボルケーノ!」と言って城に火の魔法を放つ。
「ふっ、焼け焦げながら四天王を愚弄した事を後か…こここここ…え?」
城は焦げ目ひとつ付いていない。
「うはははは!笑止!これぞサードのオーラを纏わせたオーラキャッスル!サードには魔王城は強固で攻撃など効かないと教える為に作った!この城は魔法攻撃も物理攻撃も効かん!ズルなどせずに諦めて最深部の魔王の間を目指すが良い!」
ネクレはワナワナと震えて涙目で次々に魔法を放つがどれも通用しない。
「なんだよオーラって…、オーラ知らねえよ」
ネクレは最後には泣いていてブレスが慰めていた。
その後は悲惨の一言だった。
複雑な迷宮をひたすら歩かされながら三雄のオーラを纏わせたオーラ油による火あぶり、スライムを絞って溜めた酸にオーラを纏わせたオーラ酸、再びのオーラ丸太による波状攻撃などで四天王はほぼ壊滅状態の死屍累々でなんとか魔王の間の手前まできた。
手前で待ち構えていたのはダイヴ、レグオ、フロティアで「よく来たな悪の四天王!」と言う。
これには思わずブレスが「どっちが悪よ!」と声を張る。
「うはははは!この城はサードに魔王城攻略の為に用意した城!本来ならばお前達もこうしてサードの装備をはいで弱り切った所に名乗り出て殺す気であっただろう!立場が逆転しただけで悪とは笑止!!」
村長の発言に「魔王様はそんな真似しなかったわよ!」と声を荒げるブレス。
そんなブレスは胸と股を手で押さえている。
残りの四天王は男なので股を押さえながら「しかも勇者は壁を壊し扉を殴り開けて無理矢理攻め込んできたぞ!」と言う。
「それはそれ!」
村長は開き直ると顔を引っ込める。
一触即発なのだがどうしても締まらない。
それは主に素っ裸にひん剥かれた四天王のせいだった。
「ターイム!」
そう言って現れたのは双葉で、双葉を見たアンクレは「魔王様と同じ髪色に目の色」と驚く。
「同郷だからね。とりあえずフルチンなんか見たくないからコレを腰に巻きなさい!そこのあなたは胸も隠す!」
そう言って出てきた毛皮を身に纏う四天王。
原始人に見えなくもないがまだマシになる。
双葉が「それ、あったかいわよね」と言うとバングルが「うむ…助かる」と言う。
「霜降り狼の毛皮よ。もしかしてトロマンモスの方が良かった?トロマンモスはもう食べちゃったし毛皮は敷物にしたからゴメンね」
「…お前、あの勇者の親か?」
「あら?何でわかるの?」
「わかるわよ。貴方の息子は私にホルタウロスの味やキンカーの味について話しかけてきたのよ」
「美味しいわよねホルタウロス」
「そうじゃないでしょ!魔物に魔物の味を聞くの?」
「だって食べたら美味しいんだもの。食べず嫌いはダメよ?」
「…貴方だって人間は食べないでしょ?」
この問いに双葉はしみじみと「人間って見た目からして美味しそうじゃないし、言葉話すし意思疎通できるからねぇ」と言う。
「…それなの?」
「そうよ。じゃあ私は奥に引っ込むからね」
双葉は手を振りながらマイペースに奥の部屋に移動すると仕切り直した四天王がダイヴ達に襲い掛かる。
ダイヴ達は劣勢の一言だった。
恐らく能力値を十段階で表すと四天王は10でダイヴ達は9。
これまでのトラップのおかげで四天王は防具が毛皮だけなのと弱っているので何とかなっているがそれでも3対4に加え、フロティアが補助回復専門で手数が足りずにジリ貧になっている。
「ルークスが居なくても俺たちはやる!」
「そうです!必ず四天王を退けます!」
「ダイヴさん!回復を!」
「愚か者め!勇者がいてこその勇者の仲間達が我々に敵うわけあるまい!」
「お前達を殺した後は勇者だ!」
「いや!その前にあのことごとく高笑いをしてきたジジイだ!」
この言葉に魔王の間(避難所)では村長が「ひぃぃぃぃっ」と怯えた声を放つ。
実際はオーラの力を浴びた扉なので籠城すればなんとでもなるがそれでも蓄えもそこそこなので長期戦には向かない。
この言葉にようやく寝たきりだが意識は戻ったルークスが「くっ…、ぼくが立ち上がらないと」と言って身体を震わせながら立とうとする。
この姿に創一が「バカ、傷口開くから寝てろ!」と声をかけて双葉も頭を小突いて「治した私の苦労を知りなさい!寝てて」と言う。
「でも、今のままではダイヴ達が!女神様!」
いまも部屋の隅で「あの方法なら…ダメ、魔王が真似をしたらひっくり返る」と言っている女神に声をかけるが女神はルークスを見て首を横に振る。
ここでまた扉の向こうから声が聞こえてきて「あの非常識な勇者ではなく扉の向こうの勇者が元気なら拮抗、さらにもう1人居れば良かったのに残念ね」とブレスが言い放った。
ダイヴの「まだだ!まだ終わらねえ!」と言う怒声が聞こえてくるが創一と双葉は「ん?」「もしかして?」と言って顔を見合わせると頷く。
「アイン、こっちよろしく」
「ツイン、お前あっちの3人な」
双葉は再び扉から顔を出して「ターイム!」と言う。
「ちょっと!回復したりしないから少し話させなさい!」
そう言って前に出て「動かない!そのまま!」と鍔迫り合いをするダイヴとアンクレをそのままにするとフロティアに向かって「あなた!ネツト村の村民になりなさい!」と言う。
「え?」と聞き返すフロティアに「いいから返事!」と迫り「はい」と言わせると双葉は自分の変化に「よし!」と言ってダイヴとレグオにも同じ質問をして村人にする。
「アイン!そっちは!」
「事情を聞かれてた!うんって言ったぞツイン!」
この言葉と共に双葉は自分の右手を見て「うん、来た」と言うと「ターイム!選手交代ね!勇者チームに代わってネツト村のツイン行きます!」と言う。
「は?村人の貴方が装備はないとは言え四天王相手に何かできるとでも?」
そう呆れるブレスの横でバングルがキリモミで殴り飛ばされていく。
「え?」
ブレスが目を丸くして今までバングルがいた位置を見ると自分の拳を見ながら「うーん…弱いわね。4年前のサードと同じくらいじゃない。でもいいわ」と言っている双葉が居る。
「な…なんで?村人?」
「ふふ、村人舐めんなって話よ。さて、ダイヴ君達は引っ込んでてねー」
同じく目を丸くしたダイヴ達だったが言われるがままに引き下がる。
そして暫く3対1の戦いになる。
ブレスの支援、アンクレの攻撃、ネクレの魔法によって決め手が出せない双葉。
「フレイムウェイブ!」
「甘い!アイスウェイブ!」
「何故村人が我らと力比べを…」
「村人舐めんな!」
そうは言っても3対1なので双葉もキツい。
「ちょっとアイン!早くきなさいよ!」
「えぇ?ツイン楽しそうだったから俺は待ってあげて居たんだよ?」
そう言って現れる創一も一気に距離をつめるとアンクレの腹に重い一撃を加える。
「がぁ!?」
「ふむ…弱い。それなのに魔王はサードと張れる強さって言うのがまたタチ悪いね」
ドアの隙間からアインとツインの戦いを見ているレグオは真っ青な顔でルークスの横に戻って「余裕の圧勝だよ。なんだアレ?」と報告をする。
「な…勇者の親だからなんて…僕の両親はただの村人だ…」
この言葉に女神が近づいてきて「ルークス、彼らも転移者、勇者幸坂同様に転移時にある力を与えました。それが理由です」と説明をする。
ルークス達が気にした力の説明は簡単だった。
「村民最強」これにより今村が見える範囲に居るネツト村の村民よりは強くなれると言うものでルークス達を村民に迎えた事で佐藤双葉も鈴木創一も現存する村民よりも強くなって居た。
「じゃああの2人は俺より力があって」
「魔法も使えて?」
「それで勇者の技なんかも?」
「はい。しかし今日から最強等と言われて強くなれる訳がありません。彼らもまた勇者サードを鍛える形で共に訓練をして身体の使い方を熟知して居ます」
「…僕は何をして居たんだ…。勇者の才能に溺れて居たようだ…」
ルークスがそう呟いて腕で顔を覆った時、「ドシン」と言う音と共に「敵四天王…討ち取ったりぃぃぃっ!」と言う創一の声が聞こえてきた。
扉からそっと四天王を覗き込んで制圧した事を確認した村長は「うはははは!正義は勝つ!」と勝ち名乗りを挙げて、苛立ったブレスが這いつくばりながら「この…」と憎々しそうな声を上げたのだが双葉に踏まれて「伏せ!」と言われてしまっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三雄と魔王がネツトに戻ってきたのは2日後の事だった。
ネツト村では祭りの準備が終わって居て帰ってきた三雄に皆が「お帰り」と声をかける。
「皆、ただいま。勝った?」
「当たり前だろ?アインとツインがやってくれたよ」
「だから村が無事なんだろ?」
「それにあの村長の作った魔王城は凄すぎだぜ」
喜ぶ村人達はそのまま魔王に「よっ!お帰り」と声をかけて魔王が不思議そうな顔で村人達を見る。
「へへ、な?オーラが違うんだよオーラがさ」と三雄が笑うと魔王が「何故だ…、何故無事なんだ?」と唖然とする。
皆で広場に集まると普通にアンクレ達が手伝いをしていて魔王を見て「魔王様!?」と言って慌ててお盆を後ろに隠そうとするが丸見えだった。
「お前たち…」
「ひっ!?」
「すみません!」
「負けました!」
「頑張ったんです!」
怒気を放った魔王が「何故私の四天王がこんな給仕のような目に遭うのだ!」と言うと巻き上がる埃。
「バカ!飯に埃が入るだろ!」
三雄が止めに入るがそれより先に前に出た双葉が「ご飯があるんだからはしゃぐんじゃない!」と言って魔王を殴る。
殴られた魔王は三雄の攻撃以上の攻撃できりもみしながら吹き飛ぶ。
今の創一と双葉は三雄が居るので三雄以上の存在になって居た。
「ガハッ!?なんだこの人間は…日本人?」
「そうよ!同郷!アンタと同じ日に異世界トラックにやられてここに居るのよ!」
「何故魔王の私よりも強い!?」
「さあね。とりあえずアンタの部下達は私に負けてネツト村の村民だから手伝ってるの!ほら!ご飯が出来たからパーティーするわよ!」
パーティーが始まり、なぜ帰還がわかったかを聞くと、ブレス達は魔王が近くにいる事が分かると言い、きっと三雄もそこに居るからとパーティーの用意を始めていた。
「なあ、魔王はホルタウロス派?キンカー派?」
「私はウッコー派だ」
「鳥か!そっちか!」
「本来ならキンカーも美味いと思うがどうしても日本料理が食べたくなるし、私は作れない」
ここで三雄が「あ!魔王!タコだ!タコ出してくれよ!」と言い、魔王が訝しげに海で戦ったキラーオクトパスを出すと三雄が一気に倒してオーラナイフで綺麗に切り落とすと「アイン!ツイン!タコだよタコ!美味いぞ!」と言う。
「マジで!?」
「タコ刺しかよ!」
アインとツインが喜ぶと食に寛容なネツトの村人達も我先にとタコに群がる。
「くそっ…、醤油が欲しい。魔王、出せない?」
「…何?」
「ほら、人の悪い感情からブレス達を産んだならその感じで醤油作ってよ」
「…やってみる」
魔王が醤油を作ると三雄達だけではなくルークスも泣いて感謝をして「魔王!ありがとう!後はお米だ!」と言う。
「何!?」
「あー、それならさ魔物産もうぜ、なんかこう草モンスターみたいなやつで攻撃手段が 白米飛ばすんだよ!やってくれって!」
魔王は三雄のペースに飲まれたまま気がつけばライスマシンガンと言う魔物を生み出して白米をマシンガンのように放ち三雄に集めさせるとそれを炊かせる。
「うめぇ!タコ刺しご飯サイコー!」
「本当、久しぶりの白米、本当美味しい」
「魔王に感謝だな」
「本当です!」
この後も「マグロの魔物作れって!な?」と三雄に言われたり「味噌を吹いてくる魔物は?」と言われながら宴会は進んでいく。
途中で魔王は双葉に迫り、「…一個願いを聞いてくれないか?」と言う。
「私は旦那と子供も居るから変なのはダメよ?」
「そうではない。私は料理が下手なんだ。キンカーを出すからトンカツを揚げてくれ!」
「へ?いいわよ。パン粉はバトラバトルズのパン粉で良いわよね?でも前にやったけど塩は美味しいけどソースがないからつまらないのよね」
「出す。生み出すから頼む!」
こうして出来上がったトンカツは魔王は勿論村人達全員に大好評で魔王はつい笑顔になってしまう。
「魔王、醤油の他に味醂出せる?唐揚げ作りたいわ」
「ウッコーともども用意しよう」
こうしてできた料理を前に魔王は喜び村人も奪い合い寸前までいき、双葉は手が疲れたと言いながらひたすら料理を作り続ける。
「嫌でなければ食べてみてくれ、私の故郷の味だ」
魔王からトンカツや唐揚げを勧められたブレス達は恐る恐る食べて味に感動をした。
「魔王、鉄板は作れないわよね」
「鉄板?」
「たこ焼き食べたい」
「作ろう。勇者よ、鉄板は作るからお前が均一に丸型をつけろ」
「…それサイコーだな!任せろ魔王!」
こうして作ったたこ焼きも皆で楽しんだ。
腹が満ちて皆でノンビリとしながら創一が「なあ魔王、ここで手打ちにしてさ、終わらせないか?」と聞く。
魔王が返事に困ってると「ダメだって、なんでアレ俺と魔王は最後の決着をつけるんだよ、それで俺が勝てば魔王は勇者の心を取り戻したって事にして半魔王幸坂として俺たちと仲良くネツトで暮らすんだ」と三雄が言う。
「…私が勝ったらどうする?」
「そんなの死闘の果て、魔王が弱ったタイミングで幸坂が身体を取り戻したからネツトで俺たちと仲良く暮らしましたで終わらせるんだよ」
「どっちにしろお前の希望通りではないか…」
「いいだろ?これからのバトラバトルズはこう言う楽しい世界に変えていこうぜ、飯も魔王が居れば日本食も手に入るし、ブレス達も美味いって食べられたしさ、大地の汚れは美味しい魔物になってもらって食べようぜ」
「…世界を変える?」
「な?悪くないだろ?」
女神はここで異論を唱える。
「勇者サード!それでは今まで私が悩んでいたことは何になります!?」
「へ?何悩んでくれてたの?」
「あなたに言われた勇者の装備の打ち破り方です!魔王にはいくら修行をしても届きませんよ!」
ここで創一が前に出て「女神様、良いことを思いつきました。大丈夫ですよ。ここでサードに授けて魔王が覚えても平気な技があります」と言う。
「は?そんなものが?」
「ありますって」
創一は楽しそうにひそひそと説明をすると「はぁ!?そんなもので勇者の装備を身に纏った魔王に勝てるとでも!?」と言って女神が慌てる。
「サードは俺の親友で俺の息子ですよ。コイツの考えくらい手に取るように分かりますよ」
創一の笑顔で女神 は「わかりました。まあ本当に魔王が勝っても半魔王幸坂氏としてあなた方と行動を共にするのならかまいません」と言って技を授けようとするが「あ、明日教えてよ。今日は戦わないからさ。魔王、温泉作ってノンビリしようぜ。明日は浜辺で決着だぜ」と言って満腹の腹をさする。
「…つくづくマイペースだな」
「そう?魔王のマイペースは?」
「私は生まれてからずっと自由がなかった。だから何をして良いかわからない」
「成る程、じゃあさ俺が提案で魔王のペースでやろうぜ」
「…いいのか?」
「おう、ルークスもさ故郷とここを行き来して楽しく暮らそうぜ」
「いいのかい?」
「おう、今度はカツ丼食べようぜ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
浜辺には魔王と四天王、三雄と創一、双葉、それとルークス達4人と女神が訪れていた。
村人達は終わった後の宴会の為に村総出で2日目の宴会用意を始めて居た。
「なぜ浜辺だ?」
「最後の決着は仲間達の前でタイマンだぜ?」
ノリノリの三雄の代わりに創一が「あー…。魔王、仮面デストロイヤーって見てた?」と聞く。魔王は訝しげに「何?」と聞き返す。
「うちの息子大ファンなんだよ」
「…漆黒しか見たことがないな」
「マジかよ!?勿体ねえ!漆黒の後の改は?」
「ない」
「ちなみに、別シリーズの最後は浜辺の波打ち際で決闘して終わるんだよ。ちなみに決着がつかないんだよな」
「決着?それは私が勝つだろう。結局多少強くなっても我が装備の前では無意味だ」
そういう魔王に創一は「そうでもないんだよな。女神様、サードに力を授けてやってください」と言う。
「…本当にアレで勝てるのですか?」
「勝てますって。な?ツイン」
「うん。サードなら勝てる気がする」
「だが女神が力を使えば私も覚えるぞ?」
「覚えれば?良いんじゃない。見てみたいし」
この言葉で難しい顔をする魔王だったが女神が三雄に授けた能力は「技が格好良くなる」だった。
「…ふぉぉぉっ!これはまさか!」
ちょっと待ってて!と言った三雄が草むらに消えていき「おおっ!?マジかよ!!」「これなら!?ぉおぉぉっ!」と喜ぶと顔を紅潮させて戻ってくる。
そして開口一番「魔王、悪いな。俺勝つわ」と言った。
「何を言う?」
「いや、大勝利だわ。女神様マジあんがと」
女神は困惑の表情で「ええ、これで勝てれば良いのですが…」と言う。
「勝てるって!マジ感謝!行くぜ魔王!」
「…よくわからないが付き合ってやろう」
魔王は勇者の剣を抜くと殺気を放つ。
殺気は物凄い圧で三雄以外はみじろぎしてしまうが三雄は笑うと「変……身っ!!」と言いオーラアーマーを纏う。
だがオーラアーマーは今までの光った何かではなくしっかりと身体を覆う鎧になっていた。
「あ!仮面デストロイヤー是空だ!」
思わずルークスが反応すると三雄は「わかってる〜、まあ仮面は出さずに顔は俺のままだけどね」と言って魔王に殴りかかる。
その圧も威力も今までとは段違いだった。
「くっ…女神め、何が格好良くなるだけだ、しっかりと強化をしている!」
悪態をつく魔王に女神は「していません」とハッキリと言う。
魔王は再び三雄を睨みつけて「ならば私も使ってやろう!喰らえメルトボルケーノ!」と言う。
放たれたメルトボルケーノは今までとは違い豪華絢爛になっていた。
そう、豪華絢爛になっただけで威力も何も変わらない。
それなのに三雄は「究極変身!アイスエイジ!」と叫ぶと青いオーラアーマーになり「エンドレスウインター!」と叫んでアイスウェイブを放つとメルトボルケーノを凍らせる。
「くっ!?なんだその威力?エンドレスウインター!?女神!!」
「あれはアイスウェイブです。エンドレスウインター等と言う魔法はありません」
メルトボルケーノを放てるネクレは目を丸くして「メルトボルケーノをアイスウェイブで?何だよそれ?」と言い、ルークスは「凄い…」と言う。
「ルークス、仮面デストロイヤー白亜は観てた?」
「ごめん、僕は是空しか見てないんだ。後はCMで観たくらい」
「マジで!?勿体ねえ!白亜はさ恐竜モチーフでさ!ほら!恐竜って隕石で寒くなって滅んだんだろ?だから白亜も最終形態でアイスエイジフォームになって氷系の技を使うんだよ!くぅ〜カッコいい!」
はしゃぐ三雄と対照的に魔王は唖然としていた。
「ほ…本当に格好いいだけで?」
「は?すげえ大事だろ?」
魔王は剣を構えると三雄も「キター!」と喜んで「フォームチェンジ!是空!大地神!」と言うと赤銅色のオーラアーマーに姿を変えて剣まで持っている。
ただ色と形が変わっただけなのに三雄は動きから変わる。
そして格好良くなる技を使った魔王も剣を振るう度に「シャラララ〜ン」と効果音が鳴り光が舞う。剣同士がぶつかり合う音も無機質なガツガツという音から綺麗な効果音になっていてそれが魔王を苛立たせる所に、三雄が文字通り格好良くなるだけで強くなっていて苦戦までしている。
「ルークス!剣使いのデストロイヤーは大地神以外にも居るんだぜ!フォームチェンジ!剣王!」
剣王になると全身に8本の剣を纏っていて「エイトソード!」と言うと前に出て魔王に向けて縦横無尽に剣を振るう。
「二刀剣術!六連斬!」
4発防ぎ、2発で砂浜を転がる魔王に向けて三雄は残りの6本の剣を投げつける。
どれも致命傷だが勇者の鎧がそれを許さない。
だが腹立たしいのは回復時に「キュララララ〜」と効果音が鳴って身体が虹色に輝く事で魔王は更に苛立つ。
「くっそ、ジャジメントブローでトドメ刺さないとダメかなぁ」
そう呟く三雄を見て女神は創一に「なぜサードは格好良くなるだけであんなに強くなるのですか?」と聞く。
「いや、あれが実力なんですよ。でもアイツ折角のオーラが格好良くないって落ち込むしやる気削がれていたから普段は弱かったんです」
「は?普段は弱かった?アレでですか?」
「本当、いつもオーラを格好良くしたいって悩んでました。あのバカの特撮マニアぶりは本当に頼もしいけど憎らしいてすよね。泊まりのデートもニチアサだけは見逃せないってその時間は何もできなかったんですよ!本当なら素敵ホテルのモーニングに行きたかったのに彼氏が行かないでアインが代わりだったんです!」
「な、アイツってば「ニチアサの為に我慢してくれ双葉!」って言って俺には「手までなら許すからモーニングに行ってこい!」って言うしな、録画させても「録画は後で20回は観る!リアルタイムに意味があるんだ!」だからな」
「本当、あの朝のオムレツとパンケーキの味は忘れないわ」
「ツイン、顔怖いぞ。まあ言うなれば最強のゴッコ遊びです。勝てますから大丈夫ですよ」
「ぬぅあぁぁぁっ!要らん!」
魔王は装備を投げ捨てると「イライラする!」と言って三雄を睨む。
「え?勇者装備要らねえの?」
「キラキラ光るし音は出るし!邪魔だ!」
「じゃあルークス貰って着なよ」
「うん。でもいいのかな?サードが着れば強くなるよ?」
「要らねえ。俺あんまりRPGやらねえからそういう装備に思い入れないし。ほら、俺にはこのオーラ装備があれば無敵よ!」
ルークスは嬉しそうに鎧を身にまとって応援に戻る。
「魔王、オーラアーマー着てみなよ。格好いいの期待してるぜ」
「…そもそもオーラとはなんだ?」
「魔法撃つ時の奴だって」
「魔法力か?あれを物理に転換?ありえん」
「そう言うなってやれば出来るって」
この言葉で諦めた魔王は「オーラアーマー」と言って見ると真っ黒な鎧姿になる。
「ん?なんだそれ?どのデストロイヤーでもないぞ」
「サード!それ昔流行ったアニメの鎧!十二支が猫の国と戦うアニメ!卯年の鎧だ!本当は純白だったけど魔王だから黒だな!」
「アインは相変わらず詳しいのな!了解!魔王はアニメか…。これはアニメと特撮の聖戦だな」
三雄は「フォームチェンジ!是空超域!」と叫びながら前に出ると「スーツアクターさんに感謝!」「火薬師さんに憧れ!」「子供に夢をありがとう!」と言いながら魔王を殴る。
魔王は「舐めるな勇者!」と殴り返して「なんなんだこの人生は!」と言う。
「何があったんだよ!」
「ロクな人生ではなかった!」
こうして幸坂 聖と言う男が歩んできた人生の話を聞かされながら殴り合いが続く。
「親からは搾取され!」
「ロクな勤め先も見つからずに死に瀕しながら働いた!身体が痛もうが血尿が出ようが休めずに働いた!」
「同じ職場で出来た妻には裏切られた!」
「何がプラトニックラブだ!ふざけるな!」
「働けなくなれば口減らしだ!」
一通り怒鳴り散らしながら殴る魔王。
壮絶な人生に双葉も創一も言葉を失う。
わからない事も多かったバトラバトルズの人間達でも悲惨さに息を呑む。
三雄は喰らう先から傷は治り、目を丸くする魔王に「オーラアーマー是空超域の特殊効果だ、気にするな」と言った後で反撃に出る。
「何を言っても言葉は軽くなるからお前の人生については言わねえ!」
「だが良かったじゃねえか!バトラバトルズならお前を苦しめる奴は居ねえ!俺達と仲良く楽しく暮らせる!」
「持て余した力は全部使わせてやる!だから安心しろ!」
そう言って思い切り振りぬいた拳により三雄と魔王の間に距離が出来る。
「仮面デストロイヤー是空超域は究極のデストロイヤー。破壊の力でお前を倒す」
「最後の一撃か?舐めるな!」
力を込めた魔王は「勇者よ!鎧の力で周りの奴らを守るがいい」とルークスに指示を出すと三雄を見て「アトミック・ショックウェイブ!」と魔法を放った。
「フルパワー!超域全開!ジャジメントブロー!」
三雄はアトミック・ショックウェイブごと魔王を殴りつけると魔王は砂浜を転がり、大地には成敗の文字が描かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
勇者サードの活躍により世界に平和が訪れた。
サードの一撃で勇者の心を取り戻した幸坂 聖は半勇者半魔王になって帰ってきた事になった。
と言う話になっている。
三雄と勇者ルークス一向、そして魔王幸坂に女神を加えたメンバーで城に顔を出す。
当然城なんてものは出来ておらずに平民の大工達に不眠不休で城造りをさせていて三雄の機嫌は悪くなり「女神様、魔王に城造りの能力授けてよ」と言い、訝しみながらも力を授けられた魔王に三雄は耳打ちをする。
「ふっ、それはいいな」
そう言った魔王が手を翳すと城の跡地に今までよりも豪華な城が生み出された。
これに気をよくした王妃と姫に向かって三雄が「噂は聞いたと思うけど、勝負は俺の勝ち。魔王は俺達の村で暮らすから、それと魔王の時期が長すぎて完全な勇者には戻れなかったからな」と説明をする。
「大義でした」
「ええ、まだお若いのに見事な結果。勇者の装備もルークスに戻したのですね」
「まあね。で、手打ちで城は直させたから文句なしで良いよね?」
「はい。勿論ですよ」
「本当、素敵なお城ですわ」
ここで三雄は「女神様、聞いたよね?」と言い、女神も「はい…」と答える。
「その城さ、魔王に流れる力が先に行くようにしたから皆の心が汚いと屋根がキラキラ光るから」
この言葉に驚いて振り返る妃達の目には虹色に輝く屋根が見えた。
「懐かしいな」
「魔王?」
「私の若い頃に国道沿いのカップルズホテルにそっくりな建物があった。キラキラと良く目立っていた」
「ブハっ!言えてる!魔王!宿泊と休憩の料金表作る?」
「悪ノリだよサード」
「ルークスって真面目だよな。なんでルークスは異世界トラック喰らったの?」
「大学入試に落ちて予備校に行ったけど馴染めなくて辞めてきたらズドンだよ」
「うわ、俺より真面目なのに酷え」
和気藹々と話す三雄たちに苛立った姫だったが三雄が「あ!更に光が増した!やべえ!車輪つけて音楽鳴らして行進させたい!」と笑うと姫は怒りを落ち着かせる。
この話で憎らしいのは姫が怒りを収めると屋根の光が落ち着き、それを見た妃も怒りを収めると屋根の光は止んだ。
「あれ?光らないって事は王様はまともなの?」
「私はずっと感謝と申し訳なさを持っていた。この城があればあの2人も大人しくなろう」
この言葉にピンときた三雄が「もしかしてさ、お妃さんがあんなだから子供1人なの?」と聞くと王は三雄に「…婿に来るかな?」と聞き、三雄は即答で「やだよ」と言った。
三雄はパレードのメロディを口ずさみながら城下町を歩く。
ルークスや魔王を引き連れていて人目を引くが意に介さずに魔王を無事に倒して幸坂を取り戻したが魔王に乗っ取られてた時間が長いせいで半勇者半魔王だと説明をする。
そして城が光り輝くのは人の心が汚い時だから屋根が光ったらハートフルピースフルを意識するように伝える。
後は魔物達は魔王の指示で大人しくはなるけど世界の汚れだから定期的に倒して食べるように伝える。
食べ方は今度マニュアルを作って配ると言うと感謝された。
「勇者様!」
城下町の端で子供達に呼び止められる。
子供達は3つに分かれて1人は幸坂の前で「魔王に取り込まれて大変でしたか?今までありがとうございます!」と頭を下げると幸坂は真っ赤になって照れた後で泣いた。
「良かったじゃん。セイント」
「セイント?」
「お前の名前、ラッキーとセイントで悩んでセイント」
「長いからセインにする」
「ちびっ子、コイツは勇者セインだから皆に教えてやってな」
「はい!」
ルークスは変わらず女子供にモテモテで皆から感謝と羨望を集める。
そんな中、男の子は三雄に「勇者様!」と声をかけて「装備もないのにセイン様を助けたの?」と聞く。
「あま〜い、俺は俺専用の装備があんだよ」
「すごいです!見せてください!」
「あ、見る!?いいぜ!」
三雄はニコニコと男の子から離れると「変……身っ!!」とポーズを決めてオーラアーマーを纏う。
それは魔王もルークスも初見の格好でなんだかわからないと言う。
「劇場版だよ!見てないのか!?コイツは銃使いのデストロイヤー、仮面デストロイヤーブイエスなんだよ」
確かに手には銃形状の武器がある。
「オーラを放つのか?」
「おう!まあ実際は色んな弾だけどそこら辺はオーラをつかうぜ!」
三雄は意気揚々と男の子に見せると男の子は未知の銃にも驚きを見せて「僕もやれるようになりたい!」と言う。
三雄は「勿論!やれば出来る!無理なんてのは嘘吐きの言葉だからな!」と自信満々に伝えてネツトへと帰って行った。
その後…。
ネツトのメンバーは一大プロジェクトとして魔王の力を使って島を生み出した。
その島は冒険ありグルメありのネツト島として売り出し、立派な産業とする事にした。
「なあ、今度ホルタウロスフェアやってさ、冒険者に振る舞おうぜ」
「また?それなら今度は自分で倒したホルタウロスを調理から教えて食べさせた方が良くない?」
「それは見捨てられた村の皆に任せようぜ」
「それよりも新・村長の考えた最強の魔王城が突破されそうだから次の魔王城考えないと」
「だが魔王達はボヤいてたぞ?」
「本当、こんな残酷な仕掛けは思いつかないとか文句言ってたよ」
「あの…救護室を強化してくれないと私とツインさんとアンナさんとブレスさんだけでは面倒見きれないんですが…」
魔王はワイワイと相談する皆を見ながら「…一ついいか?なぜこうなった?」と三雄に聞く。結局セイン呼びは魔王を知らない人たちだけで、ネツト者達は魔王と呼んでいる。
「は?まだ言うのかよ。お前の力を存分に使える場所だろ?全部好みにしてるし魔王のタイミングに合わせてるから嫌じゃないだろ?」
「嫌ではない。だが思っていた姿ではなくてな…」
「は?だって魔王は倒されて世界は変わるだろ?女神様だって何も言わなくなったからOKなんだって」
「女神は途方に暮れて諦めた顔になってないか?」
「いいんだって、女神様は俺達を救済してくれたんだって!…まあ…若干バトラバトルズを見捨てて新しい世界とか作りそうなイメージはあるけどさ」
そう、女神は「コレジャナイ」と言って最近では何も言わなくなってしまっている。
「…いいのか?」
「それ、その気にすんのやめようぜ、気にしてダメだったらって日本と変わらないじゃんかよ!」
魔王は自分の人生を振り返りながら「そうだな」と言って力を奮った。